お前がいないと情けない。「魈」
小さく呟いてみたが、彼の姿は目の前には現れなかった。それもそのはずだ。何せ鍾離は魔神ではないし、魈も仙人ではない。
特別重いものを持った訳ではない。ただ朝目が覚めて起き上がり、いつも通りベッドから足を下ろし、一歩踏み出した途端に腰に激痛が走った。痛みに膝をつくと、その場から動けなくなってしまったのである。
「鍾離様、もう朝ですが……鍾離様!?」
魈も起きたようで、ドアを開けて直ぐ様駆け寄ってくれた。俺はと言うと情けないことに、どうしたら良いかわからず腰に激痛が入った時の体勢のままであった。
「魈……おはよう」
「お、おはようございます」
魈は膝をつき、俺の顔を見たり床を見たりとそわそわしている。一体どのような状況なのかと、魈の中で理解が追いついていないようだった。
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