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    bluetiarakureha

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    2014年頒布「クレバーな僕ら!青学編」より
    その④

    手塚くんは可愛い俺の彼女と居る時は普段よりも砕けた口調になってます。

    マネージャーはデフォルト名:姫野ゆりです。
    いかにも夢小説な夢小説!
    ラストは手塚くんで!

     ―――12月24日。
     今日は、クリスマスイブ。
     そして同時に越前リョーマの誕生日でもある。
     男子テニス部メンバーは、終業式の終わった後に、簡単なクリスマスパーティ兼リョーマの誕生日会を行うことになった。
     といっても、ただ単に大勢でクリスマスケーキを囲んで騒ぎたいがための名目であったのだが。
     全員でカンパし合って(ほんの少し部費もくすねて)大きなホールケーキを買った。
     現在の部長を務める海堂は、今年の全国優勝の立役者であるリョーマに労いのパーティを拓くことに異論はなかったし、桃城に至っては大騒ぎ出来る口実が出来て、10日ほど前から楽しみにしていた。
     部室の真ん中に机をいくつか持ってきて、その上にケーキやらお菓子やらお煎餅やらジュースやらを用意し、その中でも神々しく輝くクリスマスケーキには【ハッピーバースデー・えちぜん】とチョコレートクリームでデコってあった。
    「えー、ではー、青学の全国制覇のために多大なる尽力を尽くしてくれた越前の前途を祝してー!!」
     と、ジュースの入った紙コップを掲げて、音頭を取っているのは桃城だ。
    『かんぱーい!!』
     部室にいる全員が紙コップを掲げた。
     この部室には今、現部員の他に引退した3年生組も居た。リョーマの誕生日会(という名のただのクリスマスパーティという名のただの大騒ぎ会)をするから、という事で招待されたのである。
     3年生は進級試験も控えているし、あまり大っぴらに騒げないが、そこはエスカレーター式の付属校。少しぐらいなら羽目を外してもいいかな・などと普通の受験生が聞いたら嫉妬の炎で燃え尽くされそうなこのお気楽なパーティも、青学だから許されているのだ。
     このお祭りに招待してもらえた元マネージャーゆりは、本日の主役であるリョーマに声を掛けた。
    「リョーマくん、おめでとう」
    「……ッス」
    「それから、ありがとう。青学が優勝できたのは、リョーマくんのおかげだもんね」
    「まあ……そんな事もないッスよ。皆がいたからじゃないッスか?」
    「じゃあ、そんなリョーマくん、はい・あーんして?」
     ゆりは手に持っていた紙皿に乗っているケーキを、フォークで一口分取ると、リョーマの口の前に差し出した。
    「私からのファーストバイトだよ」
    「……それ、やる相手間違えてないすか?」
    「食べてくれないの?」
     ファーストバイトは結婚式で新郎新婦がやることだろうとリョーマはあきれた顔をしている。
     ゆりからしたら、結婚式というよりお食い初め的な意味合いだったのだが(それはそれで大変失礼である)素直に食べてくれないリョーマをさみしそうに見つめた。
     たった一人の部内の女の先輩であるゆりには何故かリョーマはきつい事が言えない。どうやら野郎の中にいる紅一点というのは、非常に抗いがたい存在であると、リョーマはこの半年足らずで身をもって体験した。
    「ああもう、はいはい。食べますよ、食べればいいんでしょ?」
    「はい、あーん」
    「……ぁーん…」
     ぱくん、とリョーマは口にケーキを収める。実に不満げにもぐもぐと食べた。まあ単なる照れ隠しなだけなのだが。
     目の前の少年の口からフォークを抜いたゆりは、逆に満足気な顔をしていた。
    「美味しい?」
    「……ん」
    「一年生はまだまだ可愛いね」
    「あーそりゃムリっす。すぐ育つ予定なんで。手塚部長なんてさっさと追い抜いてやる予定なんで」
    「わお、強気。……でも、そうだね。やっぱりうちのスーパールーキはそれぐらい生意気で居てくれないと。これからはリョーマくんが青学を引っ張るんだよ」
    「それ、すでに部長に言われました」
    「うん。柱かあ……こうやってどんどん受け継がれてくのかなぁ。手塚が大和部長から言われた時がずいぶん昔に思える」
    「って、そういえば姫野センパイ。その手塚部長はどうしたんすか? 珍しく一緒じゃないっすね」
    「ん? 今回は連絡取ってないよ。普通に手塚も来ると思ってたし。大石なら何か知ってるかな?」
     普段は大抵セットでいる手塚とゆりが、今日は珍しく一緒ではない。
     この二人がいわゆる彼氏彼女の関係なのはすでに全部員が知っている事だ―――というより二人ともバレバレすぎて、交際がスタートするまでそれを見守らなくちゃならなかった周りの方が迷惑していたという裏話がある―――なので、二人セットという意識が強かったリョーマにとって、珍しいなと思ったのだ。
     今日のパーティには手塚も呼ばれているはずなのにいつまで経っても姿が見えない。手塚は越前と同じくらいに全国制覇の立役者なのにも関わらず、だ。
     ゆりは近くにいた大石を振り返った。
     大石と手塚はクラスがお隣さんなので、こちらも結構行動が一緒の事が多いのだ。
    「おおいし~」
