「直義、傷の具合は」
「……大丈夫だ」
わたしは敷き布団にあぐらをかいたまま、包帯の表面を指の腹でなぜた。重能は手当が丁寧なやつだから、巻きがちっともよれていない。たすきを掛けるように身体にかかった包帯は既に湿り、繊維にそって血がにじんでいる。
宿場はもう寝静まっていた。注ぎ足したばかりの行燈がやけにあかあかと明るかった。二つ伸びた影は長く、ちろちろとゆらぐ。次の会話が始まらないので、不思議に思って顔を上げると、重能が黙ってこちらを見ていた。華やかな面立ちは、もの言いたげだ。
「ありがとう」
どんなに心配してくれたって、重能にわたしを慰めることは出来ないよ。そう言ってしまわないだけの、慎ましげな顔をした狡さが、はらの中でうずくまっている。目の下を持ち上げるように、友人へにっこり笑って見せる。
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