Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    azitama15

    パチパチパニック食べたい

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💜 🐇 🐧 👍
    POIPOI 52

    azitama15

    ☆quiet follow

    🖋️🗺️
    現パロ🖋️🗺️がデートをするだけ。
    ・がっつり🗺️からの→表現有り
    ・ちょっと🎞️🧸要素有り

    デートのしおり「オルフィーとライリーさんのデートのおはなしが聞きたいわ!」

    目の前の少女――アリスは、きらきらと期待に満ちた視線を二人に送る。
    人の恋愛に興味を持つのは実に女の子らしい。おませだなと微笑ましくも思う。一つ問題があるとするなら「確実に聞く人間を間違えている」という事ぐらいだろう。
    子供の頃からの付き合いではあるが、世間で言う恋人関係になってまだ一年にも満たない。それでもデートの一回や二回ぐらいはできるだろうとも思うが、学生であるオルフェウスと社会人であるフレディでは中々休みの都合が合わないことも多く、重なっていたとしても家の中で過ごす事が大半であった。つまりデートらしい事をした経験がなかったのである。
    仕事終わりに外で食事をしたり、交際を始める前ではあったがドライブをした事はあるとそれらしいエピソードを何とか絞り出してみるが、アリスは信じられないと言うように顔を引き攣らせる。
    「だめ、そんなのダメよ!」
    首を大げさに横に振りぱたぱたと自室に戻ると、またすぐに一冊のノートを持って二人の前にそれを差し出す。
    「それは…?」
    「本当はアニーのために考えていたんだけど…、あまりにダメダメなんだもの!しかたないわ」
    ノートの表紙にある自由帳と印字されていた場所が塗りつぶされ,代わりに「デートのしおり」と大きく書かれており、ページをめくればカラフルな絵と共に「ふんすいでまちあわせ」や「ゆうえんちにいってコーヒーカップにのる」といった拙い文章が最後のページにまで埋まっている。
    「明日はオルフィーもライリーさんもお休みなんでしょう?それ貸してあげるからちゃんとしてきてね!デート!」
    ライリーにそれをむいっと押し付け、ウィンクをする。
    「わたし,明日はアニーのお家お泊まりするわね!」と言い部屋に戻ろうとするアリスに声をかけるが,ご機嫌そうに鼻歌を歌って帰ってしまった。
    はぁ…と息を吐きながら残りのページをめくる。「すいぞくかんでイルカショーを見る」「ハートのストローでジュースをのむ」など少女漫画のようなシチュエーションにくすりと笑みが溢れるが、これをして来いと言うのはあまりにも鬼畜だろうと眉間を抑える。「キスをする」と言う文字が見えた瞬間にそっとノートを閉じると、背後から覗いていたオルフェウスが表紙を撫でた。
    「行かないのか」
    「ん?」
    「デートをしに」
    「は?」
    咄嗟に本気か?と言う言葉を飲みこみオルフェウスを見れば、それは冗談で言ったわけではない事は付き合いが長いが故にすぐにわかる。
    冗談なのか本気なのかわからないような事を、表情を変えずに言うのだから全く厄介だ。
    「…男二人で遊園地はどうかと思う」
    「元より、書かれているもの全てを一日で行うのは不可能だろう。君が妥協出来る範囲で抜粋すればどうだ」
    抜粋ったって……とまたノートを開くが,小学生程の年齢の子が考える事だ。アリスがする分には可愛らしいと思えるが,大の男二人がするとなるとどうしても人の目が気になるような事ばかりで頭を抱える。
    「まぁ,モールに行くだとか,喫茶店に行く…ぐらいなら。…そう言えば、図書館の近くに新しく出来た店があったんだ、昼食はそこにしないか」
    「モール内で古本市を行うと聞いている。食事を終えたらそこへ行こう」
    「いいな、それ。夜はパブにでも行くか?酒を買って帰ってもいいが、折角ならたまには外で――」
    交際を始めてから、こんな会話をするのは初めてだった。
    出かける予定を立てるだけ、それだけなのに何故だか心がこそばゆくなる。楽しい、なんてそんな風に思える程若いわけでもない筈なのに。
    その日は何故だかいつもより寝つけなかった。