    「ん? どうした姫野? 越前も」
    「手塚は? 一緒じゃなかったの?」
    「部長いないとなんかしまらないっすよ」
    「おっそうか! いや~越前は手塚に懐いてたからなぁ。そうかそうかぁ」
    「別に懐いてないっす」
    「手塚なら、ホームルームの後に声を掛けたら、図書室に寄ってからパーティに向かうって言ってたぞ」
    「図書室? そういえば、リョーマくんって図書委員だったよね」
    「……まあ幽霊委員ってやつだけどね」
    「行っても寝てるだけなんでしょ?」
    「なんで知ってんのさ」
    「だいたい想像付くもん。でも、確かに最近の国光はよく図書室通ってたかも。新しく見つけた作家でおもしろいのがあるとかで」
    「それなら、もうしばらくしたら手塚も来るんじゃないか?」
    「国光が来る前にケーキなくなっちゃったりしてね」
    「フッフッフッフッフッ……」
    「きゃあ! ちょ、ちょっと何よ、乾…!!」
     突然耳元で気持ち悪い笑い声を聞かされたゆりは、勢いよく振り返った。
     乾がゆりの真後ろに立っていて、口元に実に怪しげな笑みを浮かべて見下ろしている。小脇に乾・丸秘ノートを携えていた。
    「急に後ろから変な笑い声出さないで!」
    「フフフフ…そんな悠長な事を言っていていいのか? 姫野」
    「え? 何が?」
    「姫野、知っているか?」
    「もお、だから何が!?」
    「最近、何故手塚が図書室に頻繁に通い詰めているか、その理由をだ」
    「え…?」
     思わずゆりは及び腰になった。
     手塚が図書室に通っているのなんて、普通に本を読みたいからじゃないの? と思うが、乾がこんなふうにもったいぶった言い方をする時は、大抵裏がある。
    「普通に本読んだり、借りたりしてるからでしょ…? 図書室に行くのに他にどんな理由があるっていうの?」
    「甘い、甘いぞ!! 姫野!! お前は栗の甘露煮ぐらい甘ァァアアい!!」
     部室内に響きわたるような大声で、乾は叫んだ。
     彼の右手はしっかり握りこぶしで、いかにも壮大な事を主張しているように見えた。
    「お前だって、手塚がモテる事ぐらい知らんわけではないだろう!!」
    「な、な、な……」
     乾の声高の主張に、ゆりは言葉に詰まった。言い返したかったが、良い言葉が思いつかない。
     なぜなら、たった一瞬ではあるが、乾の言葉に間違いなくゆりは動揺したからだ。
     それを誤魔化すように、ゆりは乾から視線を逸らすと、黙ってケーキを食べ始めた。次々に生クリームとスポンジを口の中に押し込み、必死で気持ちを逸らす。
    「コラコラーちょっと乾~! そーゆー言い方は良くないぞ!」
    「なぜだ菊丸? 俺は事実を言っているだけだ」
    「確かに事実かもしれないけど、俺は言い方が良くないって言ってんの。何の確証もないのにさ」
    「いや、俺はちゃんと裏付けをした上で言っているぞ」
    「え、うらづけ?」
     菊丸はゆりの隣に寄り添うと、これ以上彼女に要らぬ言葉がぶつけられぬように庇う。が、裏付けがあるなどと言われると、急に怯んでしまう。菊丸はちょっと弱気になって、乾を見返した。
    「なんだよ、うらづけって」
     菊丸の言葉に乾は手に持っていたノートを開く。びっしりと書き込まれた文字を改めて確認すると、顔を上げ、にやりと笑った。
    「俺も、図書室にはしょっちゅう行くんだ。面白い本を漁ったり、乾汁作成のための調べものをしにな。そして俺は、放課後の図書室で何度も見たんだ。ここ最近、手塚が女子と一緒なのをな!」
     ゆりの身体がぴくりと小さく震える。
     ケーキを食べていた手はすっかり止まり、フォークを口に咥えたまま、明らかに意気消沈してぼうっとしていた。
    「手塚は随分楽しそうに話していたぞ。女子の方はすっかり手塚に骨抜きにされていたし、手塚もまんざらじゃない様子だった。作家について熱く語り合っていたようだったな。趣向が合ったんだろう。趣味が同じというのは、恋愛において非常に大きな意味合いを持つ。俺の読みでは、十中八九、手塚は既に告白されているだろう! というかその現場を見た!!」
    「も~なに偉そうに自慢してるんだよ! 見たじゃないだろ!」
    「英二の言う通りだぞ、乾。というかお前、見たんじゃなくて見に行ったんだろう?」
    「フフフフフフフ…大石、ここまで来たら最後まで見届けなくてはならないだろう……?」
    「大石の言う通りだよ。手塚に見つかったら怒られるよ!?」
    「ありがとう、二人とも。でも、私なら大丈夫だよ」
     ゆりにとって菊丸と大石がフォローしてくれてるのは有難い。だが、ゆりは頭が回らなくなって、ケーキの乗った紙皿を静かに机の上に置いた。
    「ちょっと、外の空気吸ってくるね」  
     それだけ言うと、ゆりはゆっくり歩いて部室を出て行く。
     その小さな後ろ姿を黙って男3人は見送って、思わず顔を見合わせた。
    「もぉ~! 乾!! どぉすんのさ、姫野出ていっちゃったじゃんか!」
    「落ち着けって英二。荷物は置いたままだから、姫野も気分が落ち着いたらきっと戻ってくるさ」
    「でも大石、あれじゃ姫野がかわいそうだよ」
    「うーん…確かになぁ。ちょっと言い過ぎたかもしれないよなぁ…」
     大石は困ったようにため息をつきながら頭を掻く。手塚がいないところで、この状況はちょっとまずい。周りが騒ぎ立てて手塚本人に確認したわけでもないのに、だ。

