レイシーちゃんと密猟者狩り(前編) この前禁じられた森の中を探索中、結構規模がでかい密猟者の溜まり場を見つけた。
ってことでだ!
いざ密猟者狩りをするにしてもまず人手が足りない。
双子の姉シャルロットは頼りになるから連れて行くとして、誰を私との秘密のデートに誘おうか……。
とりあえず、友であるセバスチャンを誘ってみよう。
除け者扱いしたらすぐ拗ねるからな。
「――で行くか?どうする?」
「行くに決まっているだろう!君達だけでそんな場所は危険だ」
セバスチャンがとても心配そうに言う。
はっ?
そんな場所?
密猟者の溜まり場がか?
いつも行っているんだが?
……まぁ、いい。
セバスチャンにご丁寧に伝えたところで意味がない。
私はそれほど、自分のことを双子の姉以外に知ってもらおうとは思っていないからな。
「これは驚いた。貴方が私とのデートにオーケーするとは」
「デートって言うな、気色悪い」
オエェ、と声を出して渋い顔をする。
おやおや、本気で嫌がっている。
やはり面白い奴だなセバスチャン。
「まぁ、そうカッカするなよ相棒」
そう言いながら、セバスチャンの肩に手を置いてみる。
予想通り、俺の手を弾く素振りを見せてきた。
可愛い奴め。
「で?規模がでかいってなら人手が欲しいんだろ?僕を誘うぐらいだからな。なら、丁度僕にアテがある」
「ほぅ。誰なんだ?」
「スリザリン寮生の女子だよ。名前はレイ・ステイシー。僕はレイシーって読んでいる。君と僕と同学年だぞ」
「同学年?……うーん。私はその女性と会ったことあるか?」
「ははっ。無理もないね。彼女はいつもフラッとどこかに移動しているから、たぶんすれ違いで会ってないんだと思う」
まるで双子のシャルロットみたいな女だな。
もしかしたら、フラフラ同盟で姉の方が知っているかもしれない。
「ふーん。で?彼女はどのぐらい腕が立つ?」
今回は素人を連れて行くほど、余裕が無さそうだからな。
「安心してくれ。彼女の戦闘技術は凄い。特に炎の魔法はな。彼女の炎を見てみてほしいよ。あれはある意味芸術だから」
……ふーん、なるほどねぇ。
「そんな大層お強い女性が、果たして今回のツアーに付き合ってくれるのかな?」
「そこは大丈夫だ。彼女は好奇心の塊だからな。僕が事前に彼女に誘ってみるよ」
ーーーー
予定時刻である夜の、とある森の中。
雨が降ることなく空気も澄んでいて、夜の星空鑑賞には最適な環境だ。
正直言うと、雨は降っていて欲しかった。
雨は何かと消してくれて便利だ。
気配も視界も、自身の匂いと血生臭い匂いも。
まぁ、たまにはこういうのも悪くない。
「待ってたよセバスチャン。それに……レイ・ステイシーさんだっけ?」
私はいつも通り、相手の片手を掴んで相手の目を見ながら甲にキスをする。
こうすることで、相手の反応を見れるからな。
その数秒の出来事でも、多様な情報が眠っている。
それに、初対面ってのは重要だしな。
「私はシャルドネ・デ・フォールって言います。本日は私との夜のピクニックにご参加頂き、誠に感謝いたします」
「あら、ありがとうシャルドネ。ふふっ、レイシーで構わないわ。敬語も無しで大丈夫よ、よろしくね」
彼女の反応はというと、動揺せず恥じることはなかった。
それに、笑顔を絶やさずにハキハキと話している。
……これは、なんとも珍しく面白い女性だな。
その笑顔の奥深くに眠っている開かずの宝箱には、一体何が隠されているのだろうか……。
まぁ、俺にとってどうでもいいが。
「あははっ、やっぱり来ていたのね!」
レイシーは双子のシャルドネに会えたのが余程嬉しかったのか、姉にガバッと抱きつきに行った。
「あら、それが噂の刀?ふふっ、ルティちゃん頼もしいわ〜。今晩は私のナイトになって〜」
ナイトという言葉にはしゃいだ姉は、ノリノリでレイシーに騎士の誓い擬きをしていた。
シャルロット……今日も可愛いな。
……ってか、今なんとおっしゃったかい?
ルティ?
双子である私だけが知っている愛称だと思っていたのだが……。
そんだけ彼女に懐いているのか……。
ふーん、侮れんなぁ。
ウ"ッと誰かが呻く声が聞こえてきた。
セバスチャンだ。
何故か顔が赤く照れていた。
「シャルロット……君は……いつにも増して……なんかこう……服が……」
くっ!
セバスチャン、貴様というやつは!
