宗也くんが潾さんについて調べる話「初めて先輩と顔合わせした時は、ぶっちゃけてしまえば"わ、見た目チャラそう……"って思いましたからね」
そう言うと、先輩は少しだけ困ったように笑って、それからおどけたように口を開いた。
「今はもう、仕方ないって考えるけどさ、学生の頃は大変だったんだから」
四分の一が異国の血が流れている先輩は、いわゆるクォーターというやつで、生まれつきとは思えない程鮮やかな色彩をしているのだ。
歳を重ねるごとに皆分かっていくと思うだろうが、日本というのは随分と排他的な国で、学校の規則、校則で定められているような"毛染め禁止。"というのは建前であって、実際には先輩は入学時から卒業まで黒染めしろと教師に言い続けられたらしい。
生まれ持ったものを隠させて、他と全く同じにするなんて、奴隷かと思うが、現在の日本の教育システムを考えてみればお察しである。
「まぁ、先輩って外国人みたいな見た目してるのに、流暢に日本語使いますよね」
「生まれも育ちも日本だからなぁ。なんだろ?隔世遺伝?」
「ほー……。祖父母のどっちが緑目でどっちが青目だったんですか?」
ふいにそう疑問を投げかけると、潾さんは不思議そうな顔をした。
「??俺の家系に青い目はいないけど……?」
「え?」
「気がついたらこうなってた」
なかなかに衝撃的な事を言われて、数瞬固まってしまうと、先輩はまた困ったように笑う。
「まあ、目の色が変わる……なんて、慣用句くらいでしか言わないもんな」
言い訳のようでそうでない、若干、諦めの入った言葉は、先輩が"そう"なったことを気持ち悪いと言われ慣れているようで嫌だった。
その雰囲気を断つようにして、無理やり語調を上げる。
「えっ、じゃあ、元々両目とも緑だったんですか?」
「そうだなー。9か10歳くらいの時まで?」
「なるほど」
先輩は今21歳なので、11、12年前。そうなるとパッと思いつくのが、第一次大規模崩落くらいしかないのだが……。
本人に聞くのは憚られるので、まぁ、お蔵入りということだ。
「宗也の目は?遺伝?」
ふいに瞳を覗き込まれて、先輩の青と緑のコントラストが目の奥でチカチカと光る。派手な色をしているが本人はいたって真面目だ。
「父親の遺伝ですね。よく似てるって言われるんです。今は単身赴任中なんで、先輩は会ったことないですよね?」
「ん?ないなぁ」
先輩とはそこから単身赴任の話、出張の話と変わっていき、仕事の話になってしまい、結局気になることは聞けるはずもなかった。
その後、目の色が変わるで検索してみると、先輩の言ったように慣用句しか出てこなくて、声を出して笑ったのは余談だ。
たまたま出来た休みの日に、何をしようかと悩むのはよくある事だ。
今日くらいは部屋でのんびりと過ごすかと、スマホを手に取り、先輩の事が頭に浮かんだ。
目の色のこと。出自のこと。
確か、先輩は名家の出だったから、調べれば何か出てくるかも、と、安易に文字を打ち込んだ。
『12年前の第一次大規模崩落では、多くの名家が敵による襲撃を受け、中でも御三家とまで言われた八月一日家が瓦解。』
そんな一文が目に留まる。
言わば古い新聞や雑誌を文字起こししたサイトらしく、これが嘘ではないぞと主張するように出典元が大きく載っている。
以前、先輩がやんわりと言葉を濁して喋っていたのはこれかと納得する。反面、今、隣に先輩がいないことに何故か不安を覚えた。
この話題はやめておこうと、どこかザワザワとする胸中を切り替えるために、今度は虹彩 違う色と懲りずに検索バーをタップした。
優秀なスマホはただの興味本位の結果をずらずらと並べ立てる。猫や芸能人が並ぶなか、やけに仰々しい文字を見つける。
「虹彩異色症……?」
だが、どれも先天性のものばかりで後天性という言葉は1ミリも載っていない。俺の馬鹿な探究心はそこでやめておけばいいものを、次なる言葉を検索にかける。
「……事故や、外部からの強い刺激、ストレス」
気軽に知ってはいけない事はやはり、知らないままの方が良かったのであろうか。若干の罪悪感から画面を戻した。
先輩のおそらく隠しておきたかったであろう真実を知ってしまった俺は、明日、どんな顔で会ったらいいのか小一時間、頭を悩ますことになる。