五七版夏の企画「クチナシ」「ね、七海! あれたべたい!」
つらつらと続いていた声のトーンが、ひときわ高いものになった。
革張りのソファに投げ出された五条の長い脚が、ばたばたと上下に振れている。そのやかましい動きが、隣に座る七海の視界の隅に引っかかる。
「あれ、とは?」
七海は目線を上げることなく問いかけた。本は今まさに佳境に入ったところだ。ここで切り上げるという選択肢は、七海のなかに存在しない。
「あれだよ! えーっと、あまくて黄色い、そう、オマエがお正月に作ってくれたやつ!」
「もしかして、栗きんとんですか?」
「そう、それそれ!」
五条のつま先がぴん、と伸びた。彼が履いている紺色のスリッパのかかとも、そのつま先の動きと連動するかのように、床に向かって真っ直ぐに垂れている。
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