    ――

    翌朝。
    簡単な朝食を済ませ、オルフェウスとアリスを見送った後、食器を片付けて身支度を整えに鏡の前に立つ。
    オルフェウスとはアリスを送って行った後、図書館に隣接する公園内にある噴水広場で待ち合わせることになっていた。一緒に家を出る予定だったが、アリスから「待ち合わせもデートなのよ!」と叱られ、時間をずらして会うことになったのだ。
    髪を梳かし、少量のワックスをつけ馴染ませる。普段であれば前髪だけを残して後ろへ流しかっちりと固めるのだが、仕事ではないのだしと下ろしたまま少しだけ毛先を遊ばせる。変に意識していると思われたくはないから、あくまで自然に見えるように。眼鏡も何となく気分でラウンド型のものからウェリントン型のものに変えてみた。これだけでも多少印象は変わるものだなと鏡に写る自分を見つめる。服にシワやヨレがないかくるりと身体を回して何度も確認し、洗面台の引き出しの奥から一つの香水瓶を取り出した。
    一度だけ使ってはみたが、その香りを気に入ったオルフェウスから褒められて以降、気恥ずかしくてそのまましまい込んでいたものだ。鈴蘭の爽やかな香りを身体に纏わせ、もう一度鏡を確認する。見るからに浮かれている自分に恥ずかしさを抱いた。
    仕方がないだろう、誰もが恋人にはよく見られたいと思うに決まっている。そう自己弁護をする。結局意識をしているのはこちらの方なのだと自覚させられ耳が熱くなった。
    高揚感、そして緊張と少しの不安。複雑な感情に胸がざわめく。玄関の扉の前で深く呼吸をして、ドアノブへ手をかけた。 

