恋の遺書 拝啓、愛する貴方へ。
これを読む機会はないと信じておりますが、それでも気持ちの整理として書かねばならないのだろうと思い、筆を執っています。
思えばいつでも世話を焼き、私が辛い時もずっとそばにいてくれましたね。時々、料理を失敗しても笑って作り直したり、誰かを守るために必死に狩猟技術を考案したりと、常に背中を追っていたような気がします。
だからこそ、初恋は貴方でした。
けれど、同時に叶わぬ恋だと思っていました。
何分年齢に差があり、私が恋心を抱いても、貴方は幼い時の気の迷いだと伝えてくれると思ってしまったのです。初恋は叶わないというのは、恐らくこういう事を指すのだと、幼いながらにも感じてしまったものです。
この恋心はそっと隠して、仕舞い込んでおきます。
あなたのお嫁さんになる人はきっと綺麗で、あなたの事をお持ってくれる人だと思います。
私は、私にできることを……里のために――あなたのために戦おうと思います。
ウツシ教官、大好きでした。
少女は羞恥心からか耳どころか首まで真っ赤にしながら、床の上で悶えている。その姿はさながら幼虫のようだ。普段であれば可愛い可愛いと愛でるのだが、今のウツシにとっては面白くない。
「で、初恋は叶わないって?」
「あうあうあう……」
思わずドスの効いた声で言ってしまったが、古龍を相手取る少女にとって、イズチの鳴き声にしか聞こえないだろう。だが、羞恥を煽るには十分だったらしく、布団の中に籠城しようとしたので、上掛けを即座に回収した。
「なにするんですかー!!」
「こんな恋文どころか遺書みたいなもの出てきた俺の心境を考えてよ!」
「普通に叶わないと思うでしょうが!」
こんの初恋キラー! と少女が叫ぶ。そんな称号は知らないが、名誉あるものではないのは確かである。
そもそもの発端は少女の家に件の手紙が落ちていた事だ。家の掃除でもしていたのか、床に落ちている紙を悪いと思いつつ拾い上げ読んでみたら「愛する貴方へ」ときたもんだ。戦闘時以外は呑気なウツシだが面白くない。全文を読んで少しほっとしたものの、内容は死地に行く戦士が送る内容そのもので、帰って来た少女が気づく前に問い詰めたのである。
正直なところ、少女の気持ちもわかるのだ。
ナルハタタヒメを討ちに行くとなったときのウツシの心は、嵐のように暴れ狂っていたのだから。少女の遺書めいた恋文だって理解できる。けれど――
「俺の心は君だけだから、未来永劫君以外の綺麗なお嫁さんはいらないよ」
ウツシが他の誰かに現を抜かすのではないか、という事実だけは、どうしても受け入れがたかった。それなら冥婚してやるというのがこの男である。
「ねえ、愛弟子」
「はう……」
未だに羞恥からか床に転がっている少女を抱えなおす。彼女の左手には、異国文化溢れる銀の指輪がはまっていた。
「今度はちゃんと俺に恋文を書いてよ
遺書じゃなくて、愛しているっていうやつ」
そういえば、少女は真っ赤な顔をして言うのだ。
「だったら、教官からの愛もくださいな」