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    2014年頒布 夢本「クレバーな僕ら!青学編」より
    その③
    36+大石って感じ

    マネージャーはデフォルト名:姫野ゆりです。
    これも読んでてすごく恥ずかしいやつ・・・

    クレバーな僕ら!青学編 その③ 昨夜からの強烈な寒波で、朝方には雪がちらつき始めた。青学には電車通学の生徒も多い。登校時間の繰り下げが、朝から連絡網で回ってきていた。
     まだ年末前だというのに、今年は随分早い雪の訪れだった。
     とは言えやはり都心では積もる事もなく、雨とほとんど変わらないと言ってもよかったほどだ。いわゆるみぞれというやつ。それでも校庭は濡れてぐしゃぐしゃだったので、本日の体育の授業は体育館で行うことになった。
    体育館にジャージに着替えて集まった生徒たちは、みな一様に「寒い寒い」と連呼し、身体を震わせているが、授業の内容が体育教師から告げられて、目を輝かせるものが数名いた。
     今日の体育は、バドミントン。
     バドミントン部の部員はもちろんのこと、他にもこの競技が得意だったり好きだったりする生徒は多く、遊び半分で授業が出来ることに喜んでいる生徒もいた。特に女子はこのスポーツを子供の頃の遊びでやっていることが多い。
     体育用に髪の毛をポニーテールにまとめたゆりも例に漏れず、授業を楽しんでいた。
    「ねえねえ、ゆり。隣の男子コート、うちのクラスのバド部ペアと、6組のテニス部ペアが試合するんだって! あれ、ゆりんとこの男子でしょ?」
    「え?」
     ゆりはたった今女子コートで6組の女子との試合を終え(ちなみに勝った)ラケットを次の子たちに手渡した。するとクラスメイトののんちゃんが両目をキラキラ輝かせながらゆりに話しかけてくる。
     隣の男子コートを確認すると、そこには確かにゆりのクラスの5組の男子二人と、6組の菊丸と不二が立っていた。
    「ほんとだ……」
    「ゆりはこの試合、どっちが勝つと思う? ていうか、どっちに勝って欲しい?」
    「うーん、これはちょっと複雑……」
     5組のバド部男子ペアは、強いことで校内でも名が知られている。一方男テニのペアも、全国優勝を果たした事で有名だ。この2組が試合した場合、どちらが勝つのだろうか。クラスメイトのバド部の男子に勝ってもらいたい気持ちもあれば、やはり不二と菊丸に勝って欲しい気持ちもある。というか正直、不二たちに勝ってほしいのが本音だ。
     笛の合図とともに、試合が開始された。
     サーブ権は6組から。
     パシュッという小気味いい音と共に、シャトルが飛んだ。サーブを打ったのは不二だった。菊丸はテニスする時と同じように、ネット前の前衛に立っている。不二と菊丸の場合でも、黄金ペアと同じように菊丸が前に立つようだった。
     6組のサーブはあっけなく返された。それどころか、跳ね返されたシャトルはコート内に突き刺さるような勢いでシュートが決まる。
     菊丸も不二もそのスピードに間に合わず、得点が決まってしまった。
    「よっしゃ! まずは1点!!」
     と、ゆりの隣でのんちゃんがガッツポーズを取る。その後も6組ペアは奮闘し、得点を決めてはいるものの、5組のバド部ペアに点が離されつつあった。
    「青学にはテニス部だけじゃない、バド部だってあるんだぜ」
     試合中の5組バド部男子の一人が6組ペアに向かって言い放つ。確かにこの二人は強かった。
    「な、なんだと~!?」
    「落ち着いて、英二。僕がなるべく拾うようにするから、英二は得点を決めるほうに集中して」
    「……でも不二、ラケットが普段と全然持ち心地が違うっていうか、感覚がずれるんだよ。やっぱりテニスみたいにはいかないかぁ……」
    「だね。ラケットのリーチが違う。でも、英二は勘がいいから、すぐに掴めると思う。そしたら大丈夫だよ」
    「それは不二もっしょ?」
    「まあね!」
     不二が菊丸の肩を励ますように叩いた。
     菊丸はかなり勘が鋭い。テニスラケットとの違いも、段々と埋め始め、ラリーが続くようになっていた。
     5組のバド部ペアは少しづつ息が上がり、汗をかきつつある。まさかバドミントン部の自分たちがテニス部に負けるとは思ってなかったようで、焦りが滲み始めていた。
     いつの間にかこの試合を、教師も生徒も、体育館にいた全員が息を張りつめて見守っていた。単なる授業のはずが、なかなかに面白く、稀に見る好試合になっていたのだ。
    「負けんじゃねーぞ5組! テニス部なんかのしちまえ!!」
     5組の男子がそう叫んだのを聞いて、ぴくっと眉間に皺を寄せた女子はゆり以外いない。
    それに応えるかのように、6組の生徒は負けじと応援した。
    「負けんなー!! 6組―!! バド部が本気出してんじゃねえよ、そもそもペア組むこと自体ずりいだろー!!」
     そうだそうだ、と誰かが合の手を入れる。
     なかなか点差は縮まらず、不二と菊丸は完全に息が上がっていた。菊丸は悔しさに唇を噛み締める。
    「くっそぉ、テニスなら絶対負けないのに!」
    「それはもちろんさ。けど、向こうだって絶対負けられないって思ってるよ。それこそ、絶対にね」
     菊丸は顔を伝い落ちてくる汗を、ジャージで拭う。あと4点決められたら相手の勝ちだ。6組ペアは粘り強く食い下がっているが、こちらはあと8点決めなければ勝利にはならなかった。
     ゆりはずっと黙って試合を見守っていたが、何かを思い立ったかのように6組側のコートに歩き出す。

