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    きしあ@kisia96

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    ※どこゆびアリスパロ。だけどアリヤスキャラストとは全然関係ない(まだエピソード開けてない…)
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    ##SB69

    しょうばいろっくおとぎ話2『不思議の国のアリス~女王の国』【プロローグ】
     不思議の世界の片隅に、理不尽で残酷な女王が支配する「女王の国」と呼ばれる小さな王国があった。その恐ろしい国で唯一女王の暴虐を恐れなかったのが、王城の周りの森に住む悪戯好きの白兎であった。城に忍び込んでは大小様々な悪戯で人間を愚弄するこの兎に散々手を焼いた兵士達は、遂になりふり構わず総力を以てこれを捕まえた。兎が玉座の前に突き出されると、そこに鎮座する醜い老女……女王は即座に斬首の判決を下した。もはやこれまで、兎も覚悟をしたその時、待ったをかけたのは女王の傍らに侍る年若い男だった。庭のように城に出入りしていた兎は兵士達よりよっぽど城内の構造や人員を熟知していたが、この男は見かけたことすらない。会話から女王の夫であるようだったが歳の差は親子どころでは済まない。確かに以前、女王が唐突に花婿を迎えたというニュースが国を騒がせたことがある。しかし結局、当の花婿が人前に姿を見せることはなく、城に引き籠って酒浸りの碌でもない男だとかいう噂しか聞くことはなかった。兎の助命を嘆願する男に女王の怒りが向くと、その混乱の内に兎は城から逃げおおせた。
     ほとぼりが冷めた頃、兎は城で一番高い尖塔の部屋に忍び込んだ。空き部屋であるはずのそこには見込み通り例の男がおり、何をするでもなくベッドで酒を煽っていた。記憶があまり保たないのだろう、朦朧とした様子の男はゆっくり兎のことを思い出しながら少しだけ身の上を話した。国の外れで静かに暮らしていたが外遊に来た女王の目に留まり結婚させられたこと。夫とは名ばかりのペット同然の毎日に食事も喉を通らなくなり、もう酒しか体が受け付けないこと。人間や動物が首を刎ねられる様を見せられるために女王に連れ出される日があり、あの日がそうだったこと。兎を助けたのは、普段物々しい城内が、兎が騒ぎを起こした時だけは賑やかになり心地良かったからということ。男の瞳は濁っており体は痩せ細っていた。実際支え無しでは歩くのも難しいほどで、なるほどこの足では尖塔の長い階段を下ることはできまい。鍵すら要らない幽閉であった。一度女王に見咎められた兎は城での悪事を控えたが、代わりに盗んだ果物や菓子を男の枕元に持って行った。食事を摂れない男だが、兎が持ってきたものだけは1日、2日と時間をかけても喉に通した。
     遂に女王が没した。これで男も解放されるだろうと兎は思ったが、むしろ男との再会は叶わなくなった。子供がいなかった女王の遺族は夫しかおらず、男が女王を継ぐことになったのだ。男は尖塔から王室に移され、流石の兎でも忍び込むことはできなかった。元々歩くことすらままならない男である。女王の恐るべき王政を引き受けさせられた衰弱はかつての比ではなかった。もはや自力で立ち上がることもできず、毎朝担がれるように玉座に横たえられるのみである。兎は何度か玉座を覗き見たが、おぼつかない意識の最後の足掻きか、もう構うなと言うふうに手を払う仕草が見えた。
     森に戻った兎が城を遠くに見やると赤錆びた巨大な鳥籠のように思えた。昔のように森の動物達と暮らしていても視界の隅にあの鳥籠が悪夢のように映り込む。そんな折に近所の動物から、どこからか流れ着いた奇妙な男が森に店を構えたと聞かされた。異世界の食べ物を売っていて、それを食べるとぱんぱんに腹が満たされると人間にも動物にも評判らしい。その話を聞いた時、今や女王である男の、最後に見たやつれた顔を思い出した。それを持って行ってどうなるというのか、そもそも届けることすら不可能であろうなどとは不思議と頭に浮かばなかった。




    【本編】
     アリス…唐揚げを追いかけ不思議の世界へ来てしまった弁当男子。元の世界に戻る方法を探すため、とりあえず弁当屋をしながら旅をしている。
     蜂…アリスの弁当に感動し、押し掛け店員になった蜂。ブンブンやかましい。


