紅玉を臨む 潮風亭の高い屋根の上。夕焼けに染まる紅玉海をウツシはただ見つめていた。眼下では花街から呼び込みの声が掛かり、提灯には灯かりがともりはじめる。
ひんがしの国で唯一、異邦人たちと交流のあるクガネという街は、ウツシ達にとって混沌極まるような場所だった。
そもそも、彼らは強大な魔物のせいで、暫く外界との交流を絶っていた里からやって来たのだ。いわゆるお上りさんというやつである。
魔物がようやっと討伐され、平穏が訪れて暫く。比較的背の高いウツシよりも、更に背の高い巌のような里長に命じられ、外の世界を知るために、まずは異国と交流のあるクガネにやって来たわけだ。
幸い、魔物と戦っていたせいでそこらへんの傭兵よりも腕が立つし、環境の変化にも人一倍強い。故に――
「あ、教官やっと見つけた!」
「やあ、愛弟子! 楽しかったかい?」
「はい! 小金通で情報も仕入れられました!」
「それは僥倖」
故に、ウツシとその弟子が選ばれたという訳だ。
ウツシと同じ乳白色の角を夕焼けに染めて、少女は嬉しそうに笑う。手にはお金をたらふく食べたであろう袋が一つ。
「まさか教官のお面が売れると思いませんでした」
「えー……」
同じ里で育った二人は、忍の術を会得した師弟同士だ。
互いに切磋琢磨しているのだが、まさか少女の方に商売の交渉術があったのは驚きだ。
「まぁ、カゲロウさんに鍛えてもらったので」
「カゲロウさんなら仕方ないか」
ひんがしの国にはめったにいない、エレゼン族の行商人の顔が浮かぶ。どうやら外の世界で損しないよう、もろもろ伝授していたらしい。くすくすと笑って少女はウツシの隣に座る。
空は夜の帳が降りて、星が輝き始めていた。
「ここからラザハン経由でエオルゼアというところに行けるそうですよ」
「へえー、昔外から来た人が言っていたね」
「はい、なんでもいろいろな人が住んでいるのだとか」
二人で夢を語り合い、海を眺める。時折ウツシが少女の角に自身の角をこすり合わせれば、くすくすとくすぐったそうに笑われた。親愛の行為は、一見すれば戯れのように見える。だが実際は他の種族にとっての接吻だ。
「外の世界は、どんな感じなんでしょう」
「百聞は一見に如かずだね。でも、君となら大丈夫」
そう言ってウツシと少女は、屋根の上から飛び降りた。
俄かに騒がしくなりはじめた街の喧騒を聞きながら。