目は口ほどに物を言う。
トレーナーを見ていると、その言葉がとてもよくわかる。契約を結んでしばらくの間はまるでカルガモの子どものように私について回って、必死に話しかけてきていたが……元来のトレーナーは口数が少ない。私としては静かでちょうどいい。
ちょうどいい、が。
「……」
放課後のトレーナー室。走り込みを終えてソファで休んでいると、視線を感じる。この部屋にいるのは私とトレーナーだけだ。
トレーナーは次のレースに向けてのトレーニング内容を練っているらしいが、ペンが動く音は少し前から止まっている。
たまにするのだ、あいつは。何も言わないくせに、妙に渇く視線を私に向けてくる。私がそちらを向けば、きっとあいつはなんでもないふりをして作業に戻るだろう。
他の生徒たちからは優しいだとか話しかけやすいだとか評されてるが、あいつの根はそんな甘いものじゃない。穏やかに振る舞ってるだけだ。
ーーブライアンは負けないよ。誰にも。
トレーナーにそう言われた時。あの時、私は私を信じきれなかった。だがあいつはーートレーナーは、微塵も私が負けることなど考えていなかった。それどころか勝利を信じきっていた。いや、勝利どころではない。あの瞳に宿していたものは、もっとぎらついた……
「ブライアン?」
「っ、なんだ」
声をかけられ、ハッとした。窓から見える景色はだいぶ暗くなっている。
「そろそろ帰ろうか」
送るよ、と立ち上がるトレーナーに先程までの気配はない。いつものトレーナーだ。いつもの、取り繕った。
「トレーナー」
それが妙に苛立たしくて、片付け始めたトレーナーに詰め寄ると驚いた顔をして後ずさるのだから、余計だ。壁際に追い詰められたトレーナーは困惑した顔をしている。視線が私や周りを見て、ドアへと移る。
逃げるつもりか。私から?
舌打ちをし、ドアへの視線を塞ぐように壁に手をつくことでようやくトレーナーは私と目を合わす。困惑、その下に隠しているものを引きずり出してやる。