くつ下のはなし 冬のある日、ネロはくつ下を片手に内心とても焦っていた。
――どうしよう。ファウストを怒らせちまった。
理由は分かっている。本当に、些細なことだった。
ネロがファウストの家で生活をするようになったのは半年ほど前からで、今ではほぼ半同棲しているような状態が続いている。
それこそはじめの方はキッチンを使わせてもらうのもなんだか気恥ずかしくてどこか遠慮がちだったのに、今ではネロの買い集めた珍しいスパイスや調味料が一角を占めていた。
それはキッチンに限った話ではなく、ファウストのクローゼットにはネロのための棚が用意されているし、洗面所には二本の歯ブラシが仲良く並んでいる。
少しずつ順調に前に進んでいると思っていた。それなのに。
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