「しかし友よ、俺がしばらく来ないうちにお前たちの拠点には随分面白いものが増えてるじゃねえか!ちょっと見て回ってもいいか?」
「悪いが、それは許可できない」
「さっきも言ったが、俺たちが今後も良い関係を続けるにはお互いを信頼することが必要だ。ってことで、そんなにすぐ断ることはねえだろ。俺の繊細な心が傷つくだろうが。ちょっとでいいんだ、ちょっとで」
「……これまで、我々はこの大地を巡り、感染者のために活動してきた。おかげでこの組織の規模は、最初と比べれば随分と大きくなったが……。それでも、我々にはどこかの議員や軍、企業の後ろ盾があるわけではない。……まあ、そんなものは必要ないが。ともかく、我々は慎重に行動する必要がある。お前だから断ったというわけではない。……それに、相手を信頼するのなら何もかもを見せるべきだと言うのなら、お前もその頭のものを取るべきではないのか?」
「おっと!こいつは1本とられちまったか?こいつの中は企業秘密なんだ。……確かに、親しい関係だったらなんでもかんでも相手に見せないといけないなんてことはねえ。相手が嫌だと言ったらすっと退くべきだ。自分の欲求を押しつけるばかりじゃ良き友とは言えねえ。ちゃんと相手の意思を尊重しないとな」
「納得してもらえたのなら何よりだ」
キャノットが大袈裟な身振り手振りと口調で話し、それに対しナインは表情をほとんど変えることなく、冷静に返す。
どちらも相手のペースに全く影響されることなく、自分のペースで会話し続けている。
Guardは2人のそんな様子に感心しながら、キャノットには半分呆れながら、2人の会話を聞いていた。
しかし、ふと隣に立っているレイドは今どんな風にしているのかということが気になった。
レイドはキャノットに会う前から、そして、会ってからも全く彼を信用しておらず、彼が自分たちの拠点に入ることにあきらかに不満そうだったからだ。
Guardが横目でレイドを見ると、あいかわらずキャノットのことを強く警戒しているようで、じっと彼を見ていた。
そんなレイドの様子に、Guardは自分と彼が初めて会った時のことを思い出す。
今のレユニオンは、チェルノボーグでの一連の出来事が終わった後、Guardや幻影射手たちと、ナインやクラウンスレイヤーの部下たちが出会い、合流したところから始まったと言える。
その時、ナインのグループにいたのがレイドだった。
基本的には、レイドは落ち着いた態度で他人と接する。
あまり激しく感情を出すことはないし、口調も穏やかなものだ。
それに、当時のGuardは微妙な立場だったとはいえ、半分はレユニオンのようなものだった。
したがって、今キャノットに向けているような、あからさまな不信感や警戒心をGuardに向けることはなかった。
しかし、Guardがレイドと話す時、自分と彼との間には見えない壁があるように感じられたし、彼がそういう感情をはっきりと向けてこないからこそ、壁の存在がより意識させられるような気がした。
とはいえ、レイドが壁を作っていたのはGuardだけではない。
幻影射手たちに対してもそうだったし、レイドにとって初対面だった人々に対しては全てそうだった。
レイドがさきほどキャノットに会う前、Guardに話したように彼は「付き合いは慎重に考えるタイプ」ということなのだろう。
それは単なるレイドの性格というだけでなく、軍人だった頃に身についた習慣なのかもしれない。
しかし、しばらく経つと、レイドはGuardにも、幻影射手にも、他の人々にも打ち解けた雰囲気で接するようになった。
レイドはよく本を読み、ラジオを聞いているので、今日ラジオで何を話していたか、これまで読んで特に面白かった本や役に立った本は何かといったことを教えてくれたり、 ウルサス軍にいた時のことを話してくれたりもした。
Guardは、レイドはクールな人物のようで、感染者の立場をより良いものにするということに対して強く、熱い気持ちを持っていることや、自分の刀の腕にかなり自信があることなどを知った。
レイドがいずれ、キャノットとも親しげに話すようになることはあるのだろうか?
そうでなくても、もう少し柔らかい態度になることはあるのだろうか?
Guard自身もキャノットのことはいまいち信頼しきれていないのだが。
しかし、実際、今のところキャノットはレユニオンに不利益になるようなことはしていない。
理由はよく分からないが、キャノットのレユニオンに対する期待や、支援をしたいという気持ちは本物なのかもしれない。
ならば、レイドとキャノットが親しくなることもありえないことではないのかもしれない。
―いや、やはり可能性は低いか?
だが、もしかつての自分に、レイドとお互いに背中を預け、冗談を言うような仲になったと話したとしたら驚くだろうし、そうなるまでに一体どれだけかかったのかと思うのではないだろうか。
「Mr.Guard、どうしたんだ?」
「えっ?」
急にキャノットに名前を呼ばれ、慌ててGuardは彼へ意識を向ける。
「いや、随分ご機嫌なように見えたからな。Mr.Guardも俺たちの友情が深まったことに喜びを感じているのかな?」
ひょっとして自分は笑っていたのだろうか?
からかうようなキャノットの言い方に、Guardは気まずくなって視線をそらす。
すると、レイドも不思議そうに自分を見ていることに気づいてしまった。
「深まったか?」
「深まっただろ。新しい取引をして、さきほどお互いの価値観のすり合わせもしたからな」
「……お前がそう思うのならそれでもいいが」
「おいおい、冷たい言い方じゃねえか」
ナインとキャノットが何やら話しているが、あまり耳に入ってこない。
顔も熱い気がする。
Guardは思わず自分の顔を片手で覆った。