玖朗さんお誕生日SS2023【前編】「あー…………」
9月初旬。最後の患者を捌き切り金をせしめ笑顔で蹴り出して、玖朗は診察室の事務机に突っ伏していた。
嘘のように忙しい8月、9月だった。いや、忙しいのは構わない。それだけ儲かるし、金さえもらえるなら文句はない。ただ。
目だけを上げて一秒ずつ時を刻む置時計の秒針を見つめる。時刻は午前5時20分を過ぎたところ。深夜を超えてこんな早朝ぎりぎりまで仕事がすし詰めになるのは珍しい。さっさと寝た方がいいのだが立ち上がる気力もなかった。
「はぁ…………」
溜息をつく。目の回る忙しさで気づくことはできなかったが、二階の自室にはもう風猫が帰っているはずだ。風猫は風猫で連日駆け回っていたため、疲れ果て今頃眠りこけていることだろう。その愛しい寝顔が見たくて、そして——同じくらい、見たくなかった。
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