無変調 朝4時の空みたいだ。俺よりも長い時間を生きて、俺よりもいろんなものを見てきた天彦の瞳。天彦の瞳は、昼間の空と言うより、もっと、誰にも教えたくない感情とか、過ごし方を間違えた夜を越えた朝とか、そういうものを含んで僅かに光る朝4時の空に似ていると思う。
「ふみやさん」
俺の視線に気付いた天彦が微笑んで、目が細められる。天彦のベッドに腰掛ける俺の隣に腰を下ろす。なんでこんなにいい匂いがするんだろう。天彦はいつもいい匂いがするけれど、二人きりでいるときが一番いい匂いがする。チョコレートとか、キャラメルの匂いより好きな匂いができるなんて思ってなかった。
あ。天彦の手が頬に触れる。これは。キスされる。反射みたいに目をぎゅっと瞑ってしまう俺を見て、天彦が「ふふ」と笑った。あれ。唇が来ない。
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