凍てついた湖の波紋東京の夜を切り取る高層ビルの一角、総合商社「Galaxy Nexus Global」のオフィスは、静寂に包まれていた。ガラス張りのフロアは星空を映す鏡のようで、その中で二人の男が、対照的な光を放っていた。
ミッターマイヤー、営業部の部長。金髪は陽光のように眩しく、笑顔は春風のように温かい。彼の声が響けば、フロアの空気が一瞬で和む。どんな難題の商談も、持ち前の明るさと大胆不敵な行動力でまとめ上げ、社内では「疾風ウォルフ」と呼ばれていた。だが、その溢れるエネルギーは、時に周囲を飲み込む嵐でもあった。
対して、ロイエンタールは経営企画部の部長で、黒と青の金銀妖瞳は氷のように冷たく、鋭い。その視線はまるで心を切り裂く刃だ。分析力と戦略眼で経営陣の信頼を一身に集め、会議では他部署の甘い計画を容赦なく切り捨てる。口が悪く、孤高な態度は「怖いけど有能」と囁かれていた。だが、直属の部下は知っていた。感情に流されず、誰にも公平で、厳しさの裏に部下を成長させる気遣いがある、「厳しいが頼れる上司」――その評価は、彼の仮面の下に隠された真実だった。
ロイエンタールの心は、まるで凍てついた湖のようだった。表面は静かで冷たく、誰も近づけぬように見える。だが、その下には、誰にも見せない激しい感情のうねりが潜んでいた。彼は自分を「欠けた存在」だと信じていた。完璧な戦略家、冷徹な部長としての自分は、同時に他人を遠ざけるための鎧だった。心の奥底で、誰かと繋がりたいと願いつつも、その願いを自ら否定する。なぜなら、彼は知っていた。自分は光を浴する資格がないと。
交錯する軌跡
二人が初めて肩を並べたのは、大手クライアントとの新規プロジェクトだった。ミッターマイヤーの情熱的な営業力とロイエンタールの冷徹な戦略が融合し、誰もが不可能と諦めた契約を一ヶ月で勝ち取った。社内は驚嘆に沸いた。
打ち上げの席、ビルのラウンジで、ミッターマイヤーはグラスを手に笑いかけた。「お前、あのデータ分析冴えてたな。さすがだ!」
ロイエンタールはグラスを傾け、夜景に目をやる。「ふ。ミッターマイヤーの交渉がなかったら、データなんてただの紙だ。」冷たい声とは裏腹に、金銀妖瞳には一瞬、柔らかな光が宿った。ミッターマイヤーの笑顔が、彼の心の湖に小さな波紋を広げていた。だが、彼はすぐにその波を抑え込んだ。こんな感情は、自分に許されるものではない。
その日から、二人は頻繁に組むことになった。営業部の熱と企画部の冷静さが交錯し、まるで運命の歯車が噛み合うように、どんな難題も鮮やかに解決していく。2人ののコンビは「双璧」と呼ばれ社内の伝説となり、無敵の名を欲しいままにした。だが、仕事が終われば、ロイエンタールはそそくさとデスクに戻り、ミッターマイヤーとの距離を保つ。まるで、近づきすぎれば溶けてしまう氷のように。
届かぬ想い
ミッターマイヤーは、ロイエンタールの孤高な態度に苛立ちを覚えながらも、彼の全てに惹かれていた。鋭い頭脳、部下への隠れた優しさ、時折垣間見える脆さ――ロイエンタールの仮面の下にある人間らしさが、彼の心を強く揺さぶった。彼は知っていた。ロイエンタールがどれほど自分を律し、他人を遠ざけようとしているかを。
「なあ、ロイエンタール。仕事終わりに一杯どうだ?」ミッターマイヤーは何度も誘った。笑顔で、軽やかに。だが、返事はいつも同じ。
「悪い。用事がある。」ロイエンタールは書類に目を落とし、短く答える。その声は、心の扉を閉ざす音のようだった。
ロイエンタールの心は、ミッターマイヤーの笑顔を見るたびに揺れた。彼の純粋さ、前向きさは、凍てついた湖に差し込む陽光のようだった。だが、その光は眩しすぎる。自分はそんな光に浴する資格がない。ミッターマイヤーのような人間は、皆に愛される存在だ。自分は、ただの冷たい影にすぎない。そう信じることで、彼は心の均衡を保っていた。
実力行使の夜
ある晩、大きなプロジェクトの納期前日。オフィスは静寂に沈み、時計の針は22時を回っていた。ミッターマイヤーとロイエンタールは、ガラス張りの会議室で最終確認に追われていた。蛍光灯の光が、書類とモニターに白く反射する。
