雪遊び「おっ。カゲ先輩」
「よお、空閑」
「こんにちは」
「あ? 三雲もやんのか?」
「いえ。ぼくは付き添いで」
「なら、飲みモン買ってこい。冷えるぞ」
「あ、ありがとうございます」
影浦は呆れたような顔でため息をつくと、修の手に小銭を握らせる。
「カゲ先輩、おれのは?」
影浦の上着を引っ張り、自分だけ小銭をもらえなかった遊真は唇を尖らせる。
「おめーは、遊び終わったら買ったやるから待ってろ」
と、髪をぐしゃぐしゃにしながら口の端を上げる。
頭を撫でられて嬉しかったのか、口を緩ませて影浦を見上げる。
「んじゃ、やるか」
「うん」
影浦は頭から手を離し、しゃがみ込む。そして遊真も隣に座りこんで。
「おい」
「ん?」
「手袋はどうしやがった」
「いらない」
「は?」
「こら、空閑。レイジさんにもらったのをつけろって言っただろ?」
と、修は少し呆れたようにポケットから手袋を出して遊真の手にはめる。
「むう……」
手袋をされて不満なのか、唇を尖らせて。
「カゲ先輩、ちゃんと手袋し、た……」
褒めろといわんばかりに振り返った遊真であったが、影浦にマフラーを巻きながらキスをする二宮を見てぽかんと口を開ける。
それに気づき、修が慌てて彼の目をふさぐ。だが、すでにそれを目撃してしまった遊真は手を払い、二人を指さしながら修を見上げる。
「オサム、あの二人は何をしているんだ」
「ヒュース、しーっ」
「ちゅーしてるんだよ」
「なんでだ」
ひょこっとやってきたヒュースが問いかけるが修は答えず。遊真がキスをしているのだと伝えると、さらになぜだと問いかけて。
「み、見せもんじゃねえぞ!」
素早く雪玉を作り、影浦は真っ赤な顔で三人へと投げつける。
「わっ」
「むむっ」
「んぐっ」
顔面に雪玉を受け、三人とも小さく悲鳴を上げて。
「なるほど。今みたいに雪を投げればいいんだな」
にやっと笑って、遊真はしゃがんで雪玉を突くて影浦へと投げる。
「当たんねえよ!」
ランク戦の時とは違い、”投げる””当てる”という意思が向けられているため、影浦は軽々とそれを避ける。そして、新しく雪玉を作ると遊真へと投げて。
雪合戦を始めた二人に巻き込まれぬよう合間を縫い、二宮は修とヒュースの元へ来る。
「飲み物は買ってきたのか」
「いえ。まだです」
「なら、早めに買って来い。二人分だ」
「あ、ありがとうございます。二宮さんの分は」
「俺のは後でいい。おまえたちの体が冷える方が問題だ」
と、二人の手に小銭を握らせて。
「ヒュース、こういう時はありがとうと言うんだ」
「アリガトウ」
手のひらの小銭を見ていたヒュースは修に耳打ちされ、二宮へとお礼を告げる。
そして、二人は飲み物を買いに行って。
片腕に三つずつ乗せ、影浦と遊真は楽しそうな表情で雪合戦をしている。
それを尻目に、二宮はせっせと雪だるまを作っていく。
一つ二つと作っては並べていき。
「かげうら」
三段重ねの雪だるまが出来上がると、少し声を弾ませ影浦を呼ぶ。
「「あっ」」
二人の焦った声が重なる。
ずる、ずるっと二宮の顔から雪が落ちる。
二宮はそっと雪だるまを降ろすと、ギュッギュと硬い雪玉を作っていく。
「空閑、逃げるぞ」
「う、うん」
二宮がせっせと雪玉を作っている間、足音を立てぬよう二人はその場から離れていく。
「逃がすか」
それを察した二宮は、立ち上がりながら順番に雪玉を投げていく。
「バーカ! どこに投げるかバレバレなんだよ!」
ひょいひょいと軽々と避ける影浦。
「遅いよ」
同じく軽々と避ける遊真。
「何をやっているんだ……」
飲み物を買って戻ってきた修は、二対一の状態になっているこの現状に困惑していた。
ヒュースは、降り始めた雪を不思議そうに見上げていて。
「おい、三雲。こいつのしつけはどうなっている」
ダブルピースをしながら首根っこを掴まれている遊真。もう片方の手は、影浦の腰に回っている。
「空閑、何をしたんだ」
「ふむ。投げた雪玉が、にのみやさんの顔に当たってしまってな。逃げ回っていたんだが、とうとう捕まってしまったんだ」
「迷惑をかけないようにって言っているだろう?」
ヒュースに飲み物を押し付け、遊真を受け取る。
「帰るぞ」
「はあ?! まだこれからたっつーの!」
「せっかく作った雪だるまを見せようと思っていたのに、おまえたちが邪魔したからだ」
「チッ。帰んなら、ラーメン食って帰ろうぜ。冷えた」
「そうだろうな」
腰に回していた腕をほどいて、するりと指に絡ませる。
「仲がいいですな」
「あんまり言うと、影浦先輩が怒ると思うぞ」
「その時はその時だ。オサム、おれも飲みたい」
「これから買いに行こう」
と、二人は来た道を引き返していく。
***
「かげうら」
「んだよ」
「楽しかったか?」
「おめーが邪魔しなけりゃ、もっと楽しかったな」
拗ねたように唇を曲げる影浦。そんな彼の姿に二宮はフッと表情を緩ませて。
それから、ご機嫌伺いのように頬にキスをする。
「んなんじゃ騙されねえからな」
「ラーメンの後寿司って言ってもか?」
「……次はゼッテーおめーを連れてかねえ」
「勝手についていく」
「くんなくんな。ストーカーかよ」
嫌そうに吐き捨て手を振り払おうとするも、逆に二宮は強く手を握って。
「チッ」
手を振り払うのを諦め、早足になる。が、手は繋がれたままなので二宮は簡単に追いつく。
「かげうら」
名前に愛らしさを乗せ、呼びかける。
マフラーと髪にはさまれた耳は真っ赤に染まっていた。