    ――

    「悪い、待たせたか」
    広場の前につけばオルフェウスは既に着いており、虹色に光を反射して飛沫を立てる噴水を眺めていた。
    「先程到着したところだ」
    ドラマなどでよくあるようなやり取りだなと少しおかしく思う。喫茶が開くまではまだ時間もあるし、図書館で時間を潰そうと公園内の遊歩道を通りそこへ向かう。
    遊具の方から聞こえる子供の声、風になびく木々の葉の重なる音。二人の間に会話はなく、ただそれらの音が静寂をかき消す。何か話すべきなんだろう、何を話せばいいのだろう。そう頭を巡らせるフレディには助け舟のようなものだった。
    「フレディ」
    名前を呼ばれはっと顔をあげる、気付けば図書館の前についており、オルフェウスが顔を覗いていた。
    「気分でも優れないのか」
    「…いや別に。と言うか近い」
    オルフェウスの胸元を押しのけ顔をそらす。普段から距離を縮めてくる癖があるが、今それをやられるといつも以上に心臓に悪い。そそくさとオルフェウスから離れ、図書館の案内板を見る。
    「お、見たかったやつが入ってる。俺は2階に行ってくるがお前はどうする?宗教学だったら一階の北側にあったぞ」
    「ここに置いてあるものは読了してしまっているし、君の好むジャンルに興味はある。着いていこう」
    「ならおすすめを選んでやる」
    本を手に取り窓際の席で向かい合い読み進める。時計の針や紙の擦れる音がよく聞こえるほどの静けさだが、居心地の悪さは感じない。お互いに読書にのめり込む。
    三分の一ほどを読み終えたあと、目を休ませる為に視線を本からずらす。そのままオルフェウスの方に目を向ければ、先程勧めた本の文章を目でじっくりとなぞり、その世界へ浸っていた。その姿を見つめていると、ぱちりとオルフェウスと目が合う。それと同時に正午を知らせる鐘の音が外から響いた。
    「そろそろ向かうか」
    「あ、ああ、そうだな」
    助かった、と内心胸を撫で下ろす。見惚れていたなんて口が裂けたって言えない。
    図書館から歩いて五分もしない場所にある喫茶店へ向かう。外観はレンガ調で、古めかしい珈琲の看板が置かれている。開店したばかりだと聞いていたが、良い意味でそうとは見えないほどその場所に馴染んでいた。レトロチックなのは店主の趣味なのだろう。扉を開ければカランコロンと軽快にドアベルが二人を迎え入れる。案内された席に座り、その店のおすすめだと言うホットサンドのセットを二つ注文した。
    「君が勧めてくれた本だが、面白かった。読んだのは中盤までだったが描写に引き込まれる」
    そう言ってオルフェウスは先に届いたセットの珈琲を一口含む。フレディもそれは良かったと返しまず珈琲の香りを楽しんだ。
    「気に入ったのなら今度貸してやろうか。あのシリーズは部屋に揃っているし」
    「そうさせて貰おう」
    本の感想を語り合っている内にホットサンドも届いた。たっぷりのハムととろけたチーズを挟んだそれは、嗅覚からだけでもなく視覚的にも食欲をそそる。その店のオリジナルスパイスとレモンが添えられて味に飽きがこないようにも工夫がされている。ボリュームもあったがぺろりと食べれてしまった。食後にまた珈琲を楽しんでいると、口直しにと手作りだと言うアイスクリームをサービスしてくれた。
    「…うまい」
    バニラの甘さがじんわりと舌の上に溶け、深煎りした珈琲の苦味ととてもよく合う。思わず頬がほころんだ。ちゃんと美味しいと感じる余裕がある食事は何だか久々のような気がする。最近は時間的に余裕がないことが多く、出来合いの惣菜やデリバリーに頼る事が大半だった。そもそも一緒に食事をする時間がない日もあったのだから、こうやって何気ない言葉を交わし、食事にゆっくりと時間を使うのは新鮮で、嬉しいと素直にそう思える。最後の一口を飲み終え、会計をしに席を立つ。
    「お代でしたら、先程お連れ様に頂きましたよ」
    財布を手に持っていると、カウンターにいた店員からそう声をかけられた。さっき手を洗いに行くと言って席を外した時だろうか、そうだったのなら早く言えと店員からは見えないように肘で軽くオルフェウスをこずく。何かおかしな事でもあったのか?と言う顔でこちらを見てこられるとそれ以上は何も言えなくなるのだが。負けたようなそんな気分にさせられる。完全に八つ当たりではあるのだが、レジの前に置かれていた自家製キャラメルを一袋購入し、オルフェウスのコートに突っ込んだ。
    「もしよろしければなのですが、こちらも受け取って頂けませんか」
    手製のポイントカードと共に三枚のチケットらしきものを受けとる。チケットには「抽選券」と書かれており、何かと聞けば
    「少し行った先のショッピングモールで抽選会をやっているんですが、今日が最終日なんです。それをすっかり忘れていて…。私は今日中は難しいので、モールへ行かれるんでしたらどうか受け取ってください。三枚で一度だけ挑戦できるそうなので」
    丁度これから向かう予定だったと言えば、良かったと店員が微笑む。またカラカラと音を立てるドアベルに見送られ、店を後にした。

