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    mizuki_410

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    mizuki_410

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    本編ロナドラとΔロナドラが出会うお話。ツイッターでボソッと呟いたネタから生まれました。

    #ロナドラ
    lonadora

    守りたいもの、伝えたいこと「我が名は吸血鬼パラレルワールド大好き!」
    「また変なのでた!!」

    いつものように街に現れるはた迷惑な吸血鬼の対応に繰り出したにっぴきの前に現れた高等吸血鬼は、今日も高度な能力を欲望の赴くままに使い騒動を起こす。
    退治人であるロナルドが元凶である吸血鬼を拳で殴り制圧し、いつものようにVRCに送ろうと手配をしているとドラルクが駆け寄ってきた。

    「いや~お疲れ様、ロナルド君」
    「まったく、ここ最近次から次へとポンチ野郎が湧くな……」
    「くそぉ、まだ誰も送ってないのに……この際君らでもいい!」
    「あ?」
    「見せてもらおう!君たちの慌てふためく姿を!」

    縄で縛り上げられた吸血鬼が悔しげに呟き悪足掻きにその能力をロナルドに向けて放った。
    向けられた謎の光線はロナルドとそこに近づいてきていたドラルクに命中し、辺りは一瞬真昼のような明るさに包まれた。
    ドラルクの後を追うように地面を走っていたその使い魔は眩しさに一瞬目を閉じる。
    目を開けると、そこに主人とその相棒の姿はなくなっていた。

    「ヌーーーーーーー!?ヌヌヌヌヌヌーーーーーーーッ!!」

    泣きながら主人の名を呼ぶ使い魔の声はドラルクには届かず、吸血鬼と退治人は忽然とその場から消えてしまった。


    * * *


    突然の閃光に目が眩み、気が付くとロナルドは空中に投げ出されていた。
    咄嗟に受け身を取り着地には成功したものの、捕えた筈の吸血鬼の姿はない。
    場所に見覚えはあるがそこは先ほどまで居た新横浜の住宅街とは違う景色だった。
    相手を瞬間移動させる能力でも持っていたのかもしれないと、改めてVRCに連絡を入れようとするが携帯は圏外だった。
    建物の中ならまだしも今時街中で圏外になるなど滅多にないはずなのに、違和感に首を傾げるがひとまず状況を整理しようと辺りを見渡す。

    「ったく、あいつどこ行った……」

    一緒に攻撃を受けたはずの相棒を探すと、少し離れた場所に見慣れた顔を見つけた。
    向こうも何かを探すように辺りを見渡しているところを見ると、同じように状況を把握するために自分を探しているのだろうとロナルドは思った。
    ただ、着ている服がいつもと違う。
    その一点に疑問は感じたものの、普段から相手の服装を思うままに差し替える能力を持つ吸血鬼と対峙してきたのでさして気にすることはなかった。

    「ドラ公!」

    声を掛けると、相手は弾かれたように振り返る。
    そしてロナルドの姿を見て目を見張った。

    「さっきの奴はどうした?ってかお前その格好はいったい」

    近づいて肩に触れようとした手が弾かれ、相手はまるで恐ろしいものを見るような顔で後退り距離をとる。
    その仕草や表情からは拒絶と警戒心がありありと伝わってきた。

    「貴様……っ、その姿は何のつもりかね……?」
    「え……ドラ」

    言葉を続けようとするロナルドの前に、ドラルクの姿をした男を守るようにコウモリの形を模した影が集まる。
    それは徐々に人の形を成し、銀糸の髪に青い瞳をした吸血鬼が姿を現した。

    「ドラ公、こいつ 何?」

    いつもドラルクが口にする“畏怖”という言葉の意味を身体で理解する。
    ひと睨みされただけで全身を刺すような敵意、殺気。
    胸をざわつかせ支配するそれはまさに畏怖だった。
    人の身のロナルドにも、その吸血鬼が強大な力を持つことはわかっていた。
    咄嗟に自身の愛銃を構えるが、手の震えがその圧倒的な力の差を無意識に教えていた。


    * * *


    「まったく、なんなんだいったい…」

    突然の眩しさと衝撃に塵と化していたドラルクはその身体を再生し本来の姿に戻る。
    愛しい使い魔を巻き込まなかった事は不幸中の幸いだったと思いながら一緒に妙な攻撃に巻き込まれたはずの相棒を探すと、少し離れた場所にその姿を見つけた。
    しかしそこに居たのは相棒であるロナルドだけでなく、対峙するように二人の人影が見えた。
    そのうち一人は同胞であることはすぐに分かった。
    しかしそれは先ほどまで対峙していた者とは違っていた。

