Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    S4yanbaltype

    @S4yanbaltype

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 30

    S4yanbaltype

    ☆quiet follow

    ナイトくんにレックスさんの色が移る回

    鮮やかな侵食「い、色移りしたァ!?!?」

     レックスの大声に微かに眉を顰めるナイト。その髪は、いつもの透き通るような銀色ではなく、鮮やかなピンク色。鋭く冷たい視線を携えた瞳は、青色でなくエメラルド色に染まっていた。


     ある夏の日の早朝、スマホに2代目からの着信を受けたレックスは、「怪獣か!?」と慌てて電話に出た。

    『いえ、怪獣ではないんですが……来ていただけますか!』
    「え?あっ、おう!」

     幸いにも怪獣の襲撃ではなかったようだったが、やたら切羽詰まった2代目の声にただ事ではないと着替えもそこそこに飛び出し、ジャンクショップに向かった。するとそこには色彩に違和感のあるナイト、ニコニコの2代目、ガヤガヤと話し込む新世紀中学生たちの姿があり___という顛末である。


    「たまにあるよなぁ。フルパワーグリッドナイトのときの俺たちとおんなじだよ」
    「たまにあるの!?」

     当然のようにコクコク頷くボラーの言葉を、レックスが信じられないのも無理はない。いくらハイパーエージェントになったとはいっても、まだ人間だった時間のほうが長いのだ。髪や虹彩の色が自分とそっくりになったナイトを、目を丸くして凝視する。

    「と言っても、普通、合体時の適応反応などで出るもので、人間態で出ることは珍しいのだが……」
    「やっぱり普通はないんじゃねーかっ!?」

     マックスの若干困惑気味な補足に更にツッコミを入れるレックス。

    「なーんかオソロにされると兄弟みたいだねぇ、君たち」
    「どこがだよっ!!」
    「れ、レックスとナイトは兄弟だったのか」
    「違うってっ!!!……ハァ…ハァ…」

     間髪入れずにヴィットとキャリバーのボケが襲いかかり、迎撃しているうちに息を切らしてしまったレックスは、ふとナイトが全く喋っていないことに気がつく。普段ならばこの手の雑談には積極的でないにしろそれなりに乗ってくれる、空気の読めるいい奴なのに……とナイトの色でなく、表情をよく見てみた。

    「…………」
    「……………ん?」

     そこで初めて、ナイトが珍しい表情をしているのがわかった。表情といっても、ほとんどいつもの仏頂面で、けれどほんの少しいつもとは違う。レックスでなくては気が付かないような、そんな些細な……。

    「___とにかく。今の所、色以外に変化はない。単なる色移りであれば、そのうち解除されるだろう。俺はこの後訓練があるので、失礼する」
    「んあ?おいおい、せっかくおもしれーのに!なっ、写真撮ろうぜ写真?」
    「遠慮する!」
    「えーっ」
    「おい、ナイト……」

     レックスが引き止める間もなく、バタン!と戸を強く閉め、ナイトは店から出ていってしまった。一瞬シーンとした空気が流れるが、レックスは急いでドアを開け、ナイトの後を追いかけていく。
     その場には新世紀中学生の面々と2代目だけが残った。

    「………んだよあいつ?急にキレて…」
    「いえ、ナイトくんは怒っていませんよ?」
    「なんでわかんだよ?」
    「女の勘です♪」
    「え、こわ」


     ものすごい速度で早歩きするナイトに、レックスは必死に走って叫ぶ。

    「おい!ナイト!待てよ!てめ…速すぎだろ!?」
    「………」
    「待てってこの……ピンク頭っ!」
    「…それは貴様だろうが……」
    「あぁ!?聞こえねーよ!……止まれ、っての!!」

