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    zirakichi

    @zirakichi

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    zirakichi

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    ②夢と買い出しとシチュー白い空間に立たされていた。
    そこは辺り一面が真っ白で、壁も天井も何も無い空間だった。

    白という色は色の中で最も明るい色だが、同時に人を一番不安にさせる色でもある。そこにただ立ったままなのが怖くて、次第にワタシは前へ(果たしてこれが前なのかは分からないが)歩み始めた。
    そして歩くことで床が真っ白な砂だということが分かった。ならばここは、白い砂漠なのだろうか?

    歩いても歩いても周りには何も無い。建物も。植物も。生き物も。ずっと白の空、白の床のままで。

    このままではワタシも、いずれこの白に溶かされて無くなってしまうのではないかと、焦燥感に駆られていった。嫌だ、まだ消えたくない。いなくなるのが怖い。

    後ろを振り返ってみる。
    そこには数歩分のワタシの足跡が数歩分のみ残されていて、それよりもっと前の足跡はどうやら風で掻き消されてしまったらしい。

    なんだかそれが、とても悲しくなった。
    ワタシがどれだけ頑張って歩んできても、歩いてきた証は少し風に煽られてしまうだけで消えてしまうものなのが。
    ワタシの力ではどう頑張っても、砂にその歩んだ証を残しておけないのが。

    歩みを止めてしまいたかったが、それでもワタシは、ただ歩くしかなかった。歩かないと、この狂気じみた白色にワタシまで掻き消されてしまう。それが、怖い。
    ワタシは、ワタシ自身を見失ってしまうのが一番怖いんだ。

    だから、

    ​───────

    ー月曜日ー
    「──…きろ。」

    「起きろ。」
    「んぐっ」
    突然鼻を摘まれ、目を覚ます。
    どうやらもう朝になったようだ。
    「…………もう朝なのか…。そうか………。」
    時間というものは流れるのが本当に早い。
    昨日寝る場所についてマルと散々口論をしたせいで、いつも就寝している時間よりもだいぶずれ込んでしまった。そのせいでいつもより寝不足気味な気がする。



    夢というものは現実よりも酷く脆いものである。
    確かにワタシは、先程まで何かの夢を見ていたような…そんな気がするのだが、その夢の内容を思い出すことが出来ない。ただ、酷く焦っていたような。

    「朝飯食ったら買い出し行くぞ。」
    思い出そうとしていた矢先、マルがカーテンを開けた。朝の陽射しが部屋に入り込んできて、少し暖かい。このまま毛布に包まって目を閉じたら、また眠りにつけるかもしれないな…。

    二度寝をしたら、先程の曖昧になってしまった夢をもう一度見ることが出来るだろうか?
    …いや、やめておこう。
    そんなことをしたらおそらくマルはまたワタシの鼻を摘んでくる(もう少しマシな起こし方はないのだろうか?)だろうし、今日見たであろうあの夢は、〝見ない方がいい〟と脳の何処かで警鐘を鳴らしていた。

    「やっぱりアンタにはベッドの方が合ってたんじゃねぇか?」
    夢を思い出そうと必死になっている(所謂〝眠そう〟と表現するのだろうが)ワタシを見て、マルは意地悪そうに笑いながら言った。

    先程も言ったが、ワタシが今眠いのは昨日出発するのでバタバタしていたのと、我々の寝る時間が遅かったからであって、通常通り、時間通りきちんと寝ていたらマルに起こされることなく起きれたはずなんだ。

    「……違う…昨日はバタバタしていた上に、キミが大人しくベッドで寝ようとしないから……いつもの就寝時間がずれ込んだだけだ…。」
    …と、マルにそう伝えようとしたのだが、眠過ぎて頭がそこまで回らなかった。そのせいで少し曖昧な表現になった気がする。

    「へぇへぇそうだな。」
    わがままな子供を宥めるような、そんな返事が返ってきた。もしかしてキミ、少し笑っているのか?
    なんでだろうか、おそらくこの相手がアンディやコラ、ヴェリーだったら素直に従えるのに、何故かマルに言われると少し悔しくなる。言い方の問題なんだろうか。

