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    三十路の無鉄砲

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    とととう様の素晴らしい作品、ショタえゔあちゅたサマーキャンプに触発されて三十路が勝手に妄想した大人になったふたりです



    やっとこさ長期の撮影が終わり帰国してすぐ空港から帰る途中に渋滞にはまった。 いつものこの時間なら道路はそれ程混んではいないはずなのに…、
    パッキングをして旅立った頃はまだ過ごしやすい陽気だったのに、気づけば季節は蒸し暑い夏になっていた。


    「夏休みか」
    「…え?」
    「この渋滞。 ファミリーカーばかりだし、旅行帰りの人達で帰宅ラッシュだ」


    あぁ、なるほど。
    迎えに来てくれたクリスが運転する車で、俺は買ってきてもらったアイスキャラメルマキアートの生クリームを大事に食べることに必死になっていたから周囲に気づかなかった。 暫くは続きそうなノロノロ運転にもう嫌気が差したんだろう、でかいため息をついたクリスがハンドルから手を離し俺の頬を撫でてきた。


    「久しぶりにセブに会えたのに。 早く君に触りたいよ」
    悲しげに眉を下げながら、生クリーム味の俺の唇に吸い付いてきた。

    「…あっま!」
    「いひひっ」


    一口飲むかと勧めたけど断られた。
    クリスはいつもと変わらない優しい眼差しで、生クリームを食べる俺をじっと見ている。


    「セブにとって、夏の思い出ってなに?」
    「え? なんだよ急に」
    「いやぁ、今不意に思い出してさ」


    クックッと喉を鳴らしながら体を震わせて笑う恋人に嫌な予感がしてきた…。

    「クリス。 俺のこと揶揄う気なら今すぐにでもこの車から降りてやるからな」
    「待って待って! いや、違うんだよ。 俺の体験した素晴らしい夏の思い出があってね、」
    「もう〜っ! またその話? 恥ずかしいからやめてくれよ」
    「まぁまぁ。 俺にとっての夏の思い出はーー」





    クリスの話は聞いてられないから、俺の夏の思い出を話そう。

    母の再婚に伴いアメリカに越してきた俺は、当時通ってたエレメンタリースクールでも友達が出来なくて、近所でもいつもひとりで遊んでた。 再婚相手の父親が心配して11歳の時にサマーキャンプのプログラムに送られたんだ。 もちろんそのキャンプでも友達は出来ず、慣れない英語でどもりながら喋る俺は他の子供達から揶揄われたりしてた。
    でも、ひとりだけ優しくしてくれる年上の男の子がいた。 いつもハキハキと喋る活発な子で、子犬みたいに人懐っこい笑顔で周りの子達からすごく慕われてた。 小さい子達の面倒もよくみてて、キャンプ場の指導員からも頼りにされてるその男の子を見て、優等生ぶってるいけすかない野郎だ、なんて思ってた。
     ある時、ひとりぼっちで草を引っこ抜いて遊んでた俺に話しかけてきて。 最初は疑ったしなんだか怖くて突っぱねてたけど、いつのまにか兄弟みたいに仲良しになった。 いや、ああいうのは親友っていうのかな。 今までそういう存在がいたことないからよく分かんないけど。

    その男の子とはなんでも共有し合ったし、いろんな話をした。 なんでも知ってる年上のかっこいいお兄さんだ。 ママには聞けないことも聞いた。
    そして、俺が大人になったのもその男の子のおかげだ。
    草むらの上にふたりで寝転がって、脚を絡め合い互いの性器をくちゅくちゅと擦り合わせた。 俺は今までに感じたことのない甘い疼きに頭が痺れたような感覚になった。はっきりとは覚えてないけど、直接的な言葉を何回か吐いた気がする。 だって、ものすごく、気持ちが良かったんだ。

    まぁ、その後も相変わらずその男の子にべったりくっついてたんだけど、指導員に班を別々にされたりしてふたりっきりになれる時間は少なかった。 隙を見つけては手を繋いでキャンプ場を抜け出し、誰にも見つからない秘密の場所で逢瀬を繰り返した。

    3週間のオーバーナイトサマーキャンプが終わり、俺達は本当に離れ離れになった。 暫くは手紙の交換とかしてたけどそれもいつのまにかなくなった。
    俺はいままで、ママやお婆ちゃん以外の誰かのことをあんなに大切に思ったことはなかった。 正直に白状すると、あれは俺の初恋だった。






    「ーー俺の夏の思い出は初恋だったなぁ、って」



    いつの間にか渋滞は緩和されて車は市内を走っていた。 クリスはご機嫌な様子でハンドルを回している。

    「セブ? ごめん、もしかして寝てた?」
    「ん、いや。 寝てないよ。 思い出してたんだ…」
    「へぇ。 あの夏のこと?」

    ニヤニヤしながら聞いてくるクリスに強めの肩パンをかます。 イテっなんて言いながらもあの頃と変わらない子犬みたいな笑顔で楽しそうに笑ってる。

    やっぱり俺は、あの頃から大好きなんだなぁ、クリスのことが。




    空港を出てから約3時間くらいかけてやっと家に着いた。 きょうから暫くの休暇の間、クリスの家でゆっくりさせてもらう予定だ。
    車をガレージに入れて固くなったおしりを座席から持ち上げる。

    「運転ありがとう。 クリス」
    「どういたしまして。 さぁ、ビールとピザが待ってるよ!」
    「それは楽しみだね。 ドジャーにも会いたいよ」
    「帰ってきたのが分かるんだな、ここからでも嬉しそうな鳴き声が聞こえてくるよ」


    玄関まであと少し。
    ドアをくぐったら真っ先にキスをしよう。
    そして美味しい食事をとって、ゆっくりバスタブに浸かる。
    その後は、そうだな…。


    「ねぇ、クリス」
    「ん?」




    「今夜ベッドでサマーキャンプする?」







    意味が分かったのか、動揺したクリスがキーケースを落としたのに笑ってしまった。
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