未定 おめでとう、親愛なる旅のお友達。
きみの努力は報われた。冷徹なる女王は崩御し、妖精國は跡形もなく滅び去った。
とはいえきみも知っての通り、この世界はいつだって、往生際の悪い残響が響くもの。この黄昏の理想郷だって例外じゃあない。まあこれも、きみならもう慣れたもの、骨身に沁みたことだと思うけれどね?
いつだって、素晴らしい劇であればあるほど、再上演を望む声が響くものだって。たとえそれが、演者にとっては台本さえ目に入れたくないような駄作だとしても。
──だからこれは、小さな答え合わせまでの幕間。
きみであれば、喜んで付き合ってくれるだろう?
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夜のとばりの差しかかる、極光の茜色。薄墨色の雲のカーテンが、空が眠り切る間際に見せる幻想の景色を彩っている。
突き抜けるような黄昏だった。
思わず感嘆の声をこぼすと、視界いっぱいに雪のような影が注がれる。
「おはよう、微睡みのきみ。佳い夢は見られたかな?この妖精王の膝を枕にしたのだから、さぞや素晴らしい午睡を堪能したと思うけれど……どうかな?」
にっこりと、美しい微笑み。真っ白なお忍び衣装の王子様に背筋が凍りつく。
「ご、ごめ……ッ!」
慌てて飛び起きると、肩からぽさりと何かが滑り落ちる。思わず混乱の声を漏らすと、彼はくすりと笑みを深めた。
「いいさ、気にしないで。僕がやりたくてやったことなんだ。それよりも、まだ寝ぼけているんじゃないだろうね。今日の任務は覚えてる?」
どうも、今日のオベロンはきらきら王子様の気分らしい。普段ならこの姿でも滲む冷たさが形を潜めている。
……でもまあ、そんな日もあるだろう。この森の記憶が、彼に何かしらの感傷を起こしたのかもしれないし。そこを掘り起こすのは野暮というもの。
それに、今はもっと重要な問題がある。
──特異点の残滓に検出されたしみ。
今は亡き妖精國の幻影に顕れた、三つの兆し。
その通り、と彼は首肯する。
本来ならこんなことはあり得ない。だって妖精國は、そのさいごの一欠片まで奈落の虫が呑み干した。黄昏の理想郷の全ては永遠に落ち続ける。
だから、これはあり得ざる断章だ。
おそらくは、あの妖精國が異聞帯という「上に重なったもの」であり、特異点という「人類史の歪み」であるという複数の在り方をしているがゆえに起きた、奇跡の事故。