アバウト・ティーンエイジャー・ラブ　Episode 0・



　好きなひとがいる。
　生涯をかけて、たったひとりの好きなひと。
　逞しい体躯、強靭な拳、清潔な香りを纏う黒髪に、鋭い視線と優しい眼差し……
　どこを切り取ってもどうせことごとくオレ好みの外見だけれど、それはあのひとがあのひとだからであって、あのひとでなければきっと無味無臭なんだろう。結局のところ、オレの心を浚ったのは彼の芯にあるもの。
　あのぬくもりが、琴線にふれて。敵も味方もあっという間に籠絡させてしまう魔性的な引力に惹かれ、気づいたときには好きだった。
　きっとこの先どれだけ長く生きたとしても、このひとだけがずっと好き。タイムマシンに乗って未来のオレに確認しに行ってもいい。三十二歳のオレは誇らしげに言うだろうよ。

売れっ子俳優松野千冬の秘密〜ミタライはミタ〜「昨日の火スキャ砲見た？」
「見た見た、今度はモデルのミーナでしょ？」
「マジうらやまぁ〜。アタシも千冬とワンナイトした〜い」
　新宿、午後九時。
　企業改革の取り組みとして定着したノー残業デー水曜日の夜は、仕事から解放された人々の笑顔が繁華街にあふれる。その一角、女性客に人気のワインバーの店内では、ワイングラス片手に花盛りの女性たちが毎週のように同じ話題に夢中だった。
　火曜の夜に発売される週刊誌、「火曜スキャンダル」略して「火スキャ」。その中でも特に注目を集めているのが「火スキャ砲」と呼ばれる特ダネだ。そしてここ数週間、その火スキャ砲の標的となっているのが、
「ほーんと、モテすぎでしょ。イケメン若手俳優松野千冬！」