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    キリエ・エレイソン-主よ、憐れみ給え-
    DQ8/クク主/短編/ククール視点

    2017.09.15 UP

    キリエ・エレイソン-主よ、憐れみ給え-別にオレだって常に女の事を考えているわけじゃない。最初からそのつもりで誘う日もあれば、その時の成り行きでそうなる事もある。かと思えば全く気分が乗らない日、ってのもあるわけだ、一応。

    で、今夜は気分が乗らない後者の意見でどちらかと言えば酒でも飲んでグッスリ眠りにつければいい、…ぐらいの気持ちでオレは酒場の扉を開けたのだった。

    店内は深夜と言う時間帯のせいもあってか客は疎らだ。だが、入口の左側に設置されたカウンターに足を向ければすぐに見慣れた人影が飛び込んでくる。

    「…珍しいな、エイト」

    その珍しい先客にオレは思わずそう口にする。酒場のカウンターには旅の仲間でこの即席パーティーのリーダーを務める男、エイトの姿があった。オレにしてみればコイツが一人カウンターで酒を飲む、というのは実に珍しい光景だ。

    即席パーティーとはいえ今日まで一緒に旅をしてきた仲間だ。この旅の間に、勿論エイトと一緒に飲んだ事はあったが二人だけで飲みに行くという事は今までにただの一度もなかった。
    飲みに行くときは大抵オレとエイト、ゼシカ、ヤンガスの4人でだったし、酒場でこうやってコイツと二人だけになるという事はまず無かったのだ。もっとも、オレの知らないところでエイトも一人飲んでいる事もあったのかも知れないが。

    「ククール…」

    エイトはオレの名を口にすると少し困ったような顔でもう一度口を開く。

    「…寒くて眠れなくなっちゃったんだよ。カラダ、温めるにはお酒が一番いいのかなぁって思って…」

    はにかんだ笑みでそう話す。そう、オレ達の今いるこの場所は真っ白な雪に覆われた、オークニスと言う町だ。オレはエイトの隣に腰を下ろすと、

    「へぇ、それじゃオレと同じだな。オレも酒の力を借りて今夜はグッスリ眠るつもりだったんだ」

    そう言ってオレがニッと笑えば、エイトは何処か不思議そうな顔をしながら

    「え…?ククールも眠るだけの為にお酒を飲む事があるの?」

    などとぬかしやがる。どーゆー意味だと少しだけ怒ったような顔で問い詰めれば

    「…だって…ククールいつも女の人と一緒にいるじゃない…」

    ああ、そうきたか。そうだよな、エイト達にしてみればオレの事はそーゆー風にしか映っていないわけで。

    「あのな、別にオレだってそればっかってわけじゃねーんだぞ?」

    オレが少しだけ拗ねたようにそう言えば、

    「ゴメン。…あ、じゃあククール、お詫びに一杯奢らせて?」

    何処か申し訳なさそうにエイトはそう言うと、カウンターの向こうで黙々とワイングラスを拭くバーテンダーに一声かける。そんな二人のやりとりを黙って見ているあいだに、エイトからの注文を受けた手際の良いバーテンダーが

    「どうぞ」

    そう言ってニヤリと怪しい笑みを浮かべながら、オレの前に赤い色をしたカクテルを差し出す。だがこの差し出されたカクテルを見たオレは少しだけ怪訝な顔をする。なぜならオレの記憶が正しければこのカクテルの名は――

    「わぁ!綺麗なお酒~!ね、この赤い色凄く綺麗だねぇ!ククールの制服の赤みたい!」

    とくに何の疑問も持たずに子供のようにはしゃぐエイトが、オレに差し出されたこの酒を楽しそうに見つめてくる。そんなエイトの姿に何故だか後ろめたい気持ちも込み上げてくるのだが…

    おいおい、コレをオレが飲めっつーのか…?そもそもコレって男を誘う女が飲む、定番のアレじゃねーのか?チクショウ…このバーテンダー、さっきのオレとエイトの会話を聞いていやがったな。つーか何でこんなとこでこんな皮肉を受けなきゃならねーんだ!

