手の平の温度時雨ちゃんと火垂屋店主の何気ない会話(妄想)
手の平の温度
「…ずっとおもってたけど、あんたの手って冷たいよね」
商品を受け取りながら時雨はぼやいた。
「魂魄の使い方とか最初に教えてくれた時から思ってたんだけど…冷え性とか?」
こてんと首をかしげながら火垂屋を商っている店主を見つめながら時雨は常日頃から気になっていた疑問を口にした。それを言われた店主たる男はもう既に商品がない手をそのままにしたまま少し固まる。
「なにを言ってるんだお前は…?」
「だって、あんまりにも冷たすぎるし、寒くないのかなって」
私も雨ノ四葩にいるときは手は冷えるけどさーと普通に会話を続ける時雨に、いつもの姿勢に戻りながら店主は少しだけ眉間にしわを寄せた。本当にこの娘は何を言っているんだと思い。
「…冷たいから、なんだっていうんだ、何か問題でもあるのか?」
「大ありでしょ!ここ雨ばっかり降ってるし穢れもそうだけど風邪とか引いちゃわない?体調悪くなったりとかしたら大変じゃん!」
「あぁ、俺がここに居なかったら困るという話か」
「違う違う!普通に私は心配してるの!」
本当にこの娘は何を言っているのだろう。…店主はフッと小さく笑い。呆れた。
この雨ノ四葩においてまさか他人を心配するなんて、なんて間抜けなのだろうと。
「なに、その笑い…」
「いや、自分が何回もこの異界で死んでいるのに…他人の心配なんてな」
フッ…フフ…といつものように笑いながら呆れた目を店主は時雨に向けた。
時雨は「あ」と小さく声を上げてから、手をポンと叩いた。
「そっか、たしかに?…ここでは風邪とかも引かない…とか?そうだよね、病気になるバイキンとかないかもだし…」
「…突然いらぬ心配なんてして、何を考えているんだ」
「え、だって、あんただって人間じゃん?」
病気と続いて出てきた「人間」という言葉に、店主は少し目を開いた。
時雨はさも当たり前のように話しており。うーんと少しうなりながら、また口を開いた。
「いっつも!手がさー、冷たいから心配になったけど、そっか、大丈夫ならいいかな」
そろそろ行かなきゃ、ヤクモさんに心配かけちゃうし、と呟きながら、じゃあねと時雨は店主に手を振りながら鏡へ向かって歩いて行った。
火垂屋店主を人間だと認識しているという言葉を残して。
「フッ…ハハッ…俺はまだ…」
最後に店主が何と言ったかを聞かずに時雨は鏡を潜った。
だってあの男が奇妙な事を呟くのはいつもの事であったから。
手の平の温度