    この悔しい気持ちをマルに悟られぬよう、ワタシは覚醒し切っていない脳のまま身体を無理矢理起こした。

    ​───────

    朝食、とは言っても、食料も何も無いマルの家で初日から朝食を作るのが困難だと判断して、あの宇宙船から少しだけ貰ってきたものを朝食として食べていた。

    朝食を食べることによって、ワタシの頭もまともに思考を回せるくらいには覚醒したころに、ようやくマルが朝食を食べたら買い出しに行くと言っていたことを思い出す。

    「何を買うかまとめておいた方がいいな。」
    確かにこの家にはテーブルやイスはあっても、人が住むために必要なものが何ひとつとして無かった。なら買いに行くのは当然だが、買う物をリストアップせずに買い出しに行くのは、地図が無いのに宝を探しに行くのと同じだ。

    ワタシは(少しはしたないが、ここにはマルしか居ないので気にしない)片手で朝食を食べながら、手帳とペンを取り出す。

    「あー…食料、」
    「ああ、」
    「洗剤、」
    「ふむ、」
    「ティッシュ、トイレットペーパー、」
    「ほう。他には?」
    「薪、後は…」
    「飯…昼は外で食うとして、食料買うなら先に晩飯決めといた方がいいな。」

    マルが指折りしながら買うべきものをあげていき、ワタシは相づちを打ちながらそれらを順々に手帳へ書き記していくが、マルの指折りが少し止まった。

    「ふむ、外は寒いだろうし、作るとしたら暖まる料理だな。それから栄養バランスが取れやすいもののほうがいい。」
    身体が暖まる料理ならスープのようなものが最適だろう。尚且つ肉も野菜も入っている、栄養バランスの取れた料理か。

    「そうだな…」
    それらの条件を満たす料理が、二つある。

    「ポトフとシチュー、どっちが食べたい?」
    「……シチューだな。鶏が食いてぇ。」
    ということで、本日の我々の夕食は『シチュー』となった。
    ​───────
    「おや、ボナパルトさん久しぶりだね。どこか行ってたのかい?死んじゃったのかと思ったよ。」
    「あぁ、戻って来る予定はなかったんだがな。」
    会計をしている時、ここの店員さんとマルが会話していた。恐らくマル同様にここの街で生き残った人間だろう。

    流石に邪魔をしてはいけないだろう。彼らが会話をしている間、ワタシは買ったものの確認でもしておくことにする。シチューの材料と、洗剤、それから…

    「君が誰かと一緒にいるなんて珍しいね、そっちの彼は友人かな?」
    と思ったら、店員さんに急に話し掛けられた。急だった為、少しビックリして玉ねぎを落としかけてしまった。

    友人。…友人か。
    彼との関係性を、果たして『友人』というものに分類してしまっても良いのだろうか?確かに『知り合い』ほど遠い関係ではないはずなのだが、『友人』と呼ぶには少し近い気もする。

    それに、ワタシまで『友人』と括ってしまったら、マルが頭を抱えてしまうのではないのだろうか?

    「ああ失礼、挨拶が遅れてしまいましたね。はじめましてミスター、ワタシはハロルド・ナインズ。彼とは友人というか仕事仲間というか…ふむ、少し難しいな……マル?」
    隣を見たらマルが難しい顔をしていた。

    「なんだ、その顔は。」
    「別になんでもねぇよ……まぁ、そんな感じだ。」
    「あっはっは!じゃあ友人ってことだね。サービスしとくよ。」
    そういうと店員さんは、会計の終えた紙袋にお菓子の袋を二つほど入れる。(これは店員さんのご好意であって、我々が子供扱いを受けているわけではない。)

    「それじゃ…おかえり、ボナパルトさん。ようこそ、ナインズさん。」

    店員さんの言う〝ようこそ〟に、少しだけ違和感を感じた。
    ​───────
    家に帰ってきて、夕食を作ろうと台所に立ったところ、マルがワタシの隣に立って同じように夕食の準備をしようとしていた。