    そんな事を頭の中で一通り愚痴ってから、オレはカウンターの向こうですました顔でグラスを拭くバーテンダーをジロリと睨んでから

    「エイト、気に入ったんならコイツはお前が飲めよ。コレ結構甘いからさ、エイトには飲みやすいんじゃないの?」

    何となくいたたまれなくなってエイトに差し出してやれば、エイトはとても嬉しそうに

    「えっ!いいの?」

    と、素直に答えてくる。そして

    「あ、じゃあククールには別のを奢るね。えっと、すいません。マスター、コレとは別のお酒をお願いしてもいいですか?」

    「畏まりました」

    バーテンダーはエイトの注文にそう答えると、もう一度黙々と作業を始める。そのあいだにエイトはオレから譲り受けた赤いカクテルを口に含む。

    「わ…美味しい…」

    溜息をつくようにそう言うと、ほんのりエイトの頬が赤くなったような気がした。

    「ククールもコレ飲めばよかったのに…」

    そんな事を呟くエイトに

    「オレは甘いのは苦手なんだよ」

    と、実はそこまで苦手でもない「甘いもの」に、断る為の嘘を一つついてしまう。それからいつの間にかオレの前にも別のカクテルが差し出されると、オレもそいつをグイッと煽るように飲み干した。

    ――――ちなみに余談だが、たった今オレの目の前に差し出されたこのカクテルは、ウォッカをベースにした黒褐色のブラックルシアン、と言うヤツだ。それを見たエイトが大人っぽいね、とかなんとか言っていたのだが…
    …ん?それも中身がガキっぽいオレへの皮肉なのか…?




    エイトは最初に出された赤いカクテルが気に入ったようで、オレとの他愛ない会話の間にそればかりを飲んでいた。だが取り立ててアルコールに強いわけでもないエイトが3杯目を飲み終える前にかなり出来上がってしまっていたのは言うまでもなかった。

    しかも男のくせにコイツは頬を赤く染め、小首を傾げ、潤んだ瞳でオレを見つめてくる。コイツにそのつもりはないんだろうが、オレが酒場で幾度となく見た女の姿にそれはよく似ていた。

    まだグラスに残っているその赤い液体にペロリと舌を出して舐める仕草は男を誘う女の、まるでこのカクテルの持つ意味合いのようで、オレはコレをエイトに譲った事をひどく後悔した。

    いやいや、このカクテルの通りになってどーすんだ、エイト。つーかオレは男にはその気にならねーからな。全くその気にならねーからな!うん、断言しよう!オレ、男相手に絶対立たないから!!

    頭の中でそんな事を叫ぶオレは最早何に必死なのか。オレは少しばかり困った表情を見せながら溜息を一つつくと、

    「…エイト、お前もう宿に戻ったほうがいいな」

    そう促してやる。しかしエイトはそのオレの言葉に少しだけムッとしたような表情を見せると

    「やーらよーら!ククールそんな事言って僕に内緒れもっとオイシーお酒、一人れ飲むつもりなんれしょ~!」

    あ、呂律。本格的にヤバイ。これはもうさっさと宿に連れ帰らないといけないレベルだ。オレは仕方なくその場から立ち上がるとバーテンダーに一声掛け、カウンターに金を置いていく。エイトはと言えば、自分だけが宿に帰らされるわけじゃないとわかると

    「わ~い!こんろは部屋れ飲むの~?ククールゥ!」

    そう言って満面の笑みを浮かべ、後ろからオレの腰辺りに両手を回して抱きついて来た。 酔っているとは言えエイトの意外なその行動にほんの少し動揺してしまうオレ。しかしそれを悟られたくない男心。いや、この場合の男心の使い方はなんとなく間違っているような気がする。

    「…はいはい、部屋で飲みましょうね~エイトくん」

    至って平然を装うオレは傍目にはどう映っていたのだろうか。そもそも女性をエスコートするならまだしも、何が悲しくてガキの御守りをしなきゃならんのか。









    酒場からそう離れていない宿屋に戻って来たオレ達だが、今夜はそれぞれ個室を取っていたのでオレはエイトの部屋の前まで来ると

    「オヤスミ、エイト」

    とだけ声を掛けて、その場から立ち去ろうとした。
    …のだがエイトが

    「やだー!ククール飲むって言ったじゃんー!」

    と言いながら、オレの腕にしがみついて離す気配は全くない。深夜の時間帯に扉の前で大声を上げて、他の宿泊中の客や、ましてゼシカになんて気付かれたら多分オレは彼女の最強呪文によって明日の朝にはこの世に存在しないかも知れない。

