Metamorphose「いつもより楽だった」
宿にたどり着くなり、ヒュンケルが興奮気味に言った。
「すごいな、変化の術は」
少々上気したその横顔は、見慣れた白とはかけ離れている。
ラーハルトは、はしゃいでいる相棒を一瞥して荷物を下ろす。
「もってあと数十分だ。何が嬉しいのか分からんが、せいぜい楽しめ」
半魔と人間のコンビが魔界の街を通り抜けるのは、なかなかに難儀だ。
興味津々の地元民に尾行されたり、あからさまに悪意ある連中に取り囲まれたり。まったく逆に、人間を珍しがる気のいい連中に酒宴へと誘われたり。
世話好きの魔導士が分け与えてくれたへんげの杖とやらは、結構役に立った。
魔族の外見に化けたヒュンケルは、薄闇色の肌ととがった耳を愛おしそうに撫でている。
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