    たとえ通常通りであっても、今のマルは怪我人だ。その怪我人に手伝わせてしまうのは、少し申し訳なくなってしまうのだが。

    「そっちで座ってゆっくりしていてもいいんだぞ。」
    そう言うと、マルは少しだけ眉間に皺を寄せた。

    「アンタを一人台所に立たせとくのは心許ねぇんだよ…」
    ……待ってくれ。キミから見たワタシはどれだけ頼りないんだ?
    確かにマルから見たらしっかりしていないように見えているのかもしれないが、…それでもワタシのことを子供だと言うには少し無理があるのではないか?

    「前から思っていたのだが、マルはワタシのことを子供だと思っていないか?歳はマルと同じくらいだぞ。」
    思わず怪訝そうな顔をしてしまった気がする。

    「いや中身はガキとそう変わらねえだろ…やたら頑固、ジョークは伝わらねぇことの方が多い、あと…身体能力か。」

    「そういうマルだって人のこと言えたことではないだろ、ひねくれてるし、言い方が意地悪だし、皮肉屋。直したほうが………待て。身体能力は子供っぽいのとあまり関係ないだろう。」

    「ハッ、俺は『大人』だ。」
    そう言うとマルは、鍋をかき混ぜる為に使っていたお玉で作りかけのシチューを飲み始める。

    「コラ!マル!」


    「あ?味見だろうが。」
    腹が減っているのは分かるが、だからと言ってつまみ食いをするな。味見をするのならせめて味見皿を使うべきだ。
    マルの手からお玉を奪い、ため息をついた。

    「どうせ食うの俺達だけだろ。」
    「確かにそうだが、だからといって作りかけを食べるんじゃない。ちゃんと出来てから食べるべきだ。」
    「あーあ…また始まった…」

    そう言うとマルはワタシのお説教から逃げるように、シチューを分ける為の食器を取り出し始めた。
    そういうところが『子供』だと言うんだぞ。
    ​───────
    色々とあったがなんとか夕食のシチューも出来上がり、二人、席につく。
    そうして二人、手を合わせて食事の挨拶を言う。

    「「いただきます。」」

    ……変な話だ。
    昨日といい今日といい、あれだけ口論をした仲であっても、食事の挨拶は妙に息が合ってしまう。
    …本当に何故だろうな。

    そうしてシチューに手を付けたマルが一言。
    「…まぁ、悪くねぇな。」

    …正直、マルに『不味い』と言われたらどうしようかと思った。
    一応あの宇宙船でアンディに料理に関して色々と教わった身ではあったが、それが自分の身についていなかったらと、少しだけ心配していたのだ。

    「そうか、美味しいか。マルの口に合って良かったよ。」
    そう言うと無言が返ってくる。
    これはマルと話をしていて理解出来たことなのだが、彼が無言の時は大抵『肯定』の意味である。最初は理解出来なくて話が噛み合わなかったりしたが、(だいぶ時間は掛かったが、)話をするにつれ段々と理解出来るようになったことだ。

    ワタシもシチューを一口食べる。

    「うん。確かに美味しいな。」

    少し笑みが零れる。はたしてこの笑みはシチューが美味しいからなのか、『悪くない』と言われて嬉しいからなのかは分からない。もしかして両方だろうか?

    マルとワタシでは食べる量が全く違う。
    マルはたくさん食べるし、(普通だと思っていたのだが、)ワタシは少食だ。
    それもあったからマルのシチューはワタシのものよりも多めに取り分けた…のだが、それでもマルはワタシよりも先に食べ終わったらしい。

    マルは食器を片すわけでもなく、ゆっくり食べているワタシのことをただただ見ている。そんなに見ていると少し食べづらいのだが…まあ、マルのしたいようにさせておこう。

    そうして遅れてワタシが完食したあと、二人で再び手を合わせる。
    『いただきます』で食事が始まるのなら、当然、食事を終わる合図はこうだ。

    「「ごちそうさまでした。」」

    ​───────
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