     そこでようやくレックスの手がナイトの腕を掴み、強制的に歩みを止めさせる。既にジャンクショップからはかなり遠ざかっており、この人通りの少ない路地裏では2人の会話を聞く者もいないだろう。
     ナイトはしばらく前を向いたまま静止していたが、レックスが自分を決して離さないことを察すると、観念したように振り向く。
     その顔を見て、レックスの心臓がどきりと揺れた。

    「……んでそんな、恥ずかしそーなんだ?」
    「………黙れ。……わかってる。……言われなくとも…」

     煙るように細やかな、今は桃色のまつ毛がふるふると揺れている。ぼそぼそと途切れ途切れに呟く声色は、拗ねた子供のようだった。

    「……俺の色に、なっちまったから?」
    「そうだが……そうではない……」
    「ああ…?」

     ナイトの言葉の意味がわからず、レックスは首を傾げる。いつだって正しいことを明瞭に口にするその男がこうなってしまうほどの何かを、一生懸命に理解しようとするが、どうにも掴めない。ただ、色移りというのが、普通は合体時の適応反応で出るもの、というところにヒントがあるような気がした。
     合体。つまりは一つになること。身体に変形メカ的機構を備えるハイパーエージェントにとっては日常茶飯事な行為。___しかし、人間にも出来ないことはない、その行為。

    「………え?もしかして俺の色移ったのって、」
    「……………………昨日の………で………」

     ぶわっ、とレックスの頬が赤くなった。
     確かに、昨日、レックスとナイトは合体をしていた。人間態での、合体を。久しぶりだった上に、酒が入っていたこともあり、お互い夢中になって身体と心をぐしょぐしょに濡らしあった。思い出すだけでだらだらと汗が垂れてくる、そのくらい激しく長い夜だった。
     最も、2人の関係は2人の間だけの秘密となっているので、事後のナイトは日が昇る前に自らの部屋に帰って行ったのだが__。
     まさか、それが原因で、ナイトに適応反応が起きたと言うのか。

    「やっ……んな、コト……あるか、なぁ……?はは……」
    「…………俺が……願った、んだ……」
    「うん?」
    「……………………もっと……お前と………深く、………ひとつに、……と……」

     鮮やかな髪色に負けないほど、肌を首まで赤く染め上げて、ナイトは弱々しく白状した。
     起きた、ではない。願って起こした。レックスと限りなく一つになりたいが故に、もっと深いところで繋がりたいが為に。
     レックスは改めて、自分の色に染まりきった、目の前の男を見つめる。
     正直なところ、似合わない。派手すぎるピンク色はナイトの繊細なイメージを損なっていると思うし、あの悩ましげなオッドアイが同じ翠色に揃えられてしまっているのも、かなり勿体無い。ナイトという存在が、ことごとく塗り替えられている。
     クラクラするほどに、『レックスに侵された』姿。
     きゅぅ、とレックスの喉奥が戦慄いた。

    「………なあ、もしかして、それ、すっげえ………ヤバい、格好、なんじゃね……」
    「分かったか?……俺の気持ちが」
    「ハイ……よくわかりました…………」

     それからしばらく2人はなんとも言えない沈黙を続けていた。が、ふと、ナイトがレックスの手を握ると、力強く引っ張る。

    「うおっ!?」
    「レックス。……俺が『こう』なった責任は、とってもらうぞ」
    「えっ…………あっ……う………」

     レックスの脳裏には、いや待て、お前がなりたくてなったんだろ、という反論が過ぎる。……しかし、じゃあ自分に『ナイトを自分の色に染めたい』という欲求が一切なかったかといえば、おそらく違う気がした。だって今、こんなにも……興奮しているのだから。

    「………はい、とります、責任…………」

     結局大人しく頷くレックスに、ナイトはにっと笑みを見せる。色が同じなせいか、その顔すらなんだか自分に似ているような気がして、レックスは繋がれた手にじんわりと汗を滲ませた。

     翌朝、元に戻ったナイトと入れ替わるようにレックスの色が変化してしまうことを、2人はまだ知らない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💖💜💒
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works