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    ねたりおきたり

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    2025年5月3日
    SUPER COMIC CITY 32/超忍FES.2025の無配です。
    現パロの竹←孫、竹谷が中三、伊賀崎が中一です。
    竹谷のことを上手に見つけることができる伊賀崎の話。

    そういう魔法 放課後のしずかな廊下をゆったりとあるきながら、ときどき立ち止まって考えるそぶりを見せて、経路を選んでいく。
     竹谷を捜してきてくれないかと言われたのは、部活動──伊賀崎は生物部に所属していて、竹谷もまたおなじである──の真っ最中で、ちょうどメダカの水槽の掃除を終わらせたときだった。
     三年生は受験に向けて部活動を引退した時期ではあるが、竹谷はそんなことはおかまいなしに毎日のように部活に顔を出していた。けれど今日は活動場所の理科室に姿を見せなかったので、めずらしいこともあるものだと思っていた矢先のことだ。
     生物部の顧問である木下が渋い顔をして、悪いが竹谷を捜して、自分のところにくるように伝えてほしいといってきた。どうして自分が、というのはもう考えなくなった。はじめは木下も、伊賀崎以外の部員や同級の生徒などにもそういう頼みごとをしていたのだが、どういうわけか伊賀崎だけは毎回必ず竹谷をみつけてくるので(ほかの人間だと五回に三回くらいの割合でどこにもいないと言ってもどってくることが多かった)、いつしか竹谷を捜しにいくのは伊賀崎の役目になっていた。
     階段までたどり着くと悩むことなく段を下りていく。さがすといっても竹谷の居どころというのはおおむね決まっている。