    「こいつ 何?」

    相手が発した声は冷たく、遠目にもその力の強さと殺気が伝わってくる。
    その矛先が向けられているのは自身の相棒であるロナルドに対してだった。

    「まずい…あんなのと戦ったら…っ」

    全身が粟立つ程の力に、ドラルクは咄嗟に走り出す。
    ロナルドは強い、それはドラルクも良く知っていた。
    しかしそれは人間の中ではの話で、退治人としての実力も人を守るために吸血鬼を退けるために培ってきたものだ。
    殺し合いをするためのものではない。

    「駄目だ!ロナルド君逃げろ!!」

    銃を構えるロナルドに叫ぶが、それは届いていないようだった。
    届いたとしても、ロナルドが相手に背を向けた時点で勝負は決してしまう。
    走り寄るドラルクにもう一人が気付いたように視線を向け、一瞬目を見張ると相手の吸血鬼を制止するように声をあげた。

    「待て!■■■■君!」

    しかし我を忘れたように拳を振りかぶる腕を止めるには至らない。

    「ロナルド君っ!」

    庇うようにロナルドの前に飛び出したドラルクは両手を広げて目を瞑り衝撃に耐えようとした。

    「ドラルク!危ねぇ!」

    後ろからドラルクを抱き寄せ逆に庇おうとするロナルドの腕の中で、ドラルクは聞き慣れた声と同じ声色を聞いた。

    「あれ?ドラ公?」

    目を閉じていても全身に感じていた殺気が途端に消え失せ、先ほどの凍てつくような声と同じものとは思えないあっけらかんとした声がまるでいつもドラルクを呼ぶ時のようにそう呼びかけた。

    「あ、でも俺と同じ匂いする。なぁ、お前なんでドラ公なのに吸血鬼なんだ?」
    「は…、え…?」
    「お前強ぇの?畏怖い事できる?なあなあ」
    「うわっ、ちょ、力強っ」
    「すげぇっ!それどうやんの?!」

    肩を掴まれ、スナァと儚げな音ともに塵と化したドラルクが再生する様に子供のようにはしゃぐ吸血鬼からは先ほどまでの威圧感は微塵も感じない。
    ひとまず相手の吸血鬼の敵意は消えたようで、状況を理解できず呆然とするロナルドを見てドラルクは安堵した。
    その様子を見ていたもう一人の男が二人に駆け寄り、先ほどまでの警戒心を解いた態度で声をかける。

    「すまない、君たちは見たところ我々に害意はないようだな……手荒な真似をして申し訳ない」
    「え?私……?」
    「なんでドラ公がもう一人……それにその制服、吸対の……」
    「私は吸血鬼対策課 隊長のドラルクと申す者だ。そしてこっちは訳あって私の監視下に置いている吸血鬼の」
    「ロナルドだ!」
    「なっ……!?」
    「お互い聞きたいことは色々あるだろうがここは人目につきすぎる。ひとまず、署で君たちの話を聞かせてもらえるかな?」


    * * *


    応接室に招かれ大まかな事の流れを話すと、隊長であるドラルクは頭を抱えた。

    「パラレルワールド……並行世界か。なるほど、そういった概念がある事は知っているがまさかそんな事に干渉できる奴がいるとは……」
    「なあドラ公、パラレルワールドってなに?」
    「ちょっと黙っていなさい」

    纏わりつく吸血鬼を慣れた様子であしらいながら先を促す。
    そのあどけなさは先ほどまでとてつもない殺気を放っていた吸血鬼と同一人物とは思えなかった。

    「それで君たちはその攻撃を受け気が付いたらここにいたと言うことだね?」
    「ああ、っと、はいっ」
    「口調は気にしないで、話しやすい口調で構わないよ」
    「あ、どうも……その、あんたはこのドラルクとは違うんだよな?」

    隣にいる吸血鬼のドラルクを指差しロナルドは問う。

    「そうだね、名前や容姿は近いようだがどうも君たちの世界と我々の世界とは生い立ちや立場が違っているようだ」
    「そっちの俺は退治人なのか?なんで人間なんだ?そっちのドラ公は俺と同じ吸血鬼なんだろ?さっきの死んで蘇るやつもっかい見せて!」
    「ぎゃー!やめっ、ちょっ、助けて私ー!」
    「ロナルド君やめなさい!大人しくしないならおやつ抜きだからな!」
    「ひんっ!ごめんなさいっ!」