    ――

    平日の金曜日とは言えモール内はとてもよく賑わっていた。お目当ての古本市をやっているフロアに向かう為にエスカレーターに乗っている途中、抽選会の様子が確認できた。最終日ということもあり景品の数自体は少ない様に見えるが、少々がっかりした様な顔をしている客がいるという事は、まだ上等な景品は残っているということなんだろう。
    目的のフロアに着くと規模自体はそこまで大きくはないが、ぎっしりと様々なジャンルの本が並べられ、隅の方には読書用の簡易的なスペースが設けられている。メジャーな人気作品から、出版社もピンとこないマイナー作、よく見れば今ではオークションにかけられているような貴重な本が順不同に並べられているのは、言ってしまえばそれも醍醐味というものなのかもしれない。とりあえず何冊か気になったものを手に取り吟味する。この後もモールに来たのならと回りたい店があるし、一冊二冊程度にはしようと考えているが悩ましい。
    「そうだ。オルフェウス、折角だからお互い一冊ずつ選び合うのはどうだ?」
    「私は構わないが、気になったものがあるのだろう。それではなくていいのか」
    「自分で選ぶとどうしたって好みが偏るし、お前が何を選ぶかは正直気になるしな」
    「ならば、出来る限り君の眼鏡に適うよう尽力して選ぶとしよう」
    「ははっ、楽しみだ」
    二手に分かれ、背表紙に書かれた題名を見て興味がありそうなものから順にあらすじを確かめる。選ぶと言ったがあの読書家の事だから、もしかしたらここにある本も大概は読んでしまっているものじゃないかと頭を悩ませた。薬理学を専攻しているのならその分野に精通する有識者の自伝などがいいだろうか、好みから選ぶとするならオルフェウス自らも執筆しているサスペンスホラーがいいだろうか。うーんと悩みながら一冊の本に手を伸ばすと、自分よりも二回りは大きな手が重なった。
    「気が合ったな」
    手を素早く離して頭上の男の顔を見る。くすりとオルフェウスは笑いながらその本をフレディに渡し、また別の本棚に向かう。
    おかしい、うるさい、ずるい。鼓動の音が耳をジンジンと突く。髪を下ろしていて良かった、きっと血が巡って赤く染まっているだろうから。いつもの髪型だったら見られてしまう。
    思春期でもあるまいしと、心の中で頭を壁に打ち付ける。いてもたってもいられなくて、そのまま本を会計し、読書スペースに向かった。自分用に購入した本を少しだけ読み進めていると程なくしてオルフェウスも現れる。お互いに選んだ本を交換し合い、中身を見るのは帰った後のお楽しみと言うことにした。
    他のフロアに移動し、夏の衣類品や雑貨などを見て回る。アリスのしおりに「おそろいのお洋服を買う」と書かれていたのを思い出したが、自分達のペアルックを想像したら鳥肌が立つ。それにオルフェウスの体格に合う服は中々ない。今だけはオルフェウスの無駄に大きい身体に感謝をしながらそこを通り過ぎるとドリンクショップの前にたどり着く。そう言えば「あたらしいフラペチーノをのむ」なんてことも書いてあったなとぼんやり考えていると、オルフェウスが入るか?と言うのでついていくことにした。
    アリスの書いたしおりに書かれていることなのだから、若年層が集まる店というのはわかってはいたが想像以上だ。場違いじゃ無いか?とも思うが学生のオルフェウスがいるのだしもういいかと諦める。店の前に新作と張り出されていたポスターに書かれてある、シトラスとパッションフルーツのフラペチーノを頼むとカスタムはどうするかと聞かれたが、わからないのでお任せでと言って受取用のカウンターに移動する。飲み物というより、デザートでは?と言いたくなるようなクリームの量に息を飲んだ。
    「あっまいな…」
    口に入れただけで強烈な甘さと冷たさに脳が痺れる。普段からそこまで甘い物を口にしようと思う事がないため、舌が慣れていないのだろう。だが夏目前の暑さとフルーツのきりりとした酸味は相性がいい。甘いと言いつつもちびちびと口にする。ただこの可愛らしい外見の飲み物をずっと持って歩くには恥ずかしい。元より少し飲んでオルフェウスに押し付けるつもりだったのでそうしたが、あまりの似合わなさに笑いが込み上げそうになる。
    「…何だ」
    「いや…、んふふ。美味いか?」
    「甘い」
    微妙に答えになっていないと思ったが、そのまま残さず飲み終えたという事は不味くはなかったんだろう。珍しい光景だったのだから写真でも撮ってやれば良かったと少し後悔した。
