狡い狼 何も無い時間に、ハリスと二人でいるのが好きだ。ソファに座って手の甲を撫でたり、肩を寄せたりするだけで満たされる気分がするのは、自分だけだろうか。
初め、彼女はこの行為に困惑していたように思う。自分たちはただの同僚に過ぎず、こんなふうに過ごす必要性はどこにもないからだろう。
けれど、いつからか慣れたのか、あるいはもはや諦めたのか。文句の一つも言わず、触れることも許してくれるようになった。
「(諦めの早さは長所であり、短所ですね)」
よしよし、と手のひらを指の腹で撫でてやる。決して爪が触れてしまわないよう、慎重に。こういう時、シリオンというのはまったく不便だと思う。
「(爪が丸ければ、このように肝を冷やすこともないでしょうに)」
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