     アリスと蜂は八咫烏弁当・異世界店を出店するため、とりあえず最寄りの「女王の国」の城を訪れた。そこが冷酷無慈悲な女王が独裁する恐ろしい国、と知ったのは不運にも入城してしまった後だったが。冷や汗をかきながら玉座の間に通されると、女王と呼ばれていたのは意外にも痩身の若い男であった。微睡むように玉座にくつろぐ態度は無慈悲というよりは無気力といった雰囲気で、城で弁当を売って良いかというアリスの訴えについても口を開くことはなく眠っているようにコクリコクリと頭を揺するだけだった。結局怪しい商人としてアリス達は放り出されたのだが、最後に女王が兵士に担がれるように玉座を離れるのが見えた。重い病気なのだろうか、アリスは妙にそれが気になった。
     城で商売ができないなら仕方がない。アリス達は城の周りの森に出店をこしらえた。これは意外と功を奏し、出入りする猟師から森の動物にまで好評だった。だが上手くいけば必ず問題は起きるもの。執拗に八咫烏弁当を狙う盗人がアリスを悩ませた。森に住む大きな白兎で、出店どころか配達中でも掠め取ろうとしてくる。アリスと蜂の奮闘でなんとか未遂で済ませてきたが営業に支障が出るのは目に見えていた。しかし来る日も来る日も兎は現れた。アリスはなんだかこの兎にのっぴきならない事情があるような気がして近所の動物に兎のことを尋ねてみた。とても悪戯好きで、昔は毎日のように城に忍び込んでは悪さをしていたらしい。だが先代女王が没し、今の女王になると城に行くのをパタリとやめたと言う。
     森で一番高い木の上で兎は城を眺めていた。蜂の羽根で近くの枝に運んでもらったアリスは思い切って声をかけた。「あんた、自分で弁当を食うつもりじゃないんだろう」「あそこに食わせたいやつがいるんだろう」兎は食べ物に困ってはいないし、美味いものが欲しいならいくらでも城から盗めるからだ。そして、いつもここでただ城を眺めているから。アリスの言葉に兎は面食らった様子で、しかし観念したように城の一際高い尖塔を指差した。
     しばらく前まではよくあの尖塔に食べ物を届けていた。そこには自分が先代女王に処刑されかけた時に助けてくれた男、女王の夫が幽閉されていた。女王に無理やり結婚させられた囚われの男は食事すら拒んで衰弱していたが、なぜか自分が持って行ったものだけは食べたので城の食べ物を盗んでは男に届けた。しかし先代女王の死後、男が女王を継ぐことになってしまった。その男こそ今の女王、アリスが謁見したあの痩身の男である。
     当然アリスは怒った。怖い女王がいなくなったのになぜその人は解放されない。周りだってその人に女王なんてできないと分かっててなぜ女王をさせ続ける。一番そう問い質したいのは彼だったろう、兎は言葉を選ぶように渋々と語った。あの恐ろしい女が死んだとて「女王」はまだあの城に生きているからだ。あの女は死ぬ前に、あの男にお前が女王だと命じた。ならば彼はどうしても女王をしなければならず、また城の者達もどうしても彼を女王にさせ続ける。あの城の人間は皆そういうものなのだ。心を取り上げられ、女王に従うよう調教されている。女王が死のうが誰かに代わろうが彼らはただ「女王」の意思に従うしかない。あの城は女王の鳥籠だ。飼い主が去り扉も開いたが一羽も飛び立てない。まだそこに鳥籠があるから。彼が女王である限りあの城は彼を逃がさないし、彼自身も城の者達も彼を女王にし続けるだろう。
     そこまで話すと兎は黙り、蜂も俯くしかできなかったがアリスだけは前を向いていた。後日、アリスと蜂は弁当一つのみ携えて玉座に赴いた。八咫烏弁当が森で評判になり女王陛下にもご献上云々などとどうでもいい理屈をつけて。兎から聞いていたように女王は食事を摂らない。兵士は立ち去るよう告げたが蜂は構わず喋り続けた。「でも人間だけじゃなくて動物とかにも人気あるんですよお」「例えば、兎とか!」一際大きく張った蜂の言葉に濁った女王の瞳がわななくように揺れた。蜂を黙らせようとする兵士達に目もくれず、必死に何かを思い出すように「うさぎ」「うさぎ」と口の中で繰り返している。アリスはその様子にだけ集中し、そして初めて女王の声を聞いた。「彼らを私の部屋に通しなさい」
