【薄桜】 花びら 自動制御で空調は効くけれど、僅かに開けた窓から夜の香りと共に束の間だけ喧騒が漂った。予想通りの発生元だとすれば、そろそろ上がってくるだろう。そう踏めば、違わずスマホが震えた。ただ、画面には傑ではなく、悠仁の名が表記されている。まあ、傑だけならスマホは鳴らないよな。
「おつかれ」
「おつかれっす。すいません、夏油さん、飲ませ過ぎちゃいました」
「いいよ、いいよ。悠仁が飲ませたわけじゃないだろうし。今、開けるね」
喋りながらドアを開けると、東堂に左肩を半分抱き抱えられるようにして連れられた傑がいた。隣には傑の荷物を持った悠仁が申し訳なさそうな表情で、スマホを手に立っている。
「あっ、さとるぅ~~」
ふにゃりと笑うと、組まれた肩を振り払うようにして、危なげな足取りで俺に向かって両腕を伸ばす。慌てて近付くとそのまま覆い被さるように抱き着かれた。たたらを踏むようにして、酒と煙草の匂いを纏った酔っ払いを支える。
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