    子犬のような声をあげると吸血鬼は大人しく隊長の後ろに引き下がった。

    「失礼。話を戻すが、私は吸血鬼ではなくダンピールだ。だから吸血鬼が近づけば匂いで接近に気付ける。それなのに突然近くに吸血鬼の気配が現れたと思ったらいつの間にか背後に彼、こちらのロナルド君にそっくりな君が立っていたからてっきりなんらかの能力で匂いを消して彼の姿を模して近づいたのかと思った。まさか君が人間とは思わなくてね」

    ドラルクと一緒に居たために吸血鬼の気配は感知したものの、二人が飛ばされた時点で分散してしまったために誤解が生じた、ということだった。

    「状況はわかった。調査にご協力ありがとう。話を聞く限り君たちは完全に被害者のようだ。改めて、この度は大変申し訳ない事をした」
    「あ、いや、こっちこそ」

    佇まいを正し仰々しく謝罪する姿にロナルドの方も恐縮し、場は荒れることなく話が進んでいく。

    「君たちの処遇なんだが、戻る方法がわかるまでは君たちは我々の保護下に居てもらおうと思う。もちろん宿泊用の部屋も用意するよ」
    「なあ、こいつら今日泊まってくんだろ?家に呼んだら?ドラ公の飯食わせてやろーぜ」
    「また君は勝手に……まあ私は構わないが。君たちは問題ないかね?」
    「お招きいただけるのなら是非。ねぇ?ロナルド君」
    「ん、そうだな……行く宛もねぇしこっちで勝手なこと出来ねぇし。吸対の措置に任せるよ」
    「それじゃあ、部屋の手配もしておくので少し待っていてくれるかな?」


    * * *


    こちらの世界のドラルクの仕事が終わるのを待ち、二人が案内された先は高度なセキュリティを施されたマンションだった。
    部屋に通されその広さに驚愕する。

    「リビングだけでうちの事務所の倍くらいあるね」
    「言うな」

    小声で話しながら入り口に立ち尽くす二人に部屋の家主が振り返る。

    「あまり大したものは用意できないが、すぐ用意するから座っていてくれたまえ。そちらの私は牛乳と、ブラッドジャムサンドなら食べられるかね?」
    「ありがとう、いただくよ」
    「あ、そっか。あんたは人間と同じ食事なんだな」
    「私はダンピールだからね」
    「で、お前は吸血鬼なのに普通に飯食えんの?」
    「俺何でも食えるぜ。……セロリ以外」
    「食の好みも同じなんだな」

    人の気配に別室の扉が開き、小さな影が飛び出してきて主に抱き着いた。

    「ジョン、ただいま。留守番をありがとう」
    「ヌー!」
    「こっちにもジョンが居るんだな」
    「ヌァー!?」

    主人によく似たドラルクの姿に、ジョンと呼ばれたアルマジロは交互に顔を見比べる。

    「やはり君たちのところにも?」
    「ああ、この騒動で元の世界に残してきてしまって……」
    「そうか、心配だな。良ければ君のジョン話も聞かせてくれるかな?」




    食事をしながら奇妙な共通点と相違点を照らし合わせると、それぞれの世界の違いが見えてきた。
    退治人・吸血鬼・吸血鬼対策課のそれぞれに元の世界と同じ名前の人物がいる事。
    その立場が入れ替わっていたり、場合によっては種族すらも違う事。
    そして、この世界でもロナルドとドラルクの二人は立場と建前は違えども相棒であること。
    そんな食事の時間を終えひと段落ついた頃、こちらの世界のドラルクがロナルドに声を掛けた。

    「退治人君、少しいいかね?」
    「ん、ああ」

    ロナルドにだけ声を掛けた事を二人で話したいという意味だと察し、ロナルドは別室に向かうこちらの世界のドラルクの後に続く。

    「今日は、本当にすまなかったね」
    「いや、あんたの立場じゃ警戒するのは当然だし」
    「……ありがとう。君にもだが、彼にも悪い事をしてしまったな」
    「彼って、うちのドラ公か?」
    「ああ」

    既に何度も受けた筈の謝罪の言葉を皮切りに、ドラルクは言葉を続けた。

    「私は完全な吸血鬼と違って半分は人間だ。傷を負えば癒えるまでに時間がかかるし、命を落とせばそれまでだ」
    「そうか……あんたは死んだらうちのみたいに再生しないんだもんな」
    「ああ。吸対の隊長でありダンピールである私の存在を目障りに思う吸血鬼も多い。何か企んでいても嗅ぎ付けられてしまうからね。包囲網を敷かれる前に司令塔である私を真っ先に排除しようとする過激な連中も稀に居る」