    フロアガイドを確認すると別館の方では移動式の水族館が催されているらしく、折角だからと向かうことにした。
    「水族館に行った…って事にはなるか?流石にイルカはいないけどな」
    ライトアップされた熱帯魚達を眺める。フリルの様な尾鰭をひるがえし、ゆらゆらと泳ぐ姿に癒される。
    「今度休みを取れたら、隣町の水族館に行ってみるか。確かそっちだとイルカショーもやっていた気がする」
    「今度?」
    何かおかしな事を言っただろうか。オルフェウスは少し驚いた様にこちらを見て、顎に手を当てた。
    「君の口から、「次」が出てくるとは思っていなかった」
    そのまま水槽の前の手すりに片手を付き、また目の前の水槽を眺める。
    「、嫌だというならいい。何でもない」
    ああ、自分の悪い癖が出た。
    こんな事が言いたかったんじゃない。けど、本心を口にする勇気がない、嘘で言葉を隠す。浮かれているのは自分だけだったのかと、それを受け止めたくなかった。
    「違う」
    手すりに置いていた手をオルフェウスがぎゅっと握る。人前で…っ!っと振り払おうとしたがそれよりも強い力で抑えられる。
    「一つ訂正をしよう、私は嫌だとは感じていない。寧ろその逆だと思ってくれて構わない。私が意表を突かれたのは、君がこのデートという行為に好感があり、次を望んでいたという事実が私の想定には存在していなかったからだ」
    「そう言うのをいちいち説明してくるな!恥ずかしい!!」
    「誤解が生じたままでは君も虫の居所が悪いだろう」
    ぐぅ、と言葉を飲み込む。いつもそうだ、こいつは人の心を見透かした様な言動を取ってくる。それが嫌で、ムカついて、怖かった。わかるのなら言ってこなくたって、言わそうとしなくたっていいじゃないか。こう言うところが嫌いなんだ。調子がどうしても相手に飲まれてしまうから。
    「…楽しかったか、今日」
    ぎゅっと拳を握っていた片方の手を手すりにかけ、爪を立てる。
    しようと思えば、態度で突き放せる。似た様な状況になった時はそうしてきたからだ。けど今日は「デート」なのだから。…恋人、なのだから。意地を張るのは、きっと間違っているとわかっている。
    「言うまでなく当然だ」
    酷く優しい低音が鳴る。重ねられた手が、もう一度強く握り締められた。
    「俺も、…俺もそうだ。ちゃんと楽しかった。…嘘じゃない」
    顔が見れない。素直な言葉とはこんなに恥ずかしいものだっただろうか。でも、同じだった。その事がじわりと胸を暖かくする。気づくと何だかいくつか視線がこちらに向けられている様な気がした。ずっと同じ水槽の前にいて、そう言えば、手を………。ばっと両手を上げそのままオルフェウスの腕を引っ張り、早足でその場を離れた。
    気が抜けて何だかどっと疲れがくる。予定を変更し、いつも選んでるものよりも質の良いワインと好きなつまみを買って、録り貯めていたドラマを消費しようという事にした。帰り際に忘れない様に抽選会場に立ち寄る。どうやら一等はもう出たらしいが、二等の人間をダメにすると言うクッションは残っているらしい。もし当たったとしてもあんなものどうすれば良いのだろうと考える。アリスなら喜びそうだと思ったが、普段からオルフェウスをソファ代わりにしているのだから無用の長物なのかもしれない。係員に券を渡し、抽選機の前に誘導される。こう言ったもので当たりを引いた経験はないし、心が躍ることもないのでオルフェウスに譲った。ガラガラと音を立て抽選器が回される。二、三度回転したところでコロコロと黒い色の玉が転がった。二等は赤い玉だった筈だし、参加賞のポケットティッシュは白い玉だった筈。何だろうと抽選表を見ようとするとけたたましいベルの音が鳴り、体が飛び上がる。
    「おめでとうございま〜〜す!!特別賞の永眠町温泉旅行です!!!!」
    呆気に取られているとパンフレットと旅行券を手渡される。喜ぶべき場面なんだろうが、急に言われたってどうしたら良いのかわからないものだ。当てた本人はと言うと特に表情は変わることはなく、係員からフラワーレイをかけられていた。
    「お前、こう言う所あるよな」
    呆れた様に笑い、レイをかけられた姿のオルフェウスを記念に撮った。少しだけ迷惑そうな顔をしているのがまた面白い。壁紙にでもしてやろうと思ったが、バレたら面倒くさい事になると思ったのでやめた。笑った事が気に入らなかったのか、不貞腐れ気味のオルフェウスを宥め帰路に着く。