    「不二、菊丸!」

     突然声をかけられ、二人がコート横に視線を移すと、まるで手塚のようにコート横に腕を組んで立っているゆりがいた。
    「みんなで全国制覇したじゃない! 負けたら承知しないんだから!」
     体育館内にゆりの声が響き渡り、辺りがシンと静まり返る。誰もがゆりに注目していた。
    「ちょっとあんた何言ってるのよ、あんたは5組でしょうが! ほらもうこっち来なさい!」
    「あっ、のんちゃん、ちょっと、でもぉ~!」
     のんちゃんが、ゆりをぐいっと引っ張ってコートから引き離す。そのままズルズル引きずられていくゆりの姿を、ポカンとして不二と菊丸は見送った。
    「……だそうだよ、英二。うちのお姫様は勝利をご所望だ」
    「しょうがないなぁ。姫野は怒らすと怖いんだよね。ほんとああいうとこ手塚にそっくり」
    「まあ、そういうわけだから、バド部のお二人さん」
    「覚悟してよ?」
     そこからの二人の猛追撃は、凄まじいものがあった。
     得点はあっという間に詰められ、すでにお互いがマッチポイントに入る。すっかりコツを掴んだ菊丸はアクロバットにリターンエースを決めていたし、不二もバドミントン版・羆落としを決めていた。5組のバド部ペアも奮闘し、とうとうお互いがあと1点というところまで来た。
    「英二!」
    「はいよ!!」
     黄金ペアに負けじと劣らず、この36ペアの連携も非常にいい。不二のたった一言で、菊丸は高くジャンプし、スマッシュを決める。
     この試合を観戦していたその場に居た全員が息をのみ、張り詰めた空気の中で呼吸するのを忘れるほどだった。
     鋭い閃光が走ったかのようなスマッシュヒット。
     バド部ペアはそれを拾うことが出来ず、振り返った後方に、コロコロとシャトルが転がっていた。それを呆然として見つめる。
     勝敗が決まった途端、体育館に悲鳴のような歓声が上がった。
     6組の男子達は一同に不二と菊丸に駆け寄り、二人をぐしゃぐしゃに取り囲んで褒め称える。女子もそれについていき、周りで笑い声を上げた。
     一方、5組側は一様に肩を落とし、しんと静まりかえる。バド部の二人はがっくりと肩を落として項垂れていた。二人が奮闘していたのを判ってはいても、無念さでいっぱいだったのだ。やはり同じクラスメイトとして、勝利してもらいたかった。
     クラスの男子にもみくちゃにされていた不二と菊丸の二人は、5組ペアの様子に気づくと、周りのクラスメイトをかき分けて歩み寄り、座り込んでいる二人の前に立った。
    「そう落ち込むことないって。お前らもじゅーぶん強いよ?」
    「いい試合だったよ。またやろう」
     そう言って、不二と菊丸は手を差し出し、二人を立ち上がらせる。バド部の二人はもうこりごりだという表情でため息をついた。
    「いや……もう勘弁だな」
    「それよりお前たちこそ、バド部に入ればよかったのに。こんだけ強けりゃインターハイ行けたぜ?」
    「ざーんねん! 俺たちはテニス一筋なんだよ!」
    「ってことだね。英二」
    「お前らの勝利の要因は、やっぱりあれか?」
     と、バド部の少年はポニーテールの少女を見やった。しょんぼりとして気まずそうに友人ののんちゃんを見上げている。どうやら5組ではなく6組の二人を応援していたことを怒られているらしい。
    不二と菊丸は顔を見合わせ、にやりと不敵に微笑む。
    「ま、うちのお姫様は手厳しいんでね」
    「そーゆーこと! 負けたら怖いんだもん!」



    ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



    「姫野、そういえばお前、この前の体育の時間に怒鳴ったって、本当か?」
     放課後の教室で委員会が終わった後、保健委員長の大石におなじく保健委員のゆりは声を掛けられた。
     ゆりは大石の言葉にきょとんとして黙った後、すぐに顔を真っ赤にして頬を膨らませた。
    「い、いや~~あれは、その、怒鳴ったっていうか、我慢出来なかったっていうか…いや、声は大きかったと思うけど、でもどうしても二人に勝ってほしくて……」
    「え? 違うのか? でも手塚みたいに怒られたって英二が言ってたぞ?」
    「ああ……やだもう。恥ずかしい……」
    「負けたら承知しないって、言ったらしいな?」
    「だって…二人とも、普段はもっとカッコいいのに、ラケットとボールがちょっと変わっただけでボロボロに負けちゃってて…。それになんだかみんなバドミントン部の味方してて二人ともひどい言われようだったんだもん。だから応援したくて」
    「負けたら承知しないって、その言葉を聞いて俺も考えてみたら、気づいたんだ」
    「え? 何が?」
     大石は他に誰もいなくなった教室の片づけをした後、鞄を持って立ち上がった。ゆりもそれに連なって教室のドアまで歩き出す。
    「姫野は、この3年間俺たちに対して一度も「勝て」と言ったことはなかったんだよな」
     大石は記憶を確かめるかのように、ゆっくりと喋る。
     記憶を辿ると、ゆりが「勝って」と言ったことは一度もなかった。「負けないで」という言葉は何度も聞いたが、勝って欲しいと言われたことはなかったのだ。
     それは、彼女なりの戦い方だったのかもしれない。
     試合には出ないけれど、プレイヤーではないけれど、ずっとメンバーのそばで支えてきてくれた。
    「私ね。絶対に勝ちじゃなきゃダメってことはないと思ったの。そりゃ試合だし、優勝したいし、勝たなくちゃ意味がないこともちゃんとわかってる。こんなこと言ったら国光は怒るだろうし。でもね、たとえ勝てなくても、気持ちが負けない事が大切なんだなって皆を見てて思ったの。気持ちが負けなければ、次につながる。確実に。でも、たとえ試合に勝っていても気持ちが負けてもいいやって思ってたら、もうそこから先はないんだって。だから私、皆には負けないで欲しいってずっと思ってた。負けたくないって思いを大切にしてほしいって」
    「なるほどな」
    「でも、なんだかんだ言ってもやっぱり最後は「勝ちたい」って気持ちが大切なんだって、皆見てたら思ったんだけどね」
     廊下に出た二人は、昇降口へと向かう。
     もう12月も中旬で、来週には越前の誕生日と終業式がある。この間のような雪混じりのみぞれはあれから降ってないが、寒さは一段と身に染みるようになっていた。
    「うー。さむ~い」
     ゆりは下駄箱で外履きに履き替え、外に出る。途端に吹き付けてきた冷たく乾いた風に、思わずマフラーをぎゅっと抑えた。
    「手塚にその事話したら、言われたよ。姫野は部内でもなかなかの負けず嫌いだってな」
    「ええっ!? 国光にも話したの!?」
    「なんだ? まずかったか? でも手塚嬉しそうに笑ってたぞ?」
    「やだ…うそぉ……」
    「いいじゃないか。姫野だってテニス部の一員なんだ。お前はお前なりに一緒に戦ってたってことだろう?」
    「……そう言って頂ければ、嬉しいですけど……ちなみに、一番って誰のこと?」
    「越前だ」
    「ああ! そうだね。でも納得いかないなあ」
    「なんだ? じゃあ一番が良かったってことか?」
    「ち、違うよ! どうしてそうなるの!?」
     クスリと大石は笑って、それから腕時計に視線を落とす。まだ時間は5時半だった。この時間なら、まだ大丈夫かと思い、大石はゆりの腕を掴んだ。
    「姫野、ちょっとこのまま寄りたいところがあるんだが、いいか?」
    「え、いいけど。どこ行くの?」
    「越前と言えば、来週の越前の誕生日会だろ。バースデーケーキだよ。予約しとかないと。駅前のケーキ屋行ってもいいか?」
    「うん! いくいく!」
     どんなケーキにしようかとか、上に乗せるメッセージチョコはどうしようかとか、そんな事を相談しながら大石とゆりはすっかり日が暮れて真っ暗になった道を歩く。
    この歩きなれた道も、あと半年も通わないのだと思ったら、急にいとしく思えた。





    END


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