手紙が届いた。
差出人の名前はない。
センリが珍しいくらいに悲しそうな顔で渡してきたので、大方予想はついていた。
ウツシ教官へ、と書いてある宛名には見覚えがある。癖のない綺麗な字は、あの子のものだ。柔らかな紙をそっと開き、中身を読み始める。
拝啓、ウツシ教官。
これを読んでいるということは、恐らく私はこの世にいないのかもしれません。
ちゃんとご飯を食べていますか?
ちゃんとお休みしていますか?
教官は私には口を酸っぱくして言うけれど、時々自分をないがしろにするので、心配です。
私がいなくても、お休みしてくださいね。
それと――
読んでいけば、それは自分を心配する弟子の言葉で……自然と目から涙が零れ落ちていく。まるで彼女が今の自分を叱っているかのような錯覚に陥って、ウツシは思わず乾いた笑いが漏れた。
だって、この世にはもうあの子はいない。
ある日唐突に、彼女はこの世から消えたのだ。
「あぁ……あぁ」
思わず力の入った手は、くしゃりと手紙を歪ませて。落ちた涙は手紙の文字をぼやけさせていく。
こんな未来があってたまるか、と勢いに任せて振るった腕は、近場にあった湯呑を倒して、中から水が零れ落ちた。
「なんで、どうして……!!」
あの子が、どうしてあんな目に合わなきゃいけないのだ……!
『教官へ、大好きでした』
最後に書かれた手紙の言葉は、幻聴となってウツシの耳朶に響いていく。
ぽたり、と畳に涙が落ちて――濡れたまつげが、ゆっくりとしたを向いた。