宗斎メモ②あんな優しい目を向けられたのは初めてだ。相手を愛しむような眼差しは、最初は少しむず痒かったけど、だんだんと心地のよいものになっていた。「愛される」ってこういうことなのかなあ。
だけどある日、その視線が自分に向いたものではないことに気付いた。彼の人が見ているのは自分であって自分でない人。当時はああ、やっぱり、と何度目かの諦念を抱きかけたものだ。けれど諦めたはずなのに、あの眼差しがどうしても忘れられなくなってしまった。
僕だけのものにしたいな。昔の想い人なんか忘れて、僕だけを見てくれたらいいのに。そんな昏い欲望が、自分の中で次第に大きくなっていった。
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