    「……乾。どういうつもりだい? あんな事言って」

     乾の肩に突如として重たいものが圧し掛かった。といっても、実際に何かが肩に乗っているわけではない。空気といえるもの、圧倒的なほどの威圧感というようなものだ。
     乾は嫌な予感を胸いっぱいに押し溜めて、ゆっくりと背後を振り返る。
     不二が、じっと乾を見つめて立っていた。
     その両目に光はない。
    その上、彼の背中になにやら黒い靄がゆらゆら揺れているように感じるのは、自分の勘違いではないと乾は思う。
    「や、やあ不二…。いや、俺はだな、姫野に、お前の彼氏はモテるなと褒めようとしただけなんだ……だからこれは。不可抗力だ!!」
    「君の言い分なんてどうでもいいよ。それより、どうなるか判っててさっきの話をしたんだよね?」
     ニッコリと不二は笑った。
     







    厚い雲で覆われた鈍色の空を見上げながら、ゆりは部室前のテニスコートまで歩いてきた。コート内に入り、壁のフェンスに背中を預ける。地面に引っ張られるかのようにそのままずるずると座り込んだ。
    「国光がモテるなんて、そんなの今更だもの……」
     生徒会長で、テニス部の部長で、ハンサムで成績優秀でスポーツ万能、そしてなにより人望も厚い。これでモテないという奴がいたら、目の前に連れてきてほしいほどだ。これほど三拍子も四拍子も揃った男を女の子が放っておくわけがない。
     ゆりは一つため息をついた。
     今更そんな事実を再確認したところで、別に楽しくもなんともない。
     優越感を感じた事など、一度もなかった。
     いつだって他の女の子が彼に好意を寄せていたし、自分より可愛くて魅力的な女の子なんてたくさんいた。不安を感じないわけはない。
     ゆりは何だか泣きそうな気分になってきた。意識しないうちに鼻の奥がツンとして、両目が熱くなって、視界がぼやけ始める。
    (告白されたなんて話、私知らないよ。国光……)
     取り立てて知りたい情報という訳ではないが、手塚から知らされていないのも事実だ。手塚が自分に話さなかったのには理由がちゃんとあるのだろうし、ゆりにはその理由が想像つく。理性でも理解できても、気持ちはまた別ものだった。
    「モテる彼氏を持つのも考えものよね…」
    「モテる? 誰が?」
     

