降伏を宣言した瞬間、部屋の空気が少しだけ緩む。
四人の中で唯一しっかりした意識を保っていた甲斐田は素早く術を練り、死角を縫うように式を飛ばした。
意識を失い縛られている二人、満身創痍をとうに越え倒れ伏すリーダー、そして視線を一身に集めている自分。この状態の自分たちに救援を出すのはあまりにハイリスクだ。けれど何もしなければ待っているのは死だけ。
きつく締められた手錠に顔を顰めつつ、拠点のある方角を見やった。
無造作に引きずられていた身体から一瞬重力が消え、しかし投げられた本人がそれを認識する間もなくまた長身が床の上を跳ねる。既に痛みが飽和した五体からくぐもった呻き声が漏れた。
さんざんに嬲られ牢に放られてなお返される反応に、黒服たちの間で不快感を上回る不気味さが広がっていく。
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