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    Shrimp_Syako

    @shrimp_syako

    ニャーン

    手をつけるのに時間が空きそうなラフ、特殊嗜好の絵、掌編小説とかをぽいぽいします
    攻めを食い散らかす受けが好き

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    Shrimp_Syako

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    妖精23 2年とちょっと後の話

    ##C翼(文)

     ハイネ少年はノックの音で目を醒ます。
     覚醒したにもかかわらず、いまのは幻聴だとまっさきに思った。または、まだ夢の世界であるのかもしれない。そうでなければ困る。かりに人の立てた音であるなら、それの神経がまともであるわけがないのだから。
     しかし続いて解錠の音があたりに鈍く響いた。廊下の照明光を背に連れた侵入者は堂々と部屋に入り込む。後ろ手で扉を締め、手探りになって進み、やがて人の布団を無情な手つきで引き剥がしてしまった。そして寝台のはじに腰をかけると、まだ寝台に沈んだままの相手の肩に手をかけ、その真っ黒い目を見開き暗闇に滲む白い顔をまじまじ見てから、心のそこから嬉しそうにわらって、「Heureka見つけたっ!」

    ――あ 寝るときはピアスしてないんだ?

     続いた素朴な疑問である呟きといえば日本語で、耳には届けども理解できるものではなかった。
     ただ、いずれにせよ、すなわちそれがドイツ語だろうが。必然の問いであろうがなかろうがいっそ誰の問いでもその内容ですら、いまこのときのハイネにとってはまったくどうでもいいことだ。なぜならどの質問にもかれはこう答えるはずだから。
    「…………いま何時だと思ってんの」
     そのとき、ドレスデンは丑三つ時であった。


    *

    「覚えてませんか」
     侵入者あらため日本人の少年は口を開く。その声は冷たいようでいて熱っぽい。アンビバレントのさなかにあり、また声変わりただなかであるこの声は、まっくらい部屋でいやに響いた。かれは自分の喉からそんなあまりに情熱を御しきれていない音が出たのが信じられないと思った。それで一度咳払いをして鹿爪らしい顔を作ってからこう続けた。「あんたおれに『ドレスデンに来い』って言ったの。だから来ました。おれとコンビ組んでください」
    「寝起きに2年前のこと思い出させるの酷とか思わない?」
    「すいません、ドイツ語の勉強はしたけど、あんまり難しいこと言われるとわからないですよ」
     あっけらかんと流暢に出てきたその言葉が皮肉かそうでないのか、寝起きであるハイネにはどうにもよくわからなかったし、どうでもいい。もしやいまの状況はもう一度目を閉じれば消える類のそれじゃないかと思いかけるも、その気配を察してか、無防備に投げ出されていた手を、はしっ咄嗟に――もしくはひしっと縋りつくように掴んできたかれの手の温度で目が冴えた。「たしかに、まあ言ったような、気も、すんね」これはその場限りの言葉ではない。
     叩き起こされた頭で(些かの逆回転をしながら)遠い記憶をたぐり寄せていま思い出した。理解した。言っていた。自分の口で。目の前にいるやつと同じくらい、もしくはもっと浮かれた調子で、ドレスデンに来なよって――たしかに、言った。「マジで来るとは思ってなかったんだって」
     む。「本気じゃなかったってこと?」
    「そうは言ってないじゃん。いや、せめて連絡してよ、びっくりしただろ」少しは眠気がさめてきた。ほんの少しだけ。瞼はまだ重い。「ぜったい口止めとかしたよね? そうじゃなきゃ今日まで監督からなにも言われないなんてことあるわけないんだから。オレ当事者でしょ? なんでサプライズにしたの?」「えへへ」「えへへじゃなくて‥‥」少年にまったくめげる様子も反省もなさそうだ。その顔には高揚しかない。まさに、喜色満面といったところ。
    「ほんとにオレとコンビ組むためだけにきたのかよ」ねえ、それってすっごい行動力! 揶揄する響きがうまくいかなくて揺蕩うに留まり、ただ褒めているみたいになってきまりが悪い。
    「そうですよ、片桐さん――ああ、サポーターみたいな? 合ってるのかな、この表現で、まあその人に相談して、留学プログラムに行けるように、勉強も、サッカーも、頑張って」
    「ふーん」
     掴まれていた手を動かしてみればあっさりと外れる。押さえつける意図はなくただ触れていたいみたいな、殊勝けなげというか、まあなんとも女々しいというか、かわいいんだか憎たらしいんだかわからない力加減だったのがわかった。
     そのまま顔にこそふれてみれば、かつての23番は、大げさなくらいびくりと震えたけれども逃げなかったから、それをいいことに指の腹でそっと頬をなぜた。「あっ?」かれはいよいよ驚いて目を瞬かせる。

    「なんだよ、ちょっとかわいいな」
     焼けた頬が赤くなっていくところが、まだ深い眠気に澱む暗闇のなかでやけにはっきり見えた。
     なにか期待したような熱っぽい視線に絡めとられかけて類焼が生じかけ、ハイネは首を振ってそれを振り払わなければいけなかった。
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    We are Buddy. ふと目が覚めてみると、大きな背中が視界に入った。広々と、そして隆々とした、傷だらけの背中。少し背を丸くして、獠はベッドサイドに腰掛けていた。その肩は一定のリズムを刻みながら、静かに上下を繰り返している。あたしは、身体に掛けられていたシーツを払って起き上がった。
     獠の背中には、今夜あたしが残した傷以外にも、生々しい打撲の痕が残っていた。それは、あたしを庇ったがために受けた傷だった。獠はいつも、依頼人やあたしが爆発に巻き込まれたとき、必ず庇ってくれる。その大きな身体を盾にして、爆風や瓦礫から守ってくれるの。今日だって、そうやってあたしを守り、獠は負傷した。
     それが、獠の仕事。それが、獠の生業。あたしも、頭ではわかっている。けれど、こうして獠の背中を見ていると、あたしのせいで傷つけてしまった事実を、改めて突きつけられた気がした。あたしは、獠の背中へ手を伸ばした。でも、その肌へ触れる直前で、あたしの手が止まった。――触れたからと言って、何が変わるのだろう。謝ったって、慰めたって、感謝したって、この傷が消えるわけじゃない。そもそも、獠自身はそんなことを望んでいない。それは、誰よりもあたしが一番よくわかっている。だからあたしは、その傷に触れることも、その傷ついた背中を抱きしめることもできなかった。それならば、せめて――。
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