二月のある日 少しだけ周りの人々の空気がどこか浮き足立っているような、二月。
大学の構内で親友の姿を見つけてエリヒはゼノン、と彼の名前を呼んで駆け寄った。それからゼノンが持っているものに気付いて、エリヒはあ、と声をあげた。
「チョコレートもらったんだ」
「ああ」
「俺も知ってる人?」
「いや…俺も知らなかった。多分同学年だとは思うんだが」
ゼノンの手にはピンクを基調にした可愛らしいラッピングの箱が収まっていた。ゼノンにチョコレートをあげたのはどんな子だったんだろう。見てみたかったし話してみたかった。友達になれそうな気がする。
「なんだよそんなに見つめて。お前もしかしてゼロか?」
「いや、たくさん貰っちゃって」
「…………自慢か」
「ち、違うよ。ただゼノンと食べようかなと思って…ほらウイスキーとかと合うって聞くから、今夜」
うちでどうかな、と誘うと、ゼノンはじいとエリヒを見つめてきた。何か用事があったのだろうかと返答を待っていると、急にぐいとエリヒの背負っていたリュックが引っ張られた。それにより体勢を崩してゼノンに倒れかかるような形になってしまう。戸惑いながらも見上げれば至近距離にゼノンの顔が近付いていて、彼の褐色の肌は舐めたら甘いのだろうか、とくだらないことを考えてしまった。
ゼノンはエリヒのリュックを開けて中身をチェックしているようだった。
「こんなにチョコレート貰っといて、告白だのデートの誘いだのはなかったのか?」
「あー、うん、誘われたけど、それよりゼノンが家に来れるんだったらそっちのほうが楽しいなと思って」
「…………それ、相手に言ったのか?」
「いやまだ確定してなかったから普通に断ったけど」
「…ああ、それなら、まあ」
ゼノンの手を借りて体勢を立て直し、エリヒは首を傾げる。ゼノンはそんなエリヒの様子を見てため息をひとつついた。
「お前、俺に外でキスするなとか色々言うけど……お前も相当だよな」
「え、なに?」
「変な噂されないか心配になる」
「何のこと?」
聞いてもゼノンは答えてくれず、ただ面白そうににやりと笑うだけだった。そのまま持っていたチョコレートの箱をリュックに仕舞うと、エリヒの手を取って歩き始める。
「行く。とりあえず酒見に行こうぜ」
「あ、よかった。うん」
よく分からないがゼノンの機嫌は良いらしい。それが嬉しくなって、エリヒは駆け足でゼノンの隣に並んだ。