砦の日々 1◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……お前、あいつに懸想しているのか?」
「は?」
確かに獄炎の親友を名乗る魔族はやたらと奥方様奥方様と気安いのだが、生憎こちらには全くそのつもりがない。思いもよらぬ疑惑にムッとしながら聞き返す。
「先日の件ならお話したとおりですし、大体貴方の前以外でお話することはありません。そもそも私自身は全くあの方に良い印象がありませんが」「本当か?」普段ならそうか、で済ませる話に今日は随分絡んでくる。
嫉妬かどうかもはっきりしない上にありもしない疑惑を投げられるのは癪に障る。
「そこまで私の言葉が疑わしいのであれば、他の者に聞いてみればよろしいのでは?」
ぐっ、と向こうも顎を引く。配下に聞くのはさすがに矜恃に関わるだろう。
空気を読まずに隣を通りかかったブリザードの襟首を掴んで持ち上げる。ひゃあ!と情けない声を上げてブリザードが一瞬一回り大きくなった。
「少し頭に血が上ってらっしゃるのでは?冷まして差し上げます」
ブリザードの背をぽん、と叩くと冷気のブレスが主人に向かって吹き出した。
瞬きをすると皮膚の上で張った薄氷がぱらぱらと落ちていく。
「さ、あっちにお行きなさい」
済まなそうに小さくなるブリザードを下ろしてやると、気の毒そうに何度か主人を振り向きつつもそそくさと逃げていく。
ブレスをかけさせた本人はそのまま小さくふん、と鼻を鳴らすと、奥にいる使い魔のほうへつかつかと歩み去ってしまった。
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