転送機バグ 一九九六年、夏。
夏休みになり、セミもうるさく鳴いているある日。コンビニ帰りの最中。ふいに人の気配を感じて日の当たらない路地裏を覗き込んだら、誰かは知らないけれど人が倒れていた。俺は慌てて誰かに助けを呼ぼうとしたのだけれど、その人影――男が動いて俺の手を掴んだ。
「……ごめん、人呼ばないで」
「だって、傷だらけじゃないか」
頬にも腕にも擦り傷や切り傷がある。よく見れば高校生だろうか。小学生の俺よりずっと背が高い。何かいかついゴーグルを額にはね上げ、学ランの上にポケットのたくさんついたカーキ色のベストを着ている以外は普通の人間なのに、どこか、何かが違うと感じた。男は「よいしょ」と言って路地の壁を背に座り込む。俺は不思議とその男に興味を惹かれた。
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