    吸血鬼のロナルドがこのドラルクに向けられた敵意に対して過剰に怒りを顕にしたのはそういった理由があるのだという。

    「あの時君の無事を確かめた時の彼は、あの子と同じ表情をしていた」
    「同じ表情?」
    「私は虚弱体質でね、血液錠剤でブーストした後は反動で数日寝込むし、大怪我で入院したこともある。目が覚めた時や家に帰った時、あの子はいつも安心したように泣きそうな顔で言うんだ。おはよう、おかえりってね。君にも覚えがないかな?」

    『覚えはないか』そう言われ、ロナルドは思い返す。
    退治人をしていれば怪我をすることは日常茶飯事だ。
    時には病院に担ぎ込まれるような怪我をすることや、少しの間意識が戻らない事もある。
    その度に、目を開けたとき駆けつけたドラルクが心配と安堵が混ざったような表情を向けていたのをロナルドは知っていた。

    「その顔は思い当たる節があるな」
    「まあ……」
    「つまり何が言いたいかというと、お互い命は大事にしよう、ということだ。それと、私の吸血鬼は死にたがりでね、君のところの私の気持ちも少しはわかるのだよ」

    苦笑しながらそう言うと、リビングから聞こえる絶叫に呼ばれドラルクは部屋に戻ろうと話を切り上げた。


    * * *


    日付けが越えた頃、同じマンション内に部屋を一つ用意され二人はそこに案内された。

    「吸血鬼用に遮光カーテン付きの部屋になっているから安心してくれたまえ」
    「いやー助かるよ。さすが私!ありがとう」
    「元の世界に戻る方法は引き続き調査していくので、何かわかれば連絡するよ。こちらの連絡先も渡しておこう」

    部屋の物は好きに使って良いとされ、何かあれば呼ぶようにとこちらのドラルクの仕事用の携帯の番号を渡された。

    「なるべく出るようにするから用事があれば声を掛けてくれ」
    「じゃあまたな!」

    こちらの世界の二人も立ち去りロナルドとドラルクの二人きりになる。
    先ほどまでは普段通りの態度だったドラルクだったが、ロナルドと二人になった途端に表情が消え視線も合わせずに背を向け声のトーンを落とした。

    「じゃあ私はこっちの部屋で休むから君は好きにしたまえ」
    「……なぁ、お前怒ってる?」
    「怒ってないよ」
    「じゃあなんでそんな怒った顔してんだよ」
    「してない」
    「してるって!」

    ドラルクの腕を取り顔を見ようと引き寄せると、ドラルクは睨み付けるように振り返った。
    その目には溢れ落ちそうなほどに涙を溜めている。
    それを見て、ロナルドは思わず息を飲んだ。

    「クソ鈍ちんの癖に……、こんな時ばっかりどうして……っ」
    「ド、ドラこ、なんっ、どうし」
    「君がっ!私を庇おうとなんてするから……っ!」
    「あ、あれは咄嗟に……」
    「退治人の癖にわからなかったのか!?彼は強大な力を持った吸血鬼だっ!生身の君が敵う筈ないだろ!?もし彼が本当に悪意を持った相手なら君はあの場で殺されてた!ましてや私を庇おうとするなんて馬鹿じゃないのか!?私は死んでも再生できる!君だって知ってるだろ!なのに、あんな……っ!君は死んだら終わりなんだ……っ!」

    涙と共に堰を切ったように溢れだした言葉は止まらなかった。
    膝を折りその場に座り込んだドラルクを抱き締めて、ロナルドも涙を溢す。
    先ほどこちらの世界のドラルクに言われた言葉の意味をロナルドは漸く理解した。

    「ごめん……ドラ公……ごめん……っ」
    「わ、私を……置いていかないでよ……っ!もう、何度こんな思いをしたと思って……っ」
    「ごめん……っ」
    「退治人の君が、その仕事に誇りを持ってるのを知ってる……私がその生き方を否定しちゃいけないのもわかってる……でも、誰かのために君が命を捨てるのを私は見たくない……私のために君がその命を捨てるようなことがあれば、私は自分を許せない……っ!」
    「ごめん……ごめんな……」

