タイトルどうしような 薄明の空に、紫色に焼けた雲がたなびいていた。主張し始めた星々の光を妨げることのないよう、細く痩せた月が控えめに閃く。一日の終わろうとする家並みを彩る小夜鳴き鳥の囀りに、面はゆい記憶を呼び起こされたアッシュはすだち屋へと続く道の途中で思わず足を止めた。いつも手伝ってくれるムラビトへの手土産にと渡されたカートの畑の野菜が重たく感じる。こめかみを抑えて、アッシュは深い溜め息を吐いた。
サイショ村の家々の窓に一つ、また一つと明かりが灯り、野菜を炒めるにおい、魚を焼くにおい、様々なスパイスの香りが漂ってくる。そのにおいにつられたのか、家路を急ぐ子供たちの甲高い声が響き渡った。扉の向こうに消える全ての小さな背中を見届けて歩みを再開する。子供たちを見ていたら、アッシュも早くすだち屋に帰りたくなったからだ。
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