暦は難しい数式や、英単語、いつ使うかも分からない昔の言葉を詰め込んだ頭も、テストが終了したことで解放された。その代わりに、頭はスケートのことで埋め尽くされた。テストだからと抑えていたスケートも、これからは夏休みだから存分に楽しめると楽しみにしていたところに、ランガの一言は衝撃だった。
「俺、この夏は一週間か二週間カナダに行くんだ。母さんと一緒に」
暦も良ければどうかな、と力強い日差しとは比べ程にならない、優しい声で誘われた。カナダ。ランガからときおり聞くその言葉は、暦から想像もつかなかった。海のさらに海の彼方にあって、きっと沖縄よりも涼しい、ランガの育った土地。
興味はあったけれども今回は、ランガの父とゆっくり過ごしてほしかった。ランガはこの地に来てから、ずっと暦がいたし、友達や仲間もいて騒がしい生活だっただろう。ランガの父に思いを馳せる暇もなかったのかもしれない。家族水入らずの、穏やかな生活を送ってくれたらいいと願った。
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