    今までに何度も危ない目にあってきた。
    その度にドラルクが自分の元に駆け付けてきたのを知っていた。
    しかし怪我をして帰ったロナルドを叱ることはあれども、ドラルクはロナルドにそれを訴えたことはなかった。
    退治人であるロナルドの生き方を、ドラルクなりに見守っていくと決めていたから。

    「死んじゃ嫌だよ……ロナルド君……」
    「うん……ごめん……俺いつも、今まで何度もお前にこんな思いさせてたんだな……気付けなくてごめん……」
    「居なくならないで……」
    「俺、俺も……お前に居なくなってほしくない……もう、ずっと前から俺、お前とジョンが居ないと無理なんだ」

    互いに相手を抱きしめて子供のように泣きながらそれまで伝えてこなかった気持ちをぶつけ、涙が止まる頃には泣き疲れその場で寝入ってしまっていた。
    それから数時間が経ち、先に目を覚ましたのはロナルドだった。
    床に寝転び腕の中に納まるドラルクの顔を見ると、涙の跡が薄く残っている。
    その目元を撫でると、胸の中に一つの決意が生まれていた。
    少しの間その寝顔を眺めているとドラルクのまつ毛が僅かに震え目が開かれた。
    目の前のロナルドの顔を数度の瞬きを経て認識すると、思い出したように飛び起きたドラルクは慌てて顔を背ける。

    「ドラ公」
    「その……なにか言ったかもしれないが忘れてくれ」
    「やだ。なあ、顔見せて」
    「ちょっと、離してっ、大体なんでこんなところで寝てるんだね!?服も髪も顔もぐっちゃぐちゃで最悪すぎるんだが!?」
    「ドラルク。聞いて」

    後ろから抱きしめたロナルドが耳元で低く優しい声音で囁くと、暴れていたドラルクがピタリと動きを止める。
    それを承諾と受け取って、その肩を掴み振り向かせ正面から見据えた。

    「俺、こんなだからさ……またお前をこうして不安にさせることあるかもしれねぇ……」
    「……ん」
    「けど、絶対にお前のところに帰ってくる。約束させてくれ」
    「……破ったら許さないからな」
    「うん、約束する。俺は絶対何があってもお前のところに生きて帰る」

    小さく頷いたドラルクに、ロナルドはもう一つ伝えようと思っていた言葉を紡ごうと口を開く。
    先ほどまでと空気が変わったことをドラルクも察し、妙な雰囲気に首を傾げる。

    「ロナルド君……?」
    「それと…俺、お前に言いたいことが」

    ロナルドの言葉が終わらないうちに部屋の電話が鳴り響いた。
    二人して飛び上がり、今の状況を思い出し二人は慌てて距離を取った。
    色々ありすぎて忘れかけていたがここは別の世界で自分たちは今事件に巻き込まれている真っただ中なのだ。
    それを思い出し、部屋の電話が鳴る意味に気付きロナルドは慌てて部屋にあった固定電話に走る。

    「も、もしもし」
    『吸血鬼対策課のドラルクだ。待たせてすまない、事件の進展があったので報告をさせてくれるかな』
    「あ、ああ。頼む」
    『君たちを送りこんだ者と同一の吸血鬼がこちらの世界にもいたそうだ。奴はどうもそれぞれの世界でその能力を共有してその対象者の動向を観察して楽しんでいたらしい。聞き取りの結果24時間で戻るとの事なのでもう間もなく元の世界に戻れるだろう。戻る場所も飛ばされた場所と同じ場所だとのことだ』
    「そ、そうなのか……よかった」
    『時間が来る前に君たちの部屋に行くので、それまでは待機していてくれたまえ』
    「わかった、ありがとう」

    電話を切ると、ドラルクはもうさっきまでの空気が嘘のように身なりを整えていた。

    「彼らが来るんだろう?君も早く身なりを整えたまえ。人前に出る格好じゃないぞ5歳児」
    「おまっ、さっきまであんな」
    「良いから!早く支度をしろ!!……元の世界に戻ったらさっきの続き、ちゃんと聞くから」
    「お、おうっ」



    それから少しの間を置いてこちらの世界の二人が別れの挨拶を交わしに部屋に訪れた。
    この世界に飛ばされてすぐに4人が遭遇した事を考えると彼らがこの世界に来てからもう間もなく24時間が経過する。
    出会ってからたったの24時間しか経っていないのに、彼らにはまるで長年の友人と別れるような寂しさがあった。

