「お前、」
「……殺すならさっさとしたら」
「…………」
陰陽寮での仕事を終え、月夜が美しい夜道を歩きたくて門を潜った時に襲われた。気配でわかっていたから手加減して殺さずにその姿を見た瞬間目を見張る。
淡桃の髪と蜂蜜色の瞳。忘れもしない一月前の鬼祓いの時の残党。
半妖の小娘だとわかっていたから逃しても大したことはしないだろうと思っていたが……
「……ついてこい」
「え……」
「聞こえなかったのか?帰るぞ」
「帰るって、私の居場所なんて」
「うちに来い。仕事ならいくらでもある」
「……私の仲間に手をかけたヤツのところになんて」
「御託はいい。まだ生きていたいのならうちに来い。俺を殺す機会も見つけられるかもしれねぇぞ」
「っ……」
殺気と戸惑いの混じった視線が突き刺さる。
こいつの視線を浴びるとゾクゾクとした快感にも似た感覚が体を駆け巡る。
(何なんだこいつ……)
諦めたのか呼びつけた迎えの牛車に大人しく乗り込み、隅にちょこんと座っている姿はただの娘だ。誰も半妖だとは思わない。
普段の鬼祓いは女だろうと半妖だろうと容赦はしないが、何故かこいつには手を出せなかった。
「おい、お前名はあるのか?」
「…………」
「……無視かよ」
「…………希佐」
「へぇ、良い名だな」
「……あんたは」
「高科更文」
「……何故」
「言っただろ、仕事はいくらでもあんだよ。人手が足りねぇんだ。手伝ってもらえると助かる」
「なら私じゃなくても」
「お前がいい」
「……そのうち殺してやるから」
「何時でもいーぜ。もうすぐ着くな、希佐」
「な、なに、っ!」
突然伸びてきた俺の手に驚いて身を竦める希佐の顎を掬い取り、俺の方を向かせてそのまま口付けた。
「んっ!んんっ!」
「大人しくしろ」
「や、なんっんん!」
抵抗しても押さえつけて口付けを続ける。
舌を差し込み口内を懐柔していくうちに脱力した体を俺に預けてきた。
「っは、はぁ……ッ何する、」
「俺の家には結界が張ってあるからな。半妖とはいえそのままじゃお前は弾かれる。さっき僅かだが俺の気を体内に入れたから大丈夫だろ」
「ならそう言って……初めてだったのに」
「は?」
「な、何でもない……」
「……お前可愛いな」
「っ!……可愛くなんてない」
真っ赤にした顔で睨まれても既に女の気を纏った希佐から目を離せなかった。