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    anztoz

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    ブリデの無配 持ってけアド薫

    ##作文

    先に食べ終わり、空になった食器を前に頬杖をついて、薫は目の前でハンバーグを頬張っている後輩を眺める。
    よく食べる彼のために沢山用意した大きめのハンバーグ。
    半分は明日の朝食用に取っておくつもりだったが、何度も唱えられるアドニスの「おかわり」によってほとんどなくなってしまった。
    明日の朝ごはんは別にして、辛うじて残ったハンバーグはお弁当にでも入れようか。
    そんなことをぼんやり考えながら、薫はもくもくと口を動かしているアドニスを見つめた。

    薫に、こうして人が食事をしているところをまじまじと眺める趣味はない。しかしアドニスは別だ。
    学生の頃から幾度となく食事を重ね、彼が食している物も店で出されるスイーツから自分が作った肉料理に変わった。
    それでも彼の頬張っている姿を見つめる眼差しは、何一つ変わっていない。

    「今日は一段とよく食べるねぇ」
    「む」

    その頬いっぱいに料理を詰め込んでいる姿はどこか小動物を思わせるようだった。
    体は大きいのになぁ、と笑えば、アドニスは不思議そうな顔で薫を見つめ返す。
    口にものを入れながら喋ってはいけないというルールを守るように、アドニスは放り込んだ最後の一口を全て嚥下してから喋り出した。

    「今日の仕事はかなり体力を使った」
    「あのスポーツバラエティのやつでしょ?帰りたての君、お腹減りすぎてすごい顔してたもんね」
    「そんなにすごい顔をしていたのか」
    「そう、なんか…この世の終わりみたいな」

    いつの日か、空腹は何よりも辛いと言っていたアドニスを思い出す。
    彼の放つ「腹が減った」という単語には自分まで食われてしまいそうな程の重みがあり、二人で出かける時も薫はよく気にかけていた。
    自分まで食われそうというのは色事の例えでもなんでもなく、本当に胃に収められそうという意味で。

    「そんなにお腹減ってたなら我慢しないで寄り道して食べてくればよかったのに」
    「いや、この空腹は先輩の料理で満たしたかった」
    「ふふ、そっか」

    同棲し始めてから更に掴んだ胃袋は、アドニスを真っ直ぐ家へと返す理由になっていた。
    薫はいつかお金に困っても食費だけは削りたくないと思っているくらいに、アドニスの食事を大事にしている。
    年々増える収入に、まだその心配はいらないかな、なんて笑いながら。

    「君があんまりにも美味しそうに食べるからさ〜…最近俺もよく食べるようになっちゃったんだよね」

    薫は以前、アドニスが出ているグルメ番組を見たことがある。
    語彙力が乏しく、食の偏りが無い彼は番組内でほとんど 「うまい」しか言っていなかったが、どうもその幸せそうな顔がかなりウケたらしい。
    以来グルメ番組からのオファーも増え、アイドル雑誌で定期的に行われている恋人にしたいランキングに彼がランクインする理由に「自分が作ったご飯を美味しそうに食べてくれそうだから」が現れ始めた。

    「それはいい事だ。いっぱい食べて強くなれ」
    「いや、ただ食べて終わるなら太るだけなんだけど…」
    「そういえば先輩、最近体重が増えたのではないだろうか」
    「えっ!も、…もしかして太ったってわかる…?」

    アドニスの言葉に、薫は咄嗟に頬や腹を摘んだ。
    実際幸せそうなアドニスにつられて食事量の増えた薫は、それに伴い少しだけ体重も増えていた。
    ただ数字で見ない限りでは誰も気づきやしないというレベルだったはず。
    それでも毎日自分を見ているアドニスが言っているのなら、目に見えるほど太ってしまったのかもしれない。
    アイドルとしては死活問題だ。

    「いや、別に見た目は何も変わっていないが…」
    「えっ?じゃあどういう…」
    「……なんでもない。これ以上はやめておこう」
    「何?!その切り方気になるんだけど?!」

    薫は席を立ち、反対側にいるアドニスの方へと向かった。
    一人分にしては少し大きめの椅子に座っているアドニスを尻で半分押し退けて、自分も座る。
    何か言いたげな様子のアドニスにくっついて、袖を引っ張った。

    「なに、言ってよ」
    「…あ、あまり大きな声では言えないというか…」
    「じゃあ小声でいいからさ」
    「…」
    「ほら」
    「うっ」