    ――

    帰宅してから直ぐにシャワーで汗を洗い流し、今日ぐらいは良いかとタオルで軽く髪を拭いて買ってきたつまみを取り出す。出来合いのものだがせめて見栄えぐらいは整えようと皿に移し替え、ワインのコルクも開けておく。オルフェウスがシャワーを浴び終わったタイミングで冷蔵庫から冷やしたワイングラスを取り出し、リビングのリクライニングのソファに寄りかかる。
    「シーズン4の何話だった?最後に見たの」
    「8話でブルーベリーのパイだと思われていたものが、毒性のある植物を使用していたものだと判明したのは覚えているが」
    「何で覚えてるのがそこなんだよ」
    部屋の電気を消し、ワインを楽しむ。登場人物達に野次を飛ばしつつ、展開を推理しながら語り合うのは面白い。終盤に差しかかる頃には日付は超えており、アルコールも入っている事から眠気も感じ始める。オルフェウスの肩に寄りかかり、音量を少しだけ下げる。
    「…昼間にお前の想像していない事を俺が口にしたと言って、驚いてたのは…俺が今まで恋人らしい事を避けていたからか?」
    臆病だと言われても良い。だが酒の力を借りなくてはこんな事言えなかった。
    オルフェウスはその質問にも大袈裟な反応は見せず、いつも通り淡々とした口調で答える。
    「部分的に見れば、それも要素の一つだろう」
    「なら他は?」
    「避けられていたのは当然だと理解していた。私は君の恋人ではあるが、恋しい相手ではないのだから」
    つきりと、古傷を剥かれた様に胸が痛んだ。
    かつてただ一人だけ恋をした女性がいた。愛だの何だのくだらない物だと鼻で笑っていた自分が、そんな考えもプライドも全て投げさってしまう程に、彼女に対して熱く、熱く、身が焼け尽きそうな愛情を抱いた。いまだにその熱は胸の内で燻り続けている。
    彼女を言い訳にするつもりは微塵もない。だが、この身勝手とも言える愛情を抱いたまま、オルフェウスの横に立つ自信も、資格も自分には存在しない。だから避けた。突き放そうと強い言葉を吐いた事もある。それでも離れて行かないのならいつか呆れて去って行くのを待った。なのにこの男はただ自分を愛してしまったわけではなく、こんな人間としての未成熟な部分でさえもまとめて、それで良いと受け入れた。
    何て馬鹿なんだろう、愚かなんだろう。見返りだって期待出来ないのに、ただ苦しいだけだろうそんなのは。何故お前は笑う?それを良しとする?理解しなくても良いとお前は言うが、答えを知りたい。それ程まで
    「俺はきっと、お前に愛情を抱いてしまっている」
    オルフェウスの両腕がフレディの肩を掴む。それはと開く口を人差し指で押さえ、フレディは言葉を続けた。
    「お前が言いたいこともわかってる。俺は彼女への愛を捨てる事はできない、これから先もそれは変わらないと言い切れる。…だけど、間違っているとわかっていても、お前の恋人として過ごした今日が本当に…本当に嬉しいと思えたんだ」
    この関係に恋人なんて名前を付けてしまった時から、もしかしたらもっと前からかもしれない。ずっと何かがおかしかった。
    愛される事を拒んでおいて、愛されている事に喜びを感じた。愛す事なんて出来ないと自分で決めて、それを今破ろうとしている。
    「君が彼女の元へ行く事を願うなら、私は背後を振り返りその手を離していた」
