刻む音最初、床にばら蒔いた服が足音を消して、ヴォックスが部屋に来たと気付かなかった。そんで、どうもそれらの服は、さっき投げた空き缶を隠していたらしい。アルミがひしゃげる音と、ヴォックスが文句言ったのが聞こえる。それでもオレは、布団にくるまったままじっとした。ヴォックスは一度デカい音を立てたことで、静かにするのを諦めたらしい。散乱したゴミ袋をガシャガシャ言わせて、足音が真っ直ぐオレに近付いてきた。ベッドがギシリと揺れ、背中あたりのマットレスが沈む。布団越しに、くぐもった低い声が響いた。
「ミスタ、ミスタ。水を持ってきた、要るか?」
フツーに返事しようとしたら、喉はガッサガサでろくな声が出なかった。
「……いらね」
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