    この時ばかりは流石のリーダーの馬鹿力も恨めしく感じるわけだが、とりあえず事を大きくしない為にも、仕方がないので一緒に部屋に入るだけ入って適当に撒く事だけを考える。

    部屋に入るとエイトはベッドの上に置いてあった荷物に手をのばす。そして何かを探すような仕草をすると、

    「ホラ、ククール!」

    男のくせに何故だか可愛らしいとさえ感じてしまうその笑顔をオレに向けながらエイトのあげた右手には一本の酒瓶。どうやら中身はワインのようだ。

    「コレね、オークニスに来る前の町で貰ったんらよ~…ん~っと…リブルアーチらっけかなぁ…」

    ヘラヘラと笑いながら先程からあのヤバイ、舌足らずな口調でオレに話しかけてくる。今度はそれを飲もうというのか、エイトよ。

    「…お前さぁ、これ以上飲んだら完全に潰れるぞ?明日も早いんだし、もう寝ろよ…?」

    オレは呆れたようにそう言うが、エイトは

    「…飲むって言った…」

    上目遣いで小さく口を尖らせて。正直これは、オレがこの部屋でこの酒を口にするまでは解放して貰えそうにない。オレは観念したように深く溜息をつくと

    「…一杯だけな?」

    そう言い残すとオレはエイトの手の中にある酒瓶を奪い、自身のグローブを外してから部屋に備え付けてあった道具を使って蓋を開ける。そしてグラス…と言うほど洒落たものでもないが、ソイツに赤い液体を注ぐと、今夜エイトが使う予定のベッドに腰を下ろした。エイトもそれを見届けると躊躇することなくオレの隣に腰を下ろす。

    「わ~い!ありがとーククールゥ~」

    相変わらず無邪気にはしゃぐエイトを、正直オレは怒る気にもなれなかった。


    「…エイトって絡み酒なわけ…?ま、勇者様の意外な一面が見れただけでも良しとするか」

    オレはそう言って小さく微笑むと、コップに注がれたワインを口に含む。

    「…絡んでるんじゃ、ないよ…」

    エイトは一言そう零すと、オレの肩にもたれ掛かってきた。オレはエイトのその行動に本日何度目かの焦りを感じたものの、ただの酔っぱらいの行動に深い意味はないと悟れば直ぐに冷静さを取り戻し、そのままエイトのしたいようにさせていた。


    ――――のが不味かった。


    あろうことかエイトは膝の上にあったオレの手に、オレより小さなその手をそっと乗せてきた。そうしてオレの手の甲にその指先を軽く触れると、今度はそのままオレの指先にその指先を小さく絡めてくる。またその絡ませ方が、ひどくイヤラシイ。 少しの間行ったり来たりを繰り返す指先はくすぐったささえ感じるのに、何処か心地よかったりもするのだ。いや、心地よくなってどーする、オレ。

    先程の酒場でのエイトもそうだが、この行動パターンには少なからず身に覚えがあった。正確にはエイトの、ではなく、今までオレが誘って誘われた女とのやり取りを少なからず思い出させるのだ。

    ん?もしかしなくても今オレはエイトに誘われているのか…?…いや、ただの悪ふざけだろ?なんなんだこの状況は!…って言うかいくらなんでもマズイだろ、マジで!

    オレは内心の焦りを隠しながら、まるで女に囁くように、ポーカーフェイスでエイトの耳元でこう言ってやる。


    「…誘ってるわけ…?」


    その一言に、エイトはうつむいていた顔を上げると、今度は紅潮した顔と潤んだ瞳をオレに向けてこう返してくる。


    「…そうだよ、ククール…」


    耳を疑うようなセリフにオレの内心はかなり動揺中だ。が、ここでオレも負けてはいられない。つーかこれは勝ち負けなのかと心の中で自身にツッコミを入れつつ、おそらくこれはもう表情を先に崩した方が負けになるのだろう。


