冷たい手足を磨きましょう 「ガエリオ様、もう大丈夫です。結構です。」
「いいや。まだまだだ。」
むぅ、とむくれる姿も可愛らしいと思われているらしい。雨のせいで散歩に行くことも出来ないから、暇で仕方がない、と言われて、話し相手になっていたうちに。
せっかくだからと金属でできた俺の手足を外して、丹念に磨き始めてから、たぶん、1時間は経っていると思う。
自分で出来るのに、と再三断ったのに、
「たまには、いいだろう?」
と嬉々としてタオルやらクリーニングクロスやら歯ブラシやらを用意していった。
動けないから、しぶしぶ磨かれていく自分の手足を見つめるしかない。
「楽しい、ですか?」
「あぁ。モビルスーツの整備が、懐かしくてな。よし、これで左足は大丈夫だな。後でつけてやるから、おいておくぞ。」
そういった彼の判断は正しいかもしれない。退屈で仕方がない俺は、きっと蹴りだしてしまうだろう。
横に置かれた自分の左足に目をやると、不機嫌な自分の顔が映るくらいに完璧に磨かれているのが分かった。一度やったら、気のすむまで完璧にやりこんでしまうのは、昔からのこの人の癖みたいなものだ。
違う。触ってほしいのは冷たい手足なんかじゃなくて、俺の方だ。
貴方に触れているときだけ、俺は温かくなる。冷たい半分に、貴方が触れると火がともったみたいに、人間に戻れるんだ。
そんな気がする。