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    zirakichi

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    ③実家参りとサッカー(sideマレンゴ)
    木曜日。
    今日はナインズの方が起床が早かった。(と言っても誤差だが。)
    今日の朝食はコーヒー、マーマレードを塗ったバゲット、 昨日の残りのコーンポタージュと、ソーセージとブロッコリーと卵を炒めたやつだ。

    皿を並べ、席に着き、手を合わせる。
    そしてまた他愛もない会話をしながら、それぞれを口に運んでいく。
    この生活にも段々と慣れ始めてきた。

    ···ー食べ始めて少し時間が経ってから、俺は手を止めた。
    「マル?」
    その様子を見ていたナインズも先程までとは違う雰囲気を察知したのか、動きを止める。

    「……今日、実家…に花手向けに行こうと思ってんだが…アンタ、付いて来るか。」

    「…今のワタシはマルの腕のようなものだ。付いてくるなと言われても付いていくさ。」

    「そうか、まぁ勝手にしろよ。」
    そういう訳で、今日の予定の一つが決まった。
    ​───────

    最初に花屋に寄って買った献花用の花を手に、少し歩いていると景色が変わってきた。
    というと、仮屋付近や店が営業している場所は人が集まっているため、ある程度の瓦礫は処理されている。しかしそこから少しでも離れれば、処理する人間もいないので空襲等を受けてそのまま放置されている街並みが現れるということだ。

    ここら一帯、ろくな面影も残っちゃいないが、こうなる前から何度も通っていた道だ。身体が覚えている。

    ひとつの瓦礫の山の前で歩みを止めた。
    「ここがキミの実家か。」
    「…あぁ。」
    正しくは『実家だったもの』だが。しゃがんで花を供え、手を合わせる。この行為も何回目だろうか。でもこれでもう最後だ。

    「( )」
    かつてここで共に生活していた家族の姿を思い浮かべる。宇宙船内であったことや現状報告を済ませ、立ち上がって息を吐く。

    「じゃあ、次だな。」
    そう言ってまた歩みを進めた。
    「次?まだ寄りたいところがあるのか?」
    「あぁ、まぁ…なんつーか、ガキの頃世話んなった家だ。」
    もう1束買ってあった花束を見せるように振って答えた。…なんだかもたついた回答になった気がする。しかし、事実と言えば事実だ。

    「そうか、だから花束を二つ持っていたんだな。」
    正直、今朝お前に声を掛けた目的の8割は "こっち"に連れていくことなんだが…
    何も知らないナインズと、積もった雪を踏みしめる音はそのまま淡々と後ろを着いてくる。

    しばらくして、目的の家が見えてきた。
    ここも既に住民はおらず廃墟にはなっているが、空襲の被害を受けなかったのか外観は比較的綺麗に残っている。
    まぁ、中はおおかた盗っ人に荒らされてるか、すっからかんだろう。
    「ここがマルがお世話になった人の家なのか」
    「そうだ。」

    ナインズの声を後ろに聞きながら、先程と同じようにしゃがみ、花を供え、手を合わせた。

    「​────………よし、用は済んだ。もう帰…」

    そう言いながら立ち上がって振り返ると、

    ナインズが棒立ちのまま両目から涙を溢していた。


    「おい、……目にゴミでも入ったのか?」
    絶対に違うのは一目瞭然だが、驚きからか上手い言葉が出てこなかった。
    ……確かに、俺は何かを期待してこの男をこの場所に連れてきたが、泣かれるのは完全に予想外だ。

    「…?いや、分からない…。…ただ、……何故か、悲しい。」
    ナインズは自分でも状況が理解できないといったような顔で涙を拭ってそう答えた。
    「驚かせてすまない。日が暮れて寒くなる前に帰ろうか。」
    踵を返し歩いていく後ろ姿を少しの間見つめていると、足に何かが軽く触れた。
    …サッカーボール?

    どこからともなく転がってきたボロボロのそれを足で抑える。周囲を見渡しても持ち主だと思われる人間はいない。
    「……ナインズ!」
    気づけば、身体は『次はこうするんだろう』とでも言うように、その後ろ姿に向けて軽くボールを蹴っていた。

    「いてっ」
    跳ねたボールは反応の遅れたナインズの頭にぼこっと音を立てぶつかった。

    奴は頭を擦りながら足元に落ちたそれを見やる。
    「これは…ボールか?」
    「おら、パスだパス。こっちに蹴り返せ。」
    「パス?………ふむ」

    そう言って後方に振り上げられた足は見事にボールの横の雪を蹴り、ナインズはその勢いのまま仰向けに倒れた。


    今のは流石に(いろいろと) まずい転び方をしたと思い、駆け寄って顔色を見る。
    当の本人は放心状態だ。

    「…ック、お前、マジかよ、相変わらずどんくせぇな…」
    思わず吹き出しそうになるの抑え、手を差し出した。
    「……すまない、ありがと…」
    「、!おわッ」

    掴んだ手を引っ張り上げようとした、が。2つ忘れてたことがある。1つ、俺が今使えるのは片腕のみということ、2つ、つい最近まで寝たきりの生活をしていたため、著しく筋力が落ちていたことだ。
    もちろん腕を引かれたままバランスを崩し、結局2人して雪になだれ込んだ。

    「…ッあ"ーーーー…クソ……」
    「ふふっ…もしかしてキミ…腕のこと忘れてたのか…?ふふ…あはははっ」
    「…お前…あんま笑ってんじゃ…、……ふっ、ッははは!」

    何がそんなに面白かったのか、自分でもよく分からない。でも隣の男があまりにも笑うもんだから、釣られたんだ。

    あぁでも、いい歳した男2人が雪の上転がって爆笑してんのは滑稽かもしれねぇな?
    …こういうことを言うのは柄じゃねぇが、心の中で長い間キツく張り詰めていた何か糸のようなものが大きく緩んだのを感じた。

    「マル」
    ひとしきり笑い、少し間を置いて横から声が聞こえてきた。

    「キミとの旅は不思議なことが沢山あって、案外楽しいよ。」
    振り向くと、顔も髪も服も雪まみれで、耳や鼻の頭を赤くしたナインズが降ってくる雪を眺めていた。恐らく、俺も同じような姿になっているんだろう。ガキみてぇだ。

    「…そりゃあ良かった。」
    奴の言う"旅"も着々と終わりに近づいている。
    俺達以外に俺達のことを咎める人間は誰もいねぇが、今だけは…この時間を『楽しい』と思うことをどうか許されたいと、そう思った。


    …ちなみにこの後俺達は日が暮れるまでサッカーや雪合戦をしていた。
    と、言っても雪合戦は俺の球を受けたナインズが早々にダウンしたせいで、俺はこの状態で男1人引きずって帰る羽目になったんだが…それはまた別の話だ。

    ​───────
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