    するりとお互いの指を絡め合う。熱いと感じるのはどちらの体温のせいだろう。
    「今はそれを拒もうとする己がいる」
    なら離さないでくれ。逃げたりなんてしないから。地獄の炎に焼かれてもずっと。そんな自分の声がした気がした。
    額同士をすりつけ、そのままゆっくりと瞼を閉じる。柔らかい唇の感触にはまだ慣れない。ふとあのノートに書かれていた事を思い出す。あの子の考えているキスは、こんなアルコールくさいものじゃなくて、お互いこんな夜着姿じゃなくて、絵物語に出てくる様なもっとロマンティックなものなんだろうと思うと、そんなタイミングでもないのに笑いが溢れ出す。珍しくペースを乱されているのはオルフェウスの方で、ばつが悪そうにぐりぐりと顔をフレディの肩に押し付ける。
    「悪い、悪かった。お前に笑ったんじゃない」
    まだ乾き切っていない髪を手で梳き撫でる。腰に回る手に力が入ったと言う事は信用されてないんだろうか。ずっと撫でていると、自惚れるぞとくぐもった声が聞こえる。お前がそうしたいのならそうしろと返すと、そのまま抱き寄せられた。
    「ならあの香りを纏ったのも私の為か?」
    「はっ?!っ…くそ、そうだよ、文句あるなら言ってみろ」
    「はっきり言って気分は良い」
    くるると喉を鳴らし、わかりやすく機嫌がいい。何も言ってこないから気づいてないものだと思っていたが、こう言うところがあるから嫌だ。それからは髪型がいつもと違て良かっただの、可愛かっただの、水を得た魚の様に言葉を並べるオルフェウスの口を無理矢理塞ぐのに手一杯だった。流石に眠気も限界で、そのままオルフェウスの体に項垂れる。アラームを設定する気力もない。どうせ明日も休日だからと諦めた。
    「お前、夏の休暇中はもう予定入れたのか」
    「特には」
    「なら第3週は丸ごと空けておけ」
    クエスチョンマークを浮かべた様な顔をするオルフェウスの額に軽くデコピンをする。
    「鳥頭が」
    紙袋の中からパンフレットを一冊取り出す。
    「…水族館じゃなくなったが、別に良いだろ」
    むすとした顔でパンフレットを指でなじる。そんなものもあったなと返すオルフェウスにもう一度デコピンをお見舞いしようとするが、そのまま手首を抑えられ、触れるだけのキスで黙らせられる。

    「君からの誘いなら、何処へでも喜んで行こう」

    「地獄でもか?」

    「あの場所でワルツを踊るのはお勧めしない」

    「何だそれ」


    まるで行ってきたことがある様な口ぶりにくすくすと笑いながら、そのまま眠りに落ちる。
    目覚めると、昼過ぎを指す時計の針と目が合う。休日だとわかってはいるが、ここまで長い事眠ったことがないので罪悪感に駆られた。まだ起きる気配のないオルフェウスの腕の中からそっと抜け出し、目覚めの一杯の支度をする。珈琲が落ち切るのを待っている間、そう言えばと思い出す。
    「…夢を見なかったな」
    毎日の様に見ていた筈の、彼女の事を。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘☺💯
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works