    1.理科室
    2.園芸部の畑
    3.体育館の裏

     この三か所に潜伏していることが多いので、どれかをあたればだいたい捕まえられるのだ。ただし理科室は部活中以外のときに限る。ごくまれに、用事もなさそうなのに図書室にいることもあったのだけど、今日はちがうだろうと自分の勘が言っていた。なので、今日はほぼ二択だ。
     一階までくだりきり、体育館に通じる渡り廊下のほうへ行く。渡り廊下のなかほどで道をそれて、体育館の外周をぐるりと反時計まわりに進む。
    「竹谷先輩」
     体育館裏の茂みでうずくまる背中に声をかけながら、のしのしと近づいていく。木下先生が呼んでましたよ、と言ってその横にしゃがみこむ。うん、と生返事をする竹谷の足もとには、茶色の毛と黒の縞模様をもった猫がいた。
    「どうしたんですかこの子」
    「こないだ見かけてさ、散歩コースなのかなあ、ときどきここにきてるみたいなんだよな」
     猫は竹谷になでられるのをじっくりと味わっているみたいに目をとじて、ときどきぱたりと尻尾をふった。なつっこいからつい会いにきちゃうのだという、竹谷の顔はふにゃふにゃとしてしまりがない。
     伊賀崎がそっとその鼻先に指をさしだした。猫は薄目をあけてふんふんと嗅いだあと、ふたたび目を閉じた。たぶん自分も許されたのだろうと合点して頭をなでてやると、期待どおりおとなしいままでいる。
     かわいいかわいいと言いあって、ふたりで猫をかまった。しばらくして、ここに猫をなでにきたのではないだろう、とはたと気がつく。
    「先輩、木下先生が呼んでますけど」
     もういちど、ここへ来た目的を果たすための呪文を唱える。竹谷はぎゅっと顔をしかめていやそうな顔をしたあとに、わかったよ、とため息をついた。
    「孫兵がきたなって思ったときから、そうだろうなって思ってたんだよ。なんでか木下先生、おまえにおれのことさがしにこさせるだろ」
     すん、と興奮が冷めたようになった竹谷は、うらめしそうに伊賀崎を見る。何度も伊賀崎に見つけられ、連行されたという事実には気がついていても、その理由までは知らないらしい。まあそれもそうだろう。いい機会だから話してしまおうか、と、だってそれは、と口をひらく。
     だってそれは、ぼくがいちばんうまく先輩を見つけられるからです。
    「だからどこかにいる先輩に用事があるときは、先生はぼくに捜索をたのむんですよ」
     知りませんでしたか、と首をかしげた。竹谷はうろんな視線をむけてくる。なんだそれ、そういう係ってこと? としらけたようにしながら、でも困惑したように訊いてくる。
     竹谷先輩の捜索係。結果的にはそうかもしれないが、そもそも前提がまちがっている。伊賀崎が竹谷を見つけることに長けているのは、竹谷に会いたいという気持ちがあるからなのだ。
    「先輩に会いたいなあって思うと、どこに行けばいいかなんとなくわかるんです。そうやって先輩を見つけてこられた実績が評価されて、だいたいいつも、ぼくがさがしにきてるんです」
     だからまあ、係といえばそうかもしれないですね、とひとりでうなずいていると、竹谷に鼻で笑われる。なんかもうちょっとましな理由はないのかと、信じていない口ぶりだった。信じてませんね、と逆に問うと、だってそれで信じるわけないだろ、と歯牙にもかけない。猫はあいかわらず、ふたりの足もとで丸まっている。
    「なんていうか、先輩に対して鼻がきくっていうか、そんな感じなんです。たぶん、先輩のことが好きだからこういう才能にめざめたか、能力が開花したかってところだと思うんですけど」
     そう補足みたいなものをして、信じてくれませんか、とけっこうまじめな顔をして竹谷の目をのぞきこむ。
    「信じるっていうか……ていうか孫兵、好きとかなんとか変なこと言うなよ」
     なんかドキッとするだろ、と自分がなにかをしたわけでもないのに、ばつが悪そうに目をそらす。変なことなんて言ったかなときょとんとしてしまう。
    「だめですか」
    「いやだめじゃないけど、なんかこう、変なふうに考えちゃったから」
    「へんなふう?」
    「ほら、付き合うとか付き合わないとか、そういう感じの」
     しどろもどろに弁明をするような竹谷の回答に、ああ、と声あげる。恋愛としての好きを向けたらだめなんだろうか。しかしまさしくそうなので、もしだめだと言われてしまったらちょっと困る。
     そこでぴたりと会話をやめてなにやら考えこんでいる伊賀崎に、まあわかった、とりあえず信じるから、と言って竹谷が立ちあがる。そろそろ行っとかないとめちゃくちゃ怒られそうと苦笑した。
    「もうもどるけど、孫兵は?」
    どうする? と訊かれ、もうちょっとこの子をさわってから行きますとこたえてしまう。並んで歩いていくのが、いまはすこし心苦しい。わかったとうなずいて、呼びにきてくれてありがとな、と律儀に礼をいうと竹谷は校舎へ歩いていった。そういえば今日はなにをして(あるいはしていなくて)、先生に呼ばれているのだろう。
     猫がちいさく鳴いた。催促されるままになでてやると、上機嫌でのどを鳴らしだす。
    「……おまえはいいね、先輩が会いにきてくれて」
     ゆったりと大きく尻尾をふった。いいだろうと自慢げであるようにも見えたし、そんなことはどうでもいいと無関心でいるようにも見えた。
     先輩のことを誰より上手に見つけることができて、それはある種の才能か、あるいは特殊な能力なんじゃないかと思っていた。
     会いたいと願えば見つけることができるのだ。これはすごいことであったはずなのに、どうしてだかなんとなく虚しくなってしまった。見つけるだけではなにもできないし、どうにもならない。
     先輩もぼくのことを好きになってくれたらいいのに。
     竹谷をうまく見つけられるようになったみたいに、そういう魔法でも使えるようにならないだろうか。もちろん自由意志であるほうがなお良いが、魔法があったらすがりたい。
     伊賀崎はおおきく息をつく。猫は、我関せずという顔であくびをした。
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    ねてる

    DONE2025年5月3日
    SUPER COMIC CITY 32/超忍FES.2025の無配です。
    現パロの竹←孫、竹谷が中三、伊賀崎が中一です。
    竹谷のことを上手に見つけることができる伊賀崎の話。
    そういう魔法 放課後のしずかな廊下をゆったりとあるきながら、ときどき立ち止まって考えるそぶりを見せて、経路を選んでいく。
     竹谷を捜してきてくれないかと言われたのは、部活動──伊賀崎は生物部に所属していて、竹谷もまたおなじである──の真っ最中で、ちょうどメダカの水槽の掃除を終わらせたときだった。
     三年生は受験に向けて部活動を引退した時期ではあるが、竹谷はそんなことはおかまいなしに毎日のように部活に顔を出していた。けれど今日は活動場所の理科室に姿を見せなかったので、めずらしいこともあるものだと思っていた矢先のことだ。
     生物部の顧問である木下が渋い顔をして、悪いが竹谷を捜して、自分のところにくるように伝えてほしいといってきた。どうして自分が、というのはもう考えなくなった。はじめは木下も、伊賀崎以外の部員や同級の生徒などにもそういう頼みごとをしていたのだが、どういうわけか伊賀崎だけは毎回必ず竹谷をみつけてくるので(ほかの人間だと五回に三回くらいの割合でどこにもいないと言ってもどってくることが多かった)、いつしか竹谷を捜しにいくのは伊賀崎の役目になっていた。
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