    「度の過ぎた悪ふざけだな、エイト」


    オレはワザと意地悪く微笑んで、エイトの顎を強引に押さえつけるとエイトの少しぷっくりとしたその唇にオレ自身の唇で無理矢理塞いでやる。


    「ん…ッ!…ふ…」


    小さく漏らしたエイトのその声に反応するかのように、オレの体の奥底が疼きだしたのがわかる。薄っすら開かれたその唇に、まるで隙を突くように抉じ開けてオレの舌を滑り込ませる。そして奥でひっそり縮こまっていたエイトの舌を執拗に追いかけ、オレの舌を絡めていく。室内に卑猥な水音だけ響かせると、口内で溜まった唾液がエイトの口の端から自然に零れ落ちた。


    「…君こそ…ふざけ過ぎ…」


    ゆっくり唇を離すと、エイトは右手で口を拭いながら少し怒ったようにそう言った。

    ――――ああ、なんだ、やっぱりエイトはふざけていただけだったのか。そうだよなぁ、やっぱ仲間同士で一線を越えるのだけはマズイもんな。

    もはや何が不味いのかもよくわからないくらい、残念な気持ちになっていたのも事実だが、やはり今後の事を考えればそれはマズイ、としか言いようがないのだ。

    そんな己の内心を隠しつつ、オレは何事もなかったかのように


    「つーかさ、あのカクテルの名前もわかんねーくせにこーゆー事すんのやめろよな。世の中にはな、エイトみたいな男が好きだって言う、ヤバ~イ輩もいるんだぜ?…まぁ相手がオレだったからよかったようなもんだけど」


    元来負けず嫌いなのか、オレは少しだけ勝ち誇ったようにそう言って少し大げさに溜息をついてみせる。が、今度はエイトが今まで見た事もないような、それはまるで妖艶とでも言うのか、そんな笑みを浮かべて反撃の狼煙を上げてきたのだ。


    「…セックス・オン・ザ・ビーチって言うんでしょ?あのカクテル。知ってるよ?」


    エイトのその言葉に、俺は思わず情けない声をあげる。


    「…はぁ…?」

    「マスターにね、騎士団の赤い制服を着た人が僕の前に現れたら、あのカクテルを出してね、って言ってたの。まぁククールは多分アレは飲まないだろうなぁとは思ってたけど…」

    「……え、えーと……エイトさん、それは一体…どう言う…」


    …なんだなんだこれは。それはつまりアレか?エイトはあのバーテンダーとはグルで、オレは嵌められるべくして嵌められた、と…?

    既にオレがその動揺を隠すことなくそう問えば、エイトは性質の悪い小悪魔の如く


    「…鈍いなぁ…ククール。女の子とは百戦錬磨なんでしょ?…僕、さっきから君の事本気で誘ってたんじゃない……ね、お酒で温まるより、人肌のほうが…気持ちいいよ…?」


    そう言いながらオレの首にその両手を回してきたのだった。


    ――――やられた。オレの頭の中に真っ先に浮かんだ言葉。勝ち誇った気でいたが、これはもしかしなくてもオレの負け、という事なのか。そうか。手の平で転がしていたつもりが、完全に転がされていた、と言うわけだ。

    余計な知識を持っているとそれが嘘か本当かその判断が付きにくくなる事がある。ああ、だからオレはまだまだ甘いのか。わかってる。自分でも情けないくらいガキだな、ってさ。

    男相手に立たないんじゃなかったのか、とか、仲間同士で一線を越えるのはマズイ、とか発言に責任が持てないのなら、素直に受け入れてしまった方が案外楽なのかも知れない。


    オレは目の前に差し出された甘いカクテルよりもずっと甘いその誘惑に、いとも簡単に堕ちたのだった。


    ――――ああ主よ、憐れみたまえ。





    END





    学生時代何故か知人がトム・クルーズの「カクテル」って言う映画に異常~に食いついていたんですよ。あとでわかった事は作中登場するカクテルの名前が「セックス・オン・ザ・ビーチ」だった、という事。…ああ!思春期の食いつき!!(笑)本当はこのカクテルの名前をタイトルにしたかったんですが(笑)ちょっとネタバレっぽくなるのでやめました。

    落として落とされて、な大人の駆け引き?をするクク主も中々いいかもなぁ、みたいな。まぁ基本は順を追って愛を育んでいく、そんな真面目なクク主が理想なんですけどもネ~(笑)例によってこの話もマンガで描くつもりだったんですがプロットやってたら小説?っぽくなっちゃったので文字であげます。

    そしてヌーク草の存在はこの際おいておく…


    2017.09.15 UP
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