どうせ、姉の戦闘服に目が入ったのだろう。
今日の姉は、黒いタートルネックに黒くてパツっとしたズボンだからな。
いつもより姉のくびれラインが分かりやすくなっている。
「見るな、スケベサロウ」
俺はすかさず、シャルロットが見えないようにセバスチャンから視界を遮った。
「あ"?なんだよその名は!失礼な!」
「それ以上、まじまじと観察するならギャレスと組んで君を鍋でコトコトと煮込んでやる」
「……ったく……で?シャルドネ、俺ら4人だけで本当に大丈夫か?君達3人は規格外に強いのは知ってい――」
「――4人だけじゃないぞ」
「?!オミニス!君も呼ばれたのか?」
ふふっ。
やっと最後の招待客であるオミニスがやって来た。
「オミニスには始めの挨拶という1番重要なことをしてもらおうとね。こういうのは位の高い人にやってもらわないと」
「シャルドネ、何訳の分からないこと言ってるんだ?」
「まぁまぁ、さっそく星見がてら行きましょうか。ほら上を見たまえ。この満点の星空を……」
「そんなに綺麗なら、今頃どこかでアミットがはしゃいでいるだろうな」
オミニスが軽く笑いながら言う。
「ふっ、それもそうだな。アミットなら、星に見惚れてましたーなんて言いながらパジャマ姿で授業に遅刻してきそうだ」
セバスチャンもオミニスの意見に同意する。
「ふふん、ふふ〜ん〜」
レイシーはというと、本当にピクニックにでも行くのかというぐらいのテンションでスキップをしていた。
――――
目的の場所付近に到着した俺らは、茂みに隠れて息を潜んで作戦を練り込む。
「……で?シャルドネ、どうするんだ?」
「そうだ、俺は何をすればいい?」
そう聞いてきたオミニスに、俺は彼の腰に片腕を伸ばし側に引き寄せる。
「この前シャルロットが偵察に行ってくれた時、レベリオ対策を施した服を奴らは身に着けていたことが分かった。だから……蛇を使う」
「俺の出番か。……なるほど、これが君の言う始めの挨拶って訳か」
そう言いながら、オミニスはススっとレイシーの近くに逃げ込んだ。
つれないなぁ。
「そうそう。ご理解を頂けて光栄です」
「じゃあ……[サーペンソーティア]」
[………………(蛇語)]
「……凄い」
シャルロットは彼の蛇語は初めてみたから、感動で目がキラキラと輝いていた。
――――
しばらくした後、オミニスが送りつけた蛇が帰ってきた。
「…………入り口に数人、上からの監視が4人……奥にあるテント内に会場があって、閲覧客も多いらしい」
「はっ、だと思ったよ。……シャルロット、お願いしてもいい?」
早速、メジャーピースを動かす時が来たようだ。
「……1人で突っ込むのか?!危なすぎる!」
セバスチャンが小声でそう叫ぶ。
「……大丈夫、任せて」
シャルロットはそう言いながら、自身に目眩し術ををかけ行動に移した。
さぁ、これから姉のショーが始まる。
まず入り口付近に小石を投げ、1人目の獲物を外に呼び寄せた。
そして1人目をCQC(近接格闘)でダウンさせる。
ダウンさせている間にも、近くに居た獲物たち2名をペトリフィカス・トタルスでダウンさせる。
2人目3人目。
流れ作業のように。
あぁ……。
いつ見ても思う。
姉の身に纏う空気が戦闘に入る途端、急にガラッと変わるあの瞬間が俺は好きだ。
こんなことを思うのは俺だけじゃない。
そよ風とともに静かに流れているような、水面の上を撫でるように踊る彼女に、誰だって我を忘れて見惚れてしまうはずだ。
俺が見惚れている間でも彼女は止まらない。
開いた扉の中にスルリと音を立てることなく転がりながら侵入する。
そして流れるように、異変に気付かない間抜けで哀れな仔羊たちを次々とダウンさせていく。
姉は彼らに、一呼吸も許さない。
その姿はまるで、優しく人々を悪夢へと誘う堕ちた天使のようだった……。
――――
ギィ……。
しばらくすると扉が徐に開いた。
セバスチャンとオミニスが杖を構えて警戒する。
「皆……終わったよ」
扉から出てきたのは予想通りシャルロットだった。
「え?もう?さっき入ったばかりじゃないか」
セバスチャンはまだ警戒しているのか、小声でそう話しかける。
「戦闘音も聞こえてこなかったが?」
オミニスも少し疑うように話しかけた。
「おっ先!」
レイシーはというと、彼らとは違いルンルン気分で裏口扉に向かっていた。
「何君ら?姉を信じてないのか?ほら、行くぞ」
仕方ない。
疑心的な彼らのために、俺が会場に連れてってあげようか。