カムラの里からハンターがやって来た。
製鉄技術のためにロンディーネが王国から派遣されていたのだが、まさか製鉄技術ではなくハンターを推薦してくると思わなかった、というのが本音である。とはいえ、百竜夜行のすさまじさは聞き及んでいるし、なによりもその原因となっていた古龍を倒したのであれば、エルカドにやってくるのも納得だろう。
猛き焔と呼ばれる逸材が、どのような人間なのか……想像もつかないが、きっと屈強な男なのだろう。と勝手に思い込んでいた。
そんな事をお持っていたアルローの元にやって来たのは、少女と呼んでも差し支えない乙女だった。
「よろしくお願いします!」
と武器を担いだ少女は、少々不安げに挨拶をする。里の外に出たことがないらしく、他人に挨拶をしたことがないのだろう。これで本当に倒せるのか、疑問に思う人間もいそうだが、その内包された力と目はひどく強く輝いていた。
「ずいぶんと穏やかな目をしたやつが来たな」
「そ、うですかね?」
えへへ、と花のように笑う少女は、随分と愛されているようだ。軽口を叩けば――一瞬、本当に一瞬だけ背筋が凍り付くような殺意がアルローを支配する。
恐らくわざとだろう。カムラにはとんでもない奴がわんさかいると聞いていたが、これをやっているのが、自分よりも若い男だから猶更恐ろしい。今は見定めている途中なのだろうが、あれが敵であったのなら、アルローの命はとっくになかっただろう。
「なぁ、カムラの里の教官さんよ!」
だから、屋根の上にいる男に声をかける。途端に霧散する殺気に内心ほっとするが、目の前にいる少女はひどく驚いた表情を見せていた。
「な、なんでいるんですかー!!」
独り立ちがどうの、とか俺と君は師弟だからね! とか、忘れ物がーとかいろいろ言っているが、急に旅立つ羽目になった少女を連れ戻しに来たというのが、アルローの見解だった。
とりあえず藪はつつきたくない。とりあえずさっさとカムラに一度帰れと促せば、ウツシは少女を荷物のように担いでさっていった。
「ありゃ、巣を守る雷狼竜だな……」
くわばら、くわばら。内心カムラやユクモに伝わる雷避けのまじないを唱えながら、アルローはガレアスの元に向かう。どっかのバカがカムラの至宝に手を出さないように、釘を刺しに行かねばならない。
とはいえ――
「若いって恐ろしいな」
これからの伸びしろに笑いながら。