    「退治人の俺ー!元気でな―!!」
    「ちょっ!加減っ!加減してくれ頼む痛ぇって!!!」

    自分と同じ名の吸血鬼に抱き着かれ大騒ぎをする相棒を横目に、次のターゲットは自分になることを予感しそっと距離を取ろうとするドラルク。
    その目の前に、この世界のドラルクが手を差し出す。

    「大変な目にあった君たちにこんなことを言うのは不謹慎かもしれないが、ありがとう。君たちに出会えて良かった。私がずっと知りたかったことを君が教えてくれた」
    「え?私が?」
    「いつも私を背中に庇う彼の表情を私は見ることが出来なかった。けれどあの時、君を通してあの子がいつもどんな気持ちだったか見えた気がした」

    差し出された手を握り、ドラルクも笑みを返す。

    「私もね、ずっと胸に抱えていたものがなんなのかわからなかったんだ。でも今日、やっとわかった気がする」

    改めて気付いた自分の気持ちを反芻していたドラルクは横から突進してきた吸血鬼を避ける間もなく抱き着かれた。

    「こっちのドラ公も!元気でな!あと最後にもっかいあれ見せて!」
    「ぎゃー!やめっ!!イヤァァァ!!!」

    漸く解放されたロナルドにも隊長のドラルクが手を差し出した。

    「退治人君。精々長生きしようじゃないか、お互いにね」
    「ああ」

    それぞれの胸に新たな決意や気付きを与えたこの出会いに別れの挨拶を済ませたところで、二人の姿が光に包まれ透け始めた。

    「時間のようだね」
    「じゃあな!」
    「ヌーヌー!」
    「色々ありがとな」
    「出会えてよかったよ。ありがとう、もう一人の私達」

    視界の眩しさに目を瞑り、この世界の二人は反射的に目を瞑る。
    次に目を開けた時にはそこにはもうあの二人の姿はなかった。

    「行っちゃったな」
    「そうだね……ロナルド君。私、ずっと君の気持から目を逸らしてきたね」
    「ドラ公?」
    「立場とか、種族とか寿命とか色々なことを考えて、君からも自分の気持ちからも目を逸らしてきた気がするんだ」
    「……ん」
    「でも、このままだといつかきっと後悔する気がする。君に伝えたいことがあるんだ。聞いてくれるか?」
    「おうっ!」
    「これからもずっと、私と―――――」




    * * *




    「ヌーーーーー!!!」

    最愛の使い魔の声が聞こえると同時に飛ばされてきた時と同じ白一色の視界から一転し、投げ出された空中で見た光景は多くの仲間たちの姿だった。
    来た時と違うのは、今度は二人一緒に同じ場所に落ちてきた事と、落ちた先には分厚いマットが敷いてあった事。
    そして、ロナルドの腕の中に居たことだった。

    「戻った……?」
    「そのようだね……」

    辺りを見渡すと、仲間たちが駆け寄ってくる。
    その中から真っ先に飛び込んできた自身の使い魔をドラルクはしっかりと受け止めた。

    「ヌーーーーーッ!!!」
    「ジョン!心配かけたね……ただいま!」
    「ヌヌヌヌー!ヌーヌーーーー!!!」
    「ジョン君がここに戻ってくると教えてくれたんだ。無事に帰ってきてよかったよ」
    「ありがとうサテツ、みんなも」
    「災難じゃったな、でも無事でよかった」
    「あに、隊長さんも、ありがとうございます」
    「詳しい話も聞きたいが、今日はもう休んでくれ。後日調査の協力をお願いすると思うが」

    集まってくれた人達に感謝し、無事を喜んだ後はそれぞれ帰路につく。
    通い慣れた事務所への道を歩き建物に入り扉を開けると、たった一日しか離れていないのにもうずいぶん長い間帰っていなかったような懐かしさと愛しさが湧いた。

    「ふふっ、向こうの私たちの部屋と比べるとやっぱり狭いねぇ」
    「ヌヌイ?」
    「うっせ、あれと比べんな」
    「でも、やっぱり私たちの城が一番愛しいよ」
    「……あのさ、俺帰ったらお前に言おうと思ってた事があって」
    「うん?なんだね?」

    あの時と同じようにロナルドは正面からドラルクの目を見据える。

    「ドラルク、お前が好きだ。俺、絶対何があってもお前とジョンのところに帰ってくるから。これからもずっと俺と一緒に生きてほしい」

    ドラルクの返事はもう決まっていた。
    腕の中の使い魔と目を合わせ、示し合わせたように同時にその胸に飛び込んだ。

    「喜んで!」「ヌーーーッ!」

    ~完~
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    💞💒💒
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