アキバの3人が合宿をしたという話を聞いて、うちの兎が騒がないはずが無かった。あんたたちがやりたいなら、なんて言い方は気に入らないが、興味がないと言うのも嘘だった。それは紫杏も一緒だったようで、なんやかんやと言いながらも神宮前参道學院の第一回強化合宿が開催されることとなったのだ。
なったはずだった。宿泊は許しが出なかったと、紫杏は夕飯を食べて帰ってしまった。必然的に残るのは雛と美々兎の二人だけ。合宿をする、という目標が達成されてしまったからか、美々兎はいつもにまして集中力が無かった。とりあえずかけているだけ、といったようなプレイで、いつもとは違うメロウな曲を流す。
「あーあ、合宿っていっても学校に泊まるだけだもの、そんなに変わったこともなかったわね」
「一体何を期待してたんですか、美々兎」
「それは……些細なきっかけで実力が伸びることだってあるかもしれないじゃない」
いいながら、美々兎は次の曲へと繋ぐ。雑なミックス。これでは全く練習にならないことはきっと美々兎もわかっているだろう。
はぁ、と雛はわざとらしくため息をついた。
「なによ、じゃあ雛がやればいいじゃない」
美々兎は小さく悪態をつき、ブースに隙間を作る。一応合宿なのだから、と誰にするでもなく言い訳をして、雛は美々兎のいるブースに入る。
その前に、少し口寂しいですね。まだ曲もかけはじめたばかりで時間もあるし、お菓子でも食べてからにしましょう。雛はDJブース近くに置いてあったはずのお菓子を取ろうする。たしかまだ、チョコレートが少しはあったはず。そして、最後の一つに手をかける美々兎と目があった。
美々兎はにやあと笑って、いちご味のチョコレートを口に放り込んだ。
原因は最後の一つを取られたことなのか、美々兎の勝ち誇ったような顔だったのか、それはもうわからない。カチンときたことは確かだった。
美々兎の顔を掴み、引き寄せる。その唇に自分の唇を合わせて、乱暴に舌を突っ込み、舐めとる。イチゴチョコの甘さと、キスの快楽が脳を焼く。
口を離す。美々兎は顔を真っ赤にして、微動だにしなかった。口の端から、溢れた唾液が垂れていた。
もうすっかり音は止まっていた。DJにおいてあってはならないことだが、これは本番ではない。しかし、雛のせいであることは確かだった。
夜は長い。これから美々兎をどうしようか考えつつ、雛は再び音を鳴らしはじめた。