黄金の枷銀河の覇者ラインハルトの玉座がそびえる宮殿は、星々の輝きさえも霞ませる壮麗さで聳えていた。その奥深く、絢爛な後宮の一室に、かつての帝国元帥オスカー・フォン・ロイエンタールは幽閉されていた。叛逆の罪を犯し、瀕死の傷を負いながらも死を免れた男。その瞳には、今までとは違い運命への静かな諦観が宿っていた。
第一章:黄金の枷
叛逆の咎により、ロイエンタールが皇帝ラインハルトの裁きを受けた瞬間、廷臣たちのざわめきが大広間を満たした。金色の髪をなびかせ、氷のような青い瞳でロイエンタールを見据えるラインハルトの声は、冷たくも絶対的な響きを帯びていた。
「ロイエンタール、余は卿を後宮に幽閉する。生涯、余に仕え、尽くせ。」
一瞬、ロイエンタールの異色の双眸――青と黒の瞳――が見開かれた。驚愕か、屈辱か、それとも別の何かか。だが、彼はすぐに平静を取り戻し、深く頭を垂れた。
「は、承知いたしました。」その声は抑揚を欠き、まるで運命を受け入れた亡魂のようだった。
ラインハルトは僅かに眉を上げ、意外そうに言った。「良いのか、ロイエンタール。」
「カイザーに叛逆したこの身、いかなる処罰もお受けします。」ロイエンタールの言葉は静かだが、どこか遠く、深い淵を覗くような響きがあった。
廷臣たちの囁きが波のように広がる中、ラインハルトは薄く笑った。「何を驚く。余に女性との交わりを教示したのは、ロイエンタールではないか。」その言葉は、かつての親密な時を思い起こさせるものだったが、今はただ、冷ややかな刃のようにロイエンタールの胸を刺した。
第二章:後宮の夜
後宮の奥深く、ロイエンタールの部屋は豪奢でありながら、牢獄そのものだった。重い扉は常に施錠され、窓からは星々の光すら届かぬ。罪人として、彼は自由を奪われていた。
夜が訪れると、皇帝ラインハルトが現れた。金色の髪が燭台の炎に揺れ、まるで神話の王そのものだった。ロイエンタールは跪き、静かに問うた。
「どのような形をお望みですか、マイン・カイザー。一方的な奉仕でも、蹂躙でも、お望みのままにいたします。」その声は従順で、情事だと言うのに凪のようにないでいた。
ラインハルトは冷たく笑い、言った。「卿はそのまま感じていれば良い。余の身体を自由に触れられるのは、キルヒアイスただ一人だ。」
ロイエンタールの胸に、鋭い痛みが走った。キルヒアイス――ラインハルトの心の中心に君臨する、亡魂のような存在。ロイエンタールは代わりになろうなどとは思わなかった。だが、カイザーの心に、ほんの僅かでも自分たちの居場所はあるのだろうか? それとも、ただの駒に過ぎないのか?
「何を考えている。」ラインハルトの声が鋭く響き、ロイエンタールを現実に引き戻した。「こちらに集中しろ。」
「申し訳ございません。」ロイエンタールは頭を下げたが、ラインハルトの欲望が一方的なものであっても、彼の触れる手に高揚感を覚えていた。
「…はっ…あ…!」
罪人として、なおカイザーに求められること。それが彼の心を奇妙な熱で満たしていた。
第三章:双璧の狼の苦悩
ロイエンタールが後宮に幽閉されて一月あまり。帝国のもう一人の玉、ヴォルフガング・ミッターマイヤーは、憔悴していた。かつて「疾風ウォルフ」と呼ばれた男の灰色の瞳は、深い憂鬱に曇っていた。同僚も部下も彼を心配したが、ミッターマイヤーはただ「大丈夫だ」と繰り返すだけだった。
ある日、ミッターマイヤーは偶然、宮殿の回廊でラインハルトとロイエンタールを見かけた。ロイエンタールの手には枷が嵌められ、未だ癒えぬ傷の治療のため、僅かに外に出されていた。ラインハルトの傍らに立つロイエンタールは、かつての覇気を失い、どこか儚げに見えた。だが、その姿には奇妙な親密さが漂っていた。二人の距離は、身体的には近づいていたのだ。
ミッターマイヤーの胸に、名状しがたい焦燥感が渦巻いた。まるで鉛を飲み込んだような重苦しさが、彼を締め付けた。なぜだ? なぜこんな感情が自分を苛むのか? ロイエンタールがカイザーのものとしてそこにいること。それが、なぜこれほどまでに心を乱すのか?
第四章:決意と真実
ついに、ミッターマイヤーは皇帝に陳情する決意を固めた。彼は玉座の間に立ち、声を震わせながら訴えた。
「マイン・カイザー、ロイエンタールを解放していただけないでしょうか。代わりに、小官がどんな罰でも受けます!」
ラインハルトの青い瞳が、ミッターマイヤーを射貫いた。「ロイエンタールはそれを望まぬであろう。卿が身代わりとなったと知れば、彼は己が命を取り留めたことを後悔するに違いない。」
「しかし…! このような罰は…!」ミッターマイヤーの声は、感情に押しつぶされそうだった。
「ミッターマイヤー。」ラインハルトの声は静かだが、鋭く心を抉った。「卿は何を望んでいるのだ?」
「は…? 私はロイエンタールの自由を…」
「本当にそうか?」ラインハルトは一歩踏み出し、言葉を続けた。「卿の本当の望みは何か? ロイエンタールが余の元から自由になり、どこかへ去ることが望みか? だが、彼がこのまま余の元に留まると言ったら、卿はどうする?」
ミッターマイヤーは言葉を失った。ラインハルトの声は容赦なく響く。「卿はロイエンタールを自由にしたいのか? それとも、自分のものにしたいのか? どっちだと聞いている。」
衝撃がミッターマイヤーを貫いた。心の奥底で、何かがカチリと音を立てて嵌まる感覚があった。ロイエンタールを自分のものにしたい――誰のものでもなく、自分だけのものに。長年抑え込んできた感情が、堰を切ったように溢れ出した。
「…私は…」ミッターマイヤーは真っ青になり、言葉を絞り出す。「私は…」
ラインハルトは静かに微笑んだ。「よく考えろ、ミッターマイヤー。心の真実と向き合え。」
後宮の奥で、ロイエンタールはなおも罪人として幽閉されていた。だが、彼の心は揺れ始めていた。ラインハルトの冷たい欲望の中で感じる高揚感。ミッターマイヤーの苦悩を知らぬまま、彼は自問していた。自分達はカイザーの駒でしかないのか? それとも、罪人となってなおカイザーの傍にいられるということは、どこかで求められているのだろうか?
だが罪人となりはてた自分に何を求める資格もありはしないのだ。
物語はまだ終わらない。銀河の運命を握る男たちの心は、互いに絡み合い、解けない糸のように複雑に織りなされていた。