    「ふわっっ!!!?」


    「くくく国光ッ!?」
    「どうした? こんなところに一人で。今日はみんなでお祭り騒ぎなんだろう?」
     この以上ないほどの驚きを爆発させて、ゆりは頭上を見上げた。
     手塚だ。
     手塚が隣に立っている。
     肩に学生鞄を掛けて、マフラーとコートを着込み、寒そうにズボンのポケットに両手を突っこんでいた。
     ゆりは今のこの状況が理解出来なくて、口をぱくぱくさせる。
    (もしかしなくても今の独り言聞かれた?お祭り騒ぎってその言い方ちょっと古臭いわよ?ていうかそもそもどうしてここにいるの? 偽物? 幻?)
    「おい、聞いてるのか?」
    「ふぇ、あ、う、うん……」
    「お前、こんなところでしゃがんでて、冷えるぞ?」
     と、手塚はそのままゆりの隣に座り込んだ。
     ぴったりと隙間なくお互いの身体を寄せて、ゆりを見つめてる。
    「ていうか、パンツ見えるぞ。その座り方」
     ゆりはしゃがんでいる体制なので、正面からはパンツが丸見えの状態だ。今はコートに誰もいないのでゆりは無防備にこの体制だった。
    「平気……毛糸のパンツはいてるもん」
    「ああ、あのくまたん?」
    「今日はうささん……」
     手塚はゆりのスカートに手を伸ばし、ぴらりとめくった。むっちりとした真っ白い太腿の付け根に見える、もこもこしたパンツの色が白だったので、手塚は「本当だ」と言った。ちなみにくまたんは赤地に茶色のくま、うささんは白地にピンクのうさぎのことだ。
    「それで、ここで一人で何やってたんだ? 寒いだろう。コートも着ないで。みんなで越前の誕生日会をやっているんだろう?」
    「……うん、やってるよ」
    「……どうした? ゆり」
     不意にゆりの頭にふわりと大きな手のひらが乗せられる。手塚があやすように撫でるので、ゆりは一気に胸が締め付けられた。
    「……国光が、告白されたの見たっていうの。乾が。図書室で」
     手塚は、大きく両目を見開いた。それから少し考えて気まずそうに眉間に皺を寄せ、ゆっくりと視線を外す。
    「あー……それか……」
    「されたの? 告白」
    「……されたよ。確かに。見られてたのか、乾には」
    「その子、誰……?」
    「ん、あー…2年の子だよ。お前は知らない女子だ。最近図書室で会う事が多くて、何度か話した。お互い読んでいる本が一緒だったんだ」
    「ふぅん、そっか」
    「なんだよ、怒ってるのか?」
     ゆりはぷるぷると首を横に振る。少しだけ手を伸ばして、手塚のコートの裾をきゅっと掴んだ。
    「怒ってないけど……」
    「けど?」
    「なんか、モヤモヤする……」
     ゆりは一言だけ小さく呟いた。
     手塚はコートの裾を掴んだゆりの手を取り、自分の両手で包み込む。
     ゆりの手はひんやりと冷たかった。
    「ああ、やっぱり。こんなに冷たい。……全く、それでそんな泣きそうな顔をしてたのか」
     ゆりは黙って地面を見つめる。
     手塚の言葉に返事が出来なかった。
    「俺を見ろ、ゆり」
     そう言われて手塚は見上げると、彼は穏やかに微笑んでいた。
    「一つ、質問をする。簡単な質問だから、答えろよ」
    「え…? うん…」
    「ゆりが、今着ているカーディガンは誰のものだ?」
    「……国光の」
    「そうだな。俺のだ」
     ゆりは手塚の質問の意図が理解出来なかった。
     ちょっと突拍子がなさすぎて、思わず首をかしげる。
    「えっと、ごめんね? 私が着ちゃってたらやっぱり国光は寒いよね。これ、セーラー服の上に着るのにちょうどいいサイズで、大きいしあったかいから……でも借りたままだと国光も困っちゃうよね。ごめんね、返すね」
