消えゆく泡のような髪が伸びてから、ヒムの様子がおかしいことは気がついてた。
たとえば、あんなにくっついていた親衛騎団から急に距離を置いたり。
時々とても寂しい顔をする。
本人に聞いても「そうか?」なんて言うばかりで、わたしからも少し距離を置いているみたいだ。
部屋に呼んだのはそんなわけで。
閉じたドアの前でヒムは立ったままだ。
「どしたの?入りなよ」
ああ、と言って数歩近づいて、そのまま止まってしまった。
「その姿と、関係ある?」
「あ?」
「最近、寂しそうなの」
「別に寂しくねえよ」
「おいで」
ベッドの上で両腕を広げる。まるで恐る恐る、といった感じでヒムが隣に座り、ぎゅっと抱きしめてきた。
大きい彼に抱きしめられると小さいわたしはすっぽり収まってしまう。
わたしはこの空間が好きだった。
「……帰りたくねえな……」
ぼそりと呟きが頭の上から降ってくる。
どこへ、とは聞けなかった。
わたしは帰んなくていいよ、とだけ言って、広い胸板に唇をよせた。