夢に咲く徒花「ーーー……赦鶯」
女の声がする。
「赦鶯」
世界で一番愛しい女の声が。
(……夢か)
幾度となく見た夢……微笑む愛しい女の面影。
優しさを湛える瞳、艶やかに靡く黒髪。
懐かしい顔、恋しい声。
「赦鶯」
二度と逢えないはずの俺の恋人。
柔らかな微笑みで、優しい手つきで……俺の頬に触れるその温かな感触は、彼女が確かに"生きている"と感じさせてくれた。
「どうして助けてくれなかったの?」
睦言を囁くような声色で、慈愛すら感じさせる微笑みで、恨み言を口にする彼女。
その"姿"は俺の"記憶の中の彼女"と何一つ変わらなかった。
緩やかに近づく微笑み、弧を描く唇……
そう、まるで口づけを交わす刹那のようなーーー
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