    「まあ、寒いと言えば寒いが。俺が言いたいことはだな、俺はお前がそれを着ているのがまんざらでもなかったんだ。俺のものだと、主張しているようで」
    「……私は、国光のものだもん」
    「それなら、すっかりゆりの所有物になってしまった俺のカーディガンは、もうゆりのものだな」
    「ちゃんと洗って返すよ」
    「いい。そのまま着てろ。まあ……つまりあれだ、俺もお前のものだって事だよ、ゆり」
     ゆりは一瞬きょとんとして手塚を見つめた。
     その後何度かぱちぱちと瞬きして、目じりが下がる。
     結論が導き出されるまで、少し遠回りした感があるが、ゆりは顔を綻ばせずにはいられなかった。
     自然と笑ってしまって、嬉しさが隠せない。
     手塚はゆりがようやく笑ったのを見ると、軽く抱き寄せ、キスをした。
    「ゆりが俺のものなら、俺もゆりのものだってことだろう?」
    「…うん」
    「急に嬉しそうだな、まったく…」
    「うん、うれしい。不安だったのが全部吹き飛んじゃった。すごいなぁ、国光。マジシャンみたい」
    「お前だけに力を発揮するマジシャンだがな。……さあ、そろそろ部室に行こう。俺もケーキ食べたいし」
    「まだあるかなぁ……皆すごい勢いで食べてたから」
    「ケーキ代金だけ徴収されて食べられないのは困る。あ、そうだ、ゆり」
    「ん?」
    「好きだよ。これ、クリスマスプレゼント」
     何だかものすごく大事なことを、今しれっと言われた気がするが、ゆりは目の前に差し出された可愛いラッピングに意識が持っていかれてしまった。
    「えっ、わっ、わっ、開けてもいい?」
    「まあ、そうだな。部室で開けるよりはいいか」
     逸る気持ちを抑えて、ゆりはラッピングのリボンを解いた。中から出てきたのは、触り慣れた感触の、毛糸のかたまり。
    「かわいい! 犬の毛糸のぱんつ!」
     今度は犬の毛糸のパンツだった。
     ピンクの生地に、白い犬。
    「ありがとう! たくさん使うね!」
    「わんちゃんって言わないのか?」
    「…えっと、じゃあわんちゃんの」
     少し照れながら呟いたゆりを見て、実に満足そうに手塚は笑う。
     と言っても、恐らく自分しか判別できない笑顔だ。
     ちなみにこの毛糸のパンツ、一人っ子で女の子が生活の中にない手塚にとっては、非常に女の子の秘密アイテムに見えるようで、どうやらお気に入りらしい。
     手塚に告白してきた女の子は、彼のこんな顔を知らない。
     知っているのは自分だけだ。
     それがすごく特別なことのように、ゆりは思った。
    「勝手にヤキモチ焼いちゃって、ごめんね。ありがとう、国光。後で私もプレゼント渡すね」
    「やきもちか…。まあ焼かれる側になるのは、なかなか悪くないものだな」
     どんなに手塚は人気があってモテる事を頭で理解していても、気持ちは簡単に割り切れないものだ。それでも手塚のカーディガンを着用することがこうして本人から許されているのだから、ちょっとぐらい、我慢してもいいかな、とゆりは思った。
    「ところで、その子にはなんて返事したの?」
    「……彼女の事が好きだから、気持ちには応えられない・すまないって」
    「ふーん、そっか」
    「同じ言葉なのに、さっきと全く違うな」
    「だって、国光が好きって言ってくれたから」
    「……返事は?」
    「うん。私も好きだよ、国光」


    二人で(仲良く)部室へ戻ると、手塚の分のケーキはちゃんと別に残されていた。
     そして何故か、乾はトランクス一枚で立っていた。
    「手塚、姫野。すまなかった。反省している」
    「「え…うん……」」
     と、二人は頷くしかできなかった。



    END
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