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    アメチャヌ

    ガムリチャか捏造家族かガムリチャ前提の何か。
    たまに外伝じじちち(バ祖父×若父上)

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    アメチャヌ

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    家族パロ。怒られながら別のこと考えてるバッキンガム

     伴侶とふたり、こうしてテーブルで向き合うのはいつぶりになるだろうか。
     上の子を身篭る前、まだロンドンで暮らしていた頃はごく当たり前のことだった。どちらかの家、あるいは店で、他愛のない話をしながら、ふたりきりの時間を過ごしていたものだ。
     小さな命が生まれ、三人で暮らすようになり、リチャードが下の子を宿して田舎に越してからは、その回数は減った。ほぼ無くなったといってもいい。
     祖父や親類の家に招かれれば落ち着いてお茶を飲む時間も取れるが、そんな時は大抵、隣合って腰をかけているので、向き合うことはない。
     いま、ふたりの間には、ティーポットも芳しくあたたかなお茶も用意されていないが、目の前に愛する伴侶がいるというだけで、バッキンガムの胸は幸福に満ち溢れていた。
     

     リチャードがくしゃくしゃの包み紙を差し出すまでの、ほんの僅かな時間ではあったが……。
     
     


    「夕食のあとにお菓子は無し。どんなに騒いでも我慢させる。そう約束していたはずだが、違うか?」
     お茶の代わりに置いた赤と金の包み紙をバッキンガムへと寄せながら、静かな声が問う。
     それはバッキンガムがリチャードの目を盗んで子らへと与えたお菓子の包み紙だった。歯を磨く前に「チョコレートたべたい」「いっこだけ!」と代わる代わるねだられ、縋る瞳に抗えきれずに渡してしまったのだ。
     絶対に秘密にするように。でなければ、お前たちの母に嫌われてしまう……かもしれないぞ。と念入りに口止めしていたが、効果はなかったようだ。
     昨夜整えたばかりの形の良い爪は、バッキンガムを責め立てるようにトン、トン、とテーブルを打っている。
     白く細い指はまっさらな雪を人の形に模したようで、それだけ目にすれば儚く頼りなげにも見える。だがその実は決して華奢でも冷たくもない。子らの髪を優しく梳き、頬を撫で、手を握り、愛情を注ぎあたためてくれる。心を満たす熱を持っていることをバッキンガムは知っている。
     昨夜もそれは素晴らしいものだった。親としての役割を終えた彼の両の手は、バッキンガムを慈愛のぬくもりで包み込み、妖艶に指を絡ませ、眩暈がするほどの愛を伝えてくれた。バッキンガムにとってリチャードの愛はやや刺激が過ぎると感じることもあるが、それが情の深さだと思えば、歓喜に胸と身体を振るわせる以外の選択肢は無い。
     涼やかなふた色の瞳も、子らを得てより一層の表情豊かになった。幼い時分からの付き合いで、他の縁者よりもリチャードを「知っている」と自負してきたが、時にバッキンガムですら知らなかった顔を見せるほどだ。
     今もリチャードは自身の友人には到底向けないであろう冷え冷えとした眼差しを寄越している。
    「聞いているのか、ヘンリー」
     子らの前では滅多に呼ばれなくなった本当の名を薔薇色の唇が放つ。
    「もちろんだ。あんたから向けられる言葉を一言一句聞き逃すものか」
     テーブルの上にある手指に触れようと手を伸ばす。だが、バッキンガムのささやかな願いは叶うことなく、リチャードのそれは明確な拒絶の意志を持って逃げていった。
    「聞き逃していないのなら、そのゴミは今ここに存在しないはずだが?」
     そう言ってチョコレートの包み紙を見下ろすリチャードの目は、まさにゴミを見るかのようだった。
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    アメチャヌ

    DONE*最終巻特典の詳細が出る前に書いたものです、ご承知おきください。

    69話の扉絵がバッキンガムが65話で言ってた「美しい場所」だったらいいな〜、地獄へ落ちたバッキンガムがリチャードのお腹にいた(かもしれない)子とリチャードを待ってたらいいなぁ〜……という妄想。
    最終話までのアレコレ含みます。
    逍遥地獄でそぞろ待ち、 この場所に辿り着いてから、ずっと夢を見ているような心地だった。
     
     薄暗い地の底に落ちたはずが、空は明るく、草木は青々と生い茂り、湖は清く澄んでいる。遠くの木陰では鹿のつがいが草を食み、丸々と太った猪が鼻で地面を探っていた。数羽の鳥が天高く舞い、水面を泳ぐ白鳥はくちばしで己の羽根を繕う。

     いつか、あの人に見せたいと思っていた景色があった。

     まだ乗馬の練習をしていた頃。勝手に走り出した馬が森を駆け、さまよった末に見つけたその場所は、生まれた時から常に血と陰鬱な争いが傍にあったバッキンガムに、初めて安らぎというものを教えた。
     静謐な空気に包まれたそこには、あからさまな媚びも、浮かれた顔に隠れた謀略も打算もない。煩わしさからはかけ離れた、ほかの誰も知らない、誰もこない、自分だけの特別な場所だった。
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