「ロイエンタール、ちょっと休憩しないか? コーヒー淹れるよ。」ミッターマイヤーは椅子を傾け、いつもの笑顔を向けた。
「いらない。終わったら帰る。」ロイエンタールはモニターに視線を固定したまま、そっけなく返す。だが、心の奥では、ミッターマイヤーの声が波紋を広げていた。彼はそれを無視しようとした。いつものように。
だが、ミッターマイヤーの目は燃えていた。彼は立ち上がり、ロイエンタールのデスクに近づくと、強引に椅子を引いて向き合わせた。突然の行動に、ロイエンタールの眉がわずかに動く。
「何だ?」ロイエンタールの声に、珍しい動揺が滲む。
「いい加減、逃げるのやめろ。」ミッターマイヤーの声は低く、熱を帯びていた。彼はロイエンタールの目を真っ直ぐに見つめた。「俺はお前のことが好きだ。仕事の相性だけじゃない。お前の全部が好きなんだ。」
ロイエンタールの心が凍りついた。好き? ミッターマイヤーが? 自分を? 金銀妖瞳が激しく揺れ、胸の奥で何かが砕ける音がした。ありえない。この男は、皆に愛される光だ。自分は、冷たく、欠けた影だ。ミッターマイヤーの言葉は、凍てついた湖の表面を叩き割るように響いた。彼の心は混乱に飲み込まれる。なぜ? なぜ自分を? 彼のような人間が、こんな自分を好くはずがない。なのに、ミッターマイヤーの瞳はあまりにも真剣で、その熱がロイエンタールの心を焼き焦がす。「…バカな。お前みたいな奴が、俺なんかを好くわけがない。」声は震え、仮面の隙間から本音が漏れていた。自分でも気づかぬうちに、彼はミッターマイヤーを求めていたのだ。
「何で決めつけるんだ!」ミッターマイヤーの声が一瞬鋭くなり、すぐに抑えられた。「お前の自分自身への厳しさも、部下を、人をちゃんと見て気遣いができるところも、意外と面倒見が良いところも全部知ってる。俺はお前が欲しい。」
ロイエンタールの金銀妖瞳が揺れる。彼は立ち上がり、ミッターマイヤーから距離を取ろうとした。だが、ミッターマイヤーは一歩踏み出し、彼の手首を強く掴んだ。オフィスの静寂の中、二人の息遣いだけが響く。
「離せ。」ロイエンタールの声は低いが、脆い。心の湖が、ミッターマイヤーの熱で溶け始めていた。
「嫌だ。」ミッターマイヤーはロイエンタールをガラス窓に押し付け、顔を近づけた。夜景の光が二人の輪郭を照らす。「逃げるなら、こうやって捕まえる。」
ロイエンタールの頬に、ほのかな紅が差す。冷徹な仮面が剥がれ、動揺と戸惑いが露わになる。ミッターマイヤーはその表情に心を奪われ、そっと唇を重ねた。柔らかく、しかし確かな熱を込めて。
「…っ、馬鹿か、ミッターマイヤー。」唇が離れた後、ロイエンタールは息を整えながら呟く。だが、その声にはいつもの鋭さがなく瞳は揺れていた。凍てついた湖が、ついに溶け始めた音だった。
「馬鹿でいい。お前が俺のこと、ちゃんと見てくれるなら。」ミッターマイヤーは笑い、額をロイエンタールに寄せた。夜景の光が、二人の間に静かな約束を刻んだ。
夜の果て、情熱の始まり
結局、仕事が終わったのは午前0時を過ぎていた。オフィスの蛍光灯は半分消え、夜の静けさが一層深まる。ミッターマイヤーはデスクに背を預け、軽く首を振った。「あー、終電がなくなってしまったな。」
ロイエンタールは書類を片付けながら、淡々と答える。「タクシーを呼べばい。」だが、彼の心はまだ揺れていた。ミッターマイヤーの告白が、凍てついた湖の底を攪拌し続けていた。自分が彼に求められているという事実が、信じられないほどに胸を締め付ける。
ミッターマイヤーの唇に、笑みが浮かぶ。「それより、もっと良いことがあるぞ。」彼はロイエンタールの腕を掴み、半ば強引にオフィスを後にした。夜の街を抜け、近くのホテルへと向かう。ロイエンタールは抗う素振りを見せたが、その足取りはどこかためらいがちだった。心の奥で、彼はすでにミッターマイヤーの熱に身を委ね始めていた。
ホテルの部屋に入ると、ミッターマイヤーは扉を閉めるや否や、ロイエンタールを壁に押し付けた。突然の行動に、ロイエンタールの金銀妖瞳が驚きに見開かれる。だが、ミッターマイヤーは迷わず唇を重ねた。熱く、貪るようなキス。ロイエンタールは一瞬硬直したが、その熱に抗えず、ゆっくりとキスを受け入れた。心の湖が、完全に溶けていく感覚だった。こんな自分でも、ミッターマイヤーには必要とされている。その事実が、彼の胸を熱くした。