     女王は兵士を扉の前で待たせ、部屋は女王とアリス達だけになった。女王は無気力な様子から一変し、激しい痛みに耐えるようなしかし真剣な面持ちであった。アリスは彼を励ますように弁当箱を差し出して包みを開くと女王は声を漏らした。弁当箱に詰められていたのは城のキッチンにある果物や茶菓子だった。兎がしばらくぶりに城に忍び込んで頂戴してきたものである。女王は震える手でそれらを一つ一つ摘み上げ、顔から遠ざけたり近付けたり、目を細めたり広げたり、時にはきつく目を閉じて「うさぎ、うさぎ」と呪文のように繰り返し唱えた。すると女王の瞳からやにわに一粒、二粒と涙が零れた。やっぱりだ、とアリスは思った。この人は思い出せないだけできっとまだ心を、兎との日々を憶えていると信じていた。アリスは自分達が兎のためにここに来たことを伝え、この国から今度こそ「女王」を殺すために力を貸してほしいと話した。
     女王が手を叩いて兵士を呼ぶと、アリスの弁当箱を指差し「彼奴ら盗人である。すぐに裁判を行う」と言い放った。今の女王がこのようなことを言い出すのは初めてだが先代女王には頻繁にあったことである。玉座の間に兵士、裁判官、使用人……城の全ての者が集まり裁判の用意が迅速に整えられた。被告人であるアリスが女王の前にひざまずかされ裁判官が開廷を宣言しようとした時、アリスの怒声が轟いた。「ここが裁きの場であるなら、我々は女王の罪を問う」どよめく広間に正装した兎が颯爽と現れた。裁判官でも見たことがない、床に引き摺るほど長い罪状を持って。兎は広間の隅々まで響き渡る声で罪状を読み上げる。国民を誘拐し監禁した罪。結婚を強制した罪。夫に苦痛を与えた罪。死してなお自分の友人を奪った罪…… 城の者達はおののいた。女王を裁く法律はこの国に無い。法律に無い罪は法律を作る者、女王の判断で裁くことになっている。全ての視線が女王に集まった。女王は微笑み、こともなく答えた。「そいつはひどいな。死刑だ」
     玉座の間は凍り付いた。判決は出た、早く殺せとアリスがせっついても誰も動けない。彼らに女王を傷付けることは許されていないからだ。死刑執行人ですらである。女王は溜め息をついた。「埒があかないな。そこな賢い兎、どうすればよい?」女王の問いに兎は恭しく頭を垂れると「仕方ありませんなあ、ではこういたしましょう」ともったいぶって切り出した。女王陛下はお体が優れず、お一人では歩くことすらできない。この城で一番長い階段を上った先の尖塔の部屋、そこへお連れすればお一人で戻ることは絶対にできない。お迎えをやらなければどうなるか……それは皆目見当つかないが、傷一つ付けることなく、ただお部屋にお連れするだけで事が済むのではないか。「よかろう、誰か私をそこへ連れて行け」死刑執行人は女王を担ぎ上げるとあとは階段を上る音だけが響いた。城の者達は皆どこか安堵した表情であった。

     兎が体に染みついた動きで尖塔の窓に上ると、いつかの光景と寸分違わずベッドに痩せた男が座っていた。いや酒が無いところが違うか。兎がアリスから預かった弁当箱を枕元に置くと、男は葡萄を一粒だけ摘み、昔のように難儀そうにゆっくり噛み含めた。
     こうして女王は処刑された。尖塔への階段を上がる者は二度と現れなかった。



     もはや女王不在となった「女王の国」の外れ。数日前まで女王と呼ばれていた男の家で、アリス達は兎と男に別れを告げていた。結局アリスはこの国を出ることに決めた。森の出店は気に入っていたが自分が台無しにしてしまった城の傍で商売をするのは気が引けた。男はこの家で店を開けば良いと快く言ってくれたが流石にそれは丁重に断った。
     別れ際、兎はアリスに耳打ちした。結局アリスの弁当が男の口に入ることはなかったので弁当とやらの作り方を知りたいと言う。男が元気になったらたくさん食べさせてやれと、アリスは自慢のレシピをいくつか手早く書くと兎に持たせてやった。「白兎弁当」という店がこのあたりで繁盛するのはしばらく未来の話である。

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