    薫がアドニスの脇腹を人差し指で突くと、くすぐったそうに身をよじった。案外彼が頑固なところも、くすぐりに弱いということも知っている。
    薫は中々口を割らないアドニスをつんつん、つんつんと執拗に突っついた。

    「や、やめてくれ、羽風先輩っ」
    「君が言うまでやめないよ」
    「わかった、わかったから…」

    しばらくして観念した様子のアドニスが、薫の肩を抱いてグイッと引き寄せた。
    彼の急な行動に薫がうわぁっ、と小さく声を上げる。
    そしてアドニスは二人以外誰もいないというのに、薫の耳元にそっと囁いた。

    「その…一昨日の夜……上に乗られた時、前より少し重くなったような気がして…」
    「…は、」

    女性に向かって言ったならば、デリカシーがないと平手打ちされそうなセリフだった。
    だが薫は男だ。逆にアイドルを稼業とする者としては体型や肌質に変化があったなら言ってほしいくらいだった。
    ただ、その気付き方は如何せんどうなのだろうか。
    はぁ、とため息を吐いて、改めて薫は一昨日の晩を思い出す。
    確か、上に、乗った。そうか、あの時か。

    「……アドニスくん、俺は男だからいいけど…そういうのは……女の子に言っちゃダメだからね……」
    「俺の上に乗るのはあなたしかいないだろう」
    「いや謎にキリッとしないで?!あと今後一生俺だけでいいから!」

    はぁぁ、と更に大きな声を出して薫は机に突っ伏す。
    腕に頭を乗せながらアドニスを見上げれば、だから言っただろうと言わんばかりの目と視線がぶつかった。

    「…も~しばらく乗らない…」
    「なぜ」
    「重くなったって言われたらやだもん」
    「普段のあなたは細すぎるくらいだから、別に気にしなくていいと思うが」
    「俺が細いんじゃなくてアドニスくんが太いの」
    「むぅ…」

    細すぎる、なんて言っているが実際薫とアドニスはほとんど体重が変わらない。
    それなのに体の太さが違うわ軽々しく持ち上げられるわで、薫としては本当に同じくらいの体重なのか不思議に思っているところがあった。
    この体重及びその他身体情報に関しては自己申告制ではなく、しっかりと身体測定された上での結果だから尚更だ。

    「羽風先輩」
    「なに?」
    「上に乗った方が運動になりそうだと思うのだが、どうだろうか」
    「うん?!うん…まぁ、そう…」

    アドニスくんからそんな言葉が出るなんて、と驚いている薫をよそに、アドニスはテーブルの上の食器を全てまとめてキッチンへと持っていく。
    本日の皿洗い当番である彼が食器をガチャガチャと水に浸ける音を聞きながら、薫はため息混じりにもたれた。
    自分がよく言っていたせいなのか、アドニスも下世話なことを言うようになってしまった。
    お陰で身が持たなくなってしまったのは自業自得としか言えないだろう。
    初々しくてかわいかったアドニスはどこへやら、すっかり“かわいい後輩”から“立派な彼氏”になってしまった彼をキッチンカウンター越しに見た。

    「羽風先輩」
    「ん~?」
    「運動しよう」
    「そ、そんな…アドニスくんからそんなおじさんみたいなセリフ聞きたくなかったな〜…?」

    皿を浸け終えたアドニスが、タオルで手を拭きながら薫の方へとやってくる。
    テーブルに手をついて、椅子に座っている薫に軽くキスをした。

    「…いいよ、俺が太ったのもアドニスくんのせいだし、責任とってもらおうかな」
    「俺のせいにされて…いや、俺のせいにされておこう」

    アドニスは薫が座っている椅子を少し後ろに引いて、薫の正面へと入る。

    「え、あ、もう行くの」
    「あぁ」

    さっきより少しだけ余裕のなくなっているその顔に、薫は微笑んだ。
    薫はこの、宣戦布告のような、逃さないように射止めるような、強くて鋭いアドニスの眼差しが好きだ。
    期待に逸る鼓動を抑えて、ん、と手を伸ばせば、ベッドに連れて行っての合図。
    薫の甘えに応えるように抱き上げて、アドニスは寝室へと歩き出した。
    決して小さくはない恋人を軽々と抱き、短い道のりを歩いて行く。

    「やはり少し重くなっている気がする」
    「いやぁ、よく気付くよね、君」
    「まぁ、毎日のようにこうして抱き上げ…歩いた方がよかったか?」
    「この距離じゃなんも変わんないから!」

    降ろさないで!とより一層強く抱きついた薫の頬にキスをして、寝室のドアを閉めた。
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