キスは次第に深くなり、ミッターマイヤーの唇がロイエンタールの息を奪う。「んっ…はぁ…」ロイエンタールの声が漏れ、普段の冷徹さはどこにもなかった。彼の心は、ミッターマイヤーの情熱に飲み込まれ、初めて感じる解放感に震えていた。
「ミッターマイヤー…何を…?」ロイエンタールの声は震え、戸惑いが滲む。だが、その声には、どこか期待が混じっていた。
「わからないか?」ミッターマイヤーの声は低く、しかし優しく響く。「俺はお前が欲しいって言ったろ。」
ロイエンタールは目を逸らし、唇を噛む。「…いや、でも俺は…」心の奥で、なおも自分を否定する声が響く。自分は欠けた存在だ。ミッターマイヤーのような光に相応しくない。だが、その声は、ミッターマイヤーの次の言葉でかき消された。
「俺が嫌か?」ミッターマイヤーの目が真剣にロイエンタールを捉える。
「そんなわけない!」ロイエンタールの声が思わず高くなる。「お前はいつだって正しくて、眩しくて…俺の憧れだった!」その言葉は、彼の心の奥底から溢れ出た本音だった。ミッターマイヤーの光に、ずっと憧れていた。自分には手が届かないと思っていたその光に、今、触れられている。ロイエンタールの胸は、驚きと喜びで満たされた。
ミッターマイヤーの目が柔らかくなる。「…ロイエンタール。じゃあ、いいよな?」彼の声は、まるで約束を確かめるように穏やかだった。
ロイエンタールは小さく、こくんと頷いた。心の湖が、完全に溶け、ミッターマイヤーの熱に委ねられた瞬間だった。
「ベッドに行こう。」ミッターマイヤーはロイエンタールの手を引き、ベッドへと導いた。二人は再び唇を重ね、互いの服を脱がせ合う。布が滑り落ちる音が、静かな部屋に響く。ミッターマイヤーはロイエンタールをベッドに押し倒し、その白い肌を見つめた。「綺麗だ…お前、どこもかしこも綺麗だな。」
「やめろ…そんなわけ…」ロイエンタールは恥ずかしげに顔を背けるが、ミッターマイヤーはその頬に手を添え、視線を絡ませる。ロイエンタールの心は、こんな言葉を受け入れることにまだ慣れていなかった。だが、ミッターマイヤーの真剣な瞳が、彼の不安を溶かしていく。
「いや、綺麗だよ。」ミッターマイヤーの声は確信に満ちていた。彼の唇がロイエンタールの首筋を滑り、胸の頂きに辿り着く。そこを軽く食むと、ロイエンタールから小さな声が漏れた。ミッターマイヤーは舌と指で丁寧に味わい、さらに下へと進む。ロイエンタールの陰茎に触れると、甘い吐息が部屋に響いた。ロイエンタールの心は、ミッターマイヤーの触れるたびに高鳴り、自分がこんなにも感じること、求められることに驚きながら、快楽に身を委ねた。
ロイエンタールが一度達すると、ミッターマイヤーはその熱を利用し、後孔を丁寧にほぐした。その間も、ロイエンタールの口から途切れ途切れの声が漏れる。ミッターマイヤーはその声に煽られ、自身の欲望を抑えきれなくなる。彼がロイエンタールの中に入ると、ロイエンタールの声は一層高くなった。ミッターマイヤーは我慢できず、ロイエンタールを激しく穿ち、二人は情熱の波に飲み込まれた。互いの熱が交錯し、果てた瞬間、二人は愛を確かめ合った。ホテルの窓から差し込む光が、二人の絆を静かに祝福していた。ロイエンタールの心は、初めて完全に解放され、ミッターマイヤーの光に浴していた。
新たな地平
それから二人の関係は、ゆっくりと、しかし確かに変わっていった。ロイエンタールは依然として冷徹な部長として君臨するが、ミッターマイヤーと二人きりの時には、心の鎧を脱ぐ瞬間が増えた。彼の凍てついた湖は、ミッターマイヤーの熱で温まり、かつてない安らぎを感じていた。ミッターマイヤーはそんなロイエンタールを愛おしく思い、仕事でもプライベートでも彼を支えることを誓った。
社内では、「双璧」のコンビが無敵の成果を上げ続けていた。だが、誰も知らない。深夜のオフィスで、そして夜のホテルで交わされた二人の約